No.33 命のない世界
死の門が開かれ、世界に怨念が溢れ出す。
それはトータナスが持ち出した、魂の淀みの部分である。誰にもある淀み、トータナスは死者の魂からそれを引きずり出すのだ。まるでそれがこの世の全てと言わんばかりに。
「ゴーレムさん!あの門を閉じるの手伝って貰えませんか?」
アギーたちはゴーレムの肩に乗った状態で門へと向かう。
「グゴゴゴゴ!!」
ゴーレムが口を開くと周囲が震えた。
「オヤスイ、ゴヨウ」
「いや、普通に喋れんのかよ!」
フラマーラがツッコむ。
「なんか最初の頃より知性がないか?こやつ」
「アギーちゃんの力の影響かしら?」
門の元へと到着する。
怨念が絶えずに溢れている。
「それではお願いします!」
「オマカセ、アレ」
ゴーレムは門へと手を伸ばし、両端を掴む。
そして門を閉じようと両手を引き寄せた。
少しずつではあるが門が閉じ始める。
「おお!ちゃんと閉じてるぞ!」
「しかし完全に閉じることは出来んか」
グレイシモンドが言う通りゴーレムの力では完全に門を閉じきることは出来ないみたいだ。
「だが時間は稼げる」
「でも出てきた死の力もなんとかしないとでしょ?もうだいぶ広がっているわ」
既に放たれた怨念が世界に広がっている。
「そうですね、どうしましょうか。何か方法は」
アギーがそういうとグレイシモンドの魔水晶に連絡が入る。
「グレイシモンド!」
「おお!グラドか!」
グレイシモンドが応答する。
「よかった!元気そうだな、君たちは今あの巨大な門の所にいるのだな。それに関して今しがた情報が入った、ヒアーからだ。あのおぞましいものを防げるかもしれん」
「流石だ!今しがたあれへの対処法を考えていたところだ!」
「ヒアーが言うにはあれらを退けた者がいたそうだ。そのものは蛇の獣人族で、怨念が子どもたちに襲いかかって来たところを庇ったら怨念が消えたというんだ」
グラドの話をきいてアギーは思い出す。
「あ!蛇の獣人って!」
「おお!アギー殿か、知り合いか?その者の腕が光を放っていたというんだ。その他にも街中の植物も光を放って怨念を遠ざけたというんだ。それにその国に生えている様々な植物からも同様な光が出てね、怨念たちを退けたそうだ」
「獣人の腕は恐らくアギーが再生させたものだ。植物も、つまりアギーの魔力が色濃く込められている。俺達やこのゴーレムさんとやらが死の力にやられないのもそれが原因だろう」
テネバイサスがそういうとグラドが手を叩く。
「流石はアギー殿!ヒアーもアギ―殿の力が関係しているかもと話していた。となればこの国も大丈夫そうだな。以前に国中に樹木を生やしていただけたし、国の側にある氷山にはあの巨大な極氷蓮もありますから」
グレイシモンドはグラドがだいぶと落ち着いた口調で話す事が気になった。
「そう言えばそっちはどうなんだ。随分と余裕そうだが」
「ああ、ここはその門より一番遠い所にある国だからね。それに先ほど言った通りこの国にはアギ―殿の加護がある!だからそうだな……他に残る所とすれば」
「ティターノさんの所です!」
「ああ、ティターノの所にもこの怨念は向かっているだろう。早めに行ってあげてくれないか」
その話を聞いてフラマーラはブラッディピークを召喚した。
彼女の封印が解けたからかブラッディピークは以前よりも力強い炎を放っている、また羽のつやも良くなったように見える。
「そうと決まればさっさと行くぞ。アタシのブラッディピークに乗ればあっという間だ。ここはゴーレムさんに任せて行こうぜ」
アギ―達はゴーレムの方からブラッディピークの肩へと乗り移った。
「ではグラドよまた何かあれば知らせてくれ。それとくれぐれも無理はせぬようにな。君のいない世界など我は御免だ」
「ヒュー♪さぁお熱いセリフも聞けたところで、いいかアギ―?」
「はい!お願いします!ゴーレムさん!ここはお願いします!」
「ガッテン、ショウチ」
「最初の印象より随分と語彙力あるのねーゴーレムさん」
アギ―の返事を聞いてフラマーラはブラッディピークに指示をする。
ブラッディピークは一瞬で加速してその場を離れて行った。
その頃アギ―の両親、父のルテスそして母のスーアはこの世界の魔王であるトータナスと戦闘を繰り広げていた。
「くっこの焔は!?」
ルテスの半身が吹き飛んでいた。
「あの異界の者たちの力、それを利用させて貰っているのだ。当然であろう、この世界は我がもの」
「どこまでも傲慢な……」
ルテスは焼けとんだ半身を元に戻した。
「しかし、この結界内は随分と息苦しいな。本来なら破壊者どもの魔力も扱えるはずが、全く返事をせん。これが貴様らの能力か、召喚と封印か」
トータナスはそういって右腕に焔を纏わせる。
「貴様らが先程から使うその矮小な力も同様に焼きつくしてやろう」
彼が腕を振ると爆炎が巻き上がる。
「そう簡単には!」
スーアが樹木を発生させてその攻撃を防ぐ。
その樹木は根を伸ばしトータナスを捕らえようとする。
「不敬なり」
トータナスは手をかざすと迫りくる樹木の根は凍りついた。
彼の背後から現れたルテスが斧を振りかぶる。
「っ!鬱陶しい!」
腕を大きく薙ぎ払うトータナス、しかしその腕はルテスの身体を通過する。
空振りしたトータナスの隙をつき、ルテスは斧で斬りつけた。
「我々が霊体だということを忘れたか!」
「更に小賢しいと来たか……!」
トータナスの顔を斬りつけたが、浅い傷がついた程度で即座に塞がってしまう。
彼は手先から怨念を放出し一振りの剣を生みだす。
「確かに霊体である貴様らには我が死の力は使えん。しかしやりようがないわけではない」
トータナスは剣を振り斬撃をルテスとスーアに向けて飛ばす。
二人はその攻撃の危険性を直感し飛び退いた。
「それに。いつまでここに閉じ込めていられると思うのだ……?我と戦いながら」
トータナスは余裕の表情をみせる。
「貴様らは、自身とこの結界内全ての命を贄としてその力を手に入れたようだが。そんなものは長くはもつまい」
「それまでに貴様をここで止めれば良いだけだ」
ルテスはトータナスを睨みつける。
「止める?我の道を止められぬものなどない」
「その道の先には何があるというの。あの門、あんなものまで使って……!」
スーアがそういうとトータナスは首を傾げる。
「妙な事をきくな?道の先には何もない、ただ死があるだけだ。この世界に死をもたらした後はまた別の世界を、我が使命が全うされたと証されるその日まで同じことを続けるだけだ」
「そんなの使命でもなんでも……!」
「スーア!」
スーアがトータナスに何か言おうとしたその瞬間、ルテスが叫ぶ。
「しまったッ!」
スーアの足元から影が伸び彼女の身体を貫いた。
「どのような存在を相手にしているか、イマイチ分かってないようだな。隙だらけだったぞ」
「これぐらい!」
スーアは大穴が空いた胴体をすぐ元に戻す。
「ふむ、すぐに元に戻るな。しかし、それはただ傷を治すのとは訳が違う。自身の魂の形を保つ為にどれ程の力を使う?」
(いかん!先程から奴の魔力が高まっている!やはり異界の力への封印が不充分だったか!急ごしらえで完全に対処できるとは思ってはいなかったが。まさかこんなに早く効力が薄れるとは)
トータナスが空を見上げる。
「どうやら、貴様らとの余興ももうすぐ終わりを迎えることになりそうだな」
すでに結界の一部が薄れはじめていた。
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