No.32 空に浮ぶ大きな扉、お父様とお母様はお元気でしょうか


その者が地上に降り立つと、彼が触れた先から植物はその色を失い崩れ去る。


彼が歩けばその土地の命は、何であろうと生き残る事は出来ない。


彼が空に手を掲げる。

すると何もない空間から扉が現れた。


様々な。生き物の骨を寄せ集め、それを泥で固めたような扉。


「我が名はトータナス、死そのものである」


泥のような浮遊体が、彼の頭上にある扉の隙間から漏れ出す。

扉が開かれると、大勢の悲鳴と共に怨念の濁流がこの世界に放たれる。


怨念が降り注いだ周辺の生命は一瞬で枯れ果て、瞬く間に大地を死の色へと塗り替えていく。


「さあ、逃れられんぞ」




「そうはさせないわ」

トータナスにどこからか声が投げかけられた。


「ん?誰だ?どこから我に呼び掛けている?」

すると彼の周囲に魔法陣が展開され、彼は転送されてしまう。


「ん?ここは、そうか貴様らか。召喚士の一族、我の邪魔をするのは貴様らか、昔もそして此度も」


トータナスの前にはアギーの両親が立っていた。

彼が転送されたのは


「この空間ではあの破壊者達の力は使えんぞ」

アギーの父が斧を構えてそう言った。


「ふん、小賢しい事を。少しばかりの延命にしかならんぞ。どうせ死ぬのだ、何を抗う必要がある?」


「分からないでしょうね。終わりしか見ていない、そんな狭小極まりない視点しか持ち合わせぬあなたような人には」


アギーの母も斧を構えた。


「何?我が人だと?我は死である!」


トータナスは魔力を手に纏わせ襲いかかる。

彼らの目の前でその魔力を放つ。


「我が名はルテス、召喚士である」

「同じくスーア」

ルテスとスーアはトータナスの魔力の中から現れ、彼を切りつけた。


「さあ、行くぞ。最も愚かな王よ」

トータナスは二人を押し返した。


「なに?我が魔力を浴びて死なぬだと」


「貴様の能力は対象に死を与える事。だが私達は既に死んだ身、死んだものを更に死なせることは出来ん。貴様の力は効かぬ!!」

アギ―の父、ルテスがトータナスを蹴り飛ばす。


「この結界の中にあるもの全てがそう!既に死んでいる、ここにあったもので生きているのは私達の娘、アギ―ただ一人よ!」

母のスーアは斧の一撃を、蹴り飛ばされた相手に振り下ろす。


「そうか、この空間にある全ての命を代償に生み出したのがこの結界か。通りで我が感知も干渉もできぬわけだ」




一方その頃、アギ―達はトータナスが開いた巨大な扉がよく見える場所に来ていた。


「一応各国の者には伝えておいたが。これは早急に対処せねば、あっという間にこの世界全体が飲み込まれるぞ」

グレイシモンドが持っていた結晶をしまいながらそう話す。


「皆さんあの扉を知っているんですか?」

アギ―が魔王達に質問した。


「ああ、アタシ達が封印される前に見た事がある。あれは死の世界に通じる門だ、あそこからあふれ出しているのは怨念や死者の魂だったりだ」


「俺たちはあれを対処するため、この世界に召喚されたんだ」


「でも結果は見ての通りよ。私達は封印されて、あの門を生み出した奴は生き残った。そして今また同じことが起きようとしているわ」


3人がアギ―の質問に答える。


「下手したら以前よりも酷いかもな。アイツは、この世界の魔王トータナスは破壊者の力を吸収した。以前我々に計画を邪魔された事を踏んでの行動だろう。それにより力を増している」


グレイシモンドがそう言うと、フラマーラがアギ―の肩をポンと叩く。


「だけど、こっちも以前と全く同じってわけじゃねぇ。今はお前がいる、アギ―。お前の先祖が私達を封印したのは、お前に託す為だったんだ」


「え、でも、私……」

アギ―が自信なさそうに下を向くと、フラマーラが軽くげんこつをかます。


「なーに言ってんだ。今まで散々やってきただろ?さっきだってマドボラの野郎をぶっ飛ばしただろ?お前にはちゃんと力がある、あとは胸張って、やるべきことをやるだけだ!」


「そうだぞ、一応、今の貴様は我々を召喚した召喚士だからな。一応、我々のリーダーという立ち位置なんだからな」


グレイシモンドもアギ―の背中を叩いてそう言った。


「さぁアギ―ちゃん、今は何をしたらいいと思う?」

アウレンデントが優しく問いかける。


「今は、今は……」

周囲を見渡すアギ―、そして何か思いついたようで動き始めた。


「どこに行きたいんだ」

煙で彼女を浮かせながらテネバイサスが聞く。


「あの倒れている破壊者さんの所に!」



マドボラごとコアが破壊されたせいか、全く動く様子のない破壊者の所にアギ―達は降りた。


「破壊者って間近で見ることあんま無かったな。デッケェなー、鉱石を切り出したみたいな感じなんだな、光の破壊者ってのは」

「こいつをどうするんだ?もうコアが抜き取られているぞ」


フラマーラとグレイシモンドはそう言って破壊者をみる。


「そうですね。でもまだ生きています。もしかしたら力になってくれるかもしれません。まずは傷を治してあげないと」


アギ―は光の破壊者だったものに触れる。


彼女の手から光が溢れ、光が破壊者全体を包み込む。


「これで大丈夫。あのー!ゴーレムさーん!動けますか?」

「ゴーレムって?」

「触れた時にそんな感じの名前なんだーってなんか伝わって来たというか」

この呼びかけに反応してか、破壊者のゴーレムは両手をついてゆっくりと起き上がった。



「うわ、うわ!起き上がるだけでも凄い迫力!」


潰されないようにテネバイサスの煙に乗り、上空へと向かうアギ―達。


「----!!」

ゴーレムはアギ―をみて声を上げた。


吹き飛ばされそうになるも、アギ―は話しかける。


「そ、そのお体は大丈夫ですか?恐らくさっきので治ったと思うのですが。えーっとその、もしよろしければなんですが……」


もじもじするアギ―、後ろからフラマーラが尻を叩く。


「いたいっ!」

「なーにグダグダやってんだ!さっさとしろ!」


「私達に協力して頂けないでしょうか!!ゴーレムさん!あなたの身体ならあの門に触れても大丈夫だと思うんです!もしそうならあの門を閉じるのを手伝って貰えないですか?」


アギ―がそう話しかけると、ゴーレムはゆっくりと後ろを振り向く。

そして門へと進み始めた。


「おおお!聞いてくれたぞ!」

フラマーラが嬉しそうに言う。


門に到着したゴーレムは門に手をかけ閉じようとする。


閉められていく事で、門から溢れ出る怨念の量が減っていく。


「これで少しばかり猶予が出来たな」

その光景をみてグレイシモンドが頷いて話す。


「後はアイツだな。にしてもどこにいるんだ、さっきから全然魔力が感じられねぇ」

フラマーラを含めた他の魔王も同様にトータナスを探しているようだが見つからない。




「貴様をここで倒さねばならん!」

ルテスが斧を振りかざし、トータナスに攻撃を仕掛ける。


「ふん、能力が効かぬからと言って貴様らに劣る我ではないぞ!」

彼が迎撃しようとしたその時、彼の手足が植物に絡めとられる。


「これは?!」


「アギ―程ではないけど、この空間でなら私達だって使えるのよ」

スーアの力により操られる植物、これにより拘束されたトータナス。


一瞬動きが止まった彼にルテスが渾身の一撃を叩き込む。


「グっ!!」

大地を割る程の勢いで斬り飛ばされるトータナス。


「運命に抗おうとは、なんとも愚かなものたちだ!」

彼はすぐさま飛び起き反撃する。


「貴様が運命だとでも言うのか貴様には何もない。ただの歪んだ入れ物だ!!」

ルテスが彼の攻撃を受け止めた。


「黙れ!!我はトータナス、死そのものである!!」


「誰よりも命を軽んじている者が口にしていいものではない!死という言葉は!」

「あなたはただ、自分の力に溺れているだけよ!」

ルテスとスーアに押されるトータナス。


しかし

「その程度の力しか持たぬものが、我に意見などするんじゃない」


「ッ!!?」

ルテスの右肩から先が無くなっていた。


その断面には炎で焼かれたような跡が。


「我に死の力しかないと思ったか?」

トータナスは左腕から炎を発していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る