No.34 結界崩壊
もうすでに結界の効力が薄れ始めていた。
「貴様らの結界の効力が弱まっていくのを感じるぞ!確か我を止めるといったな?実現できそうか」
トータナスは更に激しく攻撃し、ルテスとスーアの力を削ろうとする。
対抗しようとする二人、しかしもう力は減っていく一方だ。
動きに追いつくことすらままならない。
「抵抗するならば、もう少しはりきって欲しいものだな。この死んだ者達の空間も限界のようだ。貴様らを消した後は、あの娘だ。アイツを殺せば全てが終わる」
トータナスの言葉に反応するルテスとスーア。
「貴様!」
「よくも、そのようなことを親の前でいえたものね……!!私達のこの領域で唯一生きているあの子を、失うわけにはいかない!」
二人は一斉に攻撃をしかける。
怒りをのせた攻撃、しかしもはやその刃はトータナスには届かない。
「もうよい」
剣の一振りで二人は吹き飛ぶ。
二人が持っていた斧がトータナスの足元に転がって来た。
「これは?なんだくだらん儀式用の斧か、こんな物でよくもまあ我が体に傷をつける事が出来たものだな」
「それに触れるな。貴様のような者が触れて良い物ではない……!!」
起き上がりルテスは声を荒げる。
「指図をするな」
トータナスはその斧を踏みつけた。
「さて、そろそろ貴様らの結界が解ける頃合いだろう」
彼はそう言って剣を振り上げる。
ルテスとスーアが諦めたその瞬間、トータナスに向かって焔、氷塊、雷が降り注ぐ。
そして煙が二人を包み守った。
トータナスが後ろに跳び下がる。
「この魔力は」
「あなた方は!」
ルテスがその姿をみて声を上げる。
「よぉ!随分と好き勝手やってるじゃねえか」
焔と共に現れたのはフラマーラだった。
彼女に続いて他の魔王たちも現れた。
「ほお、古き世界の覇者たちが今更やって参ったか。随分と悠長なものだ。おや?貴様らの主である召喚士の娘はどうした」
トータナスは特に驚く様子もなくそういった。
「アイツにはまだ仕事がある、テメエが呼び出してくれたあの小汚え門の対処があるからなっつーわけで!」
フラマーラは弓をつがえた。
「ようやく見つけたぞ。貴様で最後だ」
グレイシモンドが剣を構える。
「もう仲間はいないぞ」
テネバイサスがそういうと、トータナスが首を傾げる。
「仲間?妙な事を言うな闇の魔王よ、そんなものはまやかしだ」
「どちらにせよあなたはここで終わりよ」
アウレンデントがアギ―の両親を背にして立つ。
「耀の魔王か、貴様らは先ほどからおかしなことばかり言うな。まるで我を下せるとでも言っているようだ。忘れたのか?貴様らがこの世界に呼び出され戦ったあの時を、我に成すすべなく、逃げるように封印されたのだぞ?それに……」
トータナスの発言を遮るようにフラマーラが焔を放つ。
「テメェはそれ以上話すんじゃねぇ!!」
しかしその焔はトータナスの身体に吸収されていく。
「ふん、貴様らの魔力なぞ最早効かぬ」
「なんだと?」
「我は貴様らの魔力を吸収している。つまり貴様らが国一つ消し飛ばそうが、それが魔力を用いたものである以上は、我の力になる」
トータナスは焔を放ち返す。
「フラマーラ!!」
テネバイサスがフラマーラを突き飛ばし、煙の壁を生み出した。
あらゆるものを吸収するテネバイサスの煙。
しかし、焔は煙に飲み込まれる事なく突き進み、テネバイサスの左腕を飲み込んだ。
「ッ!ダメか!」
「ダーリン!!」
アウレンデントが駆け寄る。
彼の左腕から色が失われ、灰色へと変色していた。
変色した腕はボロボロと崩れ落ちる。
「貴様らの介入なぞ、我にとってはなんの支障にもならない。貴様らはいてもいなくても同じだ」
手から怨念を放ちながら話すトータナス。
「こちらの力は吸収され、相手の死の力は健在、そういうことか」
「そうだ、冰の魔王よ。貴様らは既に詰みなのだ。どうあがこうがな」
テネバイサスの崩れ落ちた腕をみてトータナスはそういった。
「……だったらなぜ、そう貴様は焦っている?」
「何?焦っているだと?」
腕の事など意に介さないようにテネバイサスガ話す。その言葉にトータナスは反応した。
「そうだ、お前は焦っている。これほど圧倒的な状況だと言うのにだ」
「貴様は兵力をこしらえ、兵士を強化するための研究を推し進め、食料を大量に用意させている。なのに自身が統治している民により効果的な活動をさせるための経済は全く興味がない」
「まるでどこかと今すぐにでも戦争をおっぱじめようとしてるみたいだな」
テネバイサスに続いてグレイシモンドとフラマーラが問う。
「わざわざ聞くとは、既にマドボラの記憶を見たのだろう?まあ、良いだろう。我はただ使命を全うするだけ、全ての世界に死を訪れさせる事、それこそが我が使命なのだ。その為であればこの世界なんぞただの使い捨てる消耗品だ」
彼の話を聞いてフラマーラは鼻で笑った。
「ふん、バカバカしい、ただ自分の力を見せつけてぇだけじゃねぇか。それを使命だのなだのと御託並べて飾りやがって」
「それに焦っているかどうかについての返答も貰っていないな。ハッキリ言おう、貴様はアギ―を特別警戒しているな」
グレイシモンドは彼女に続いてそのように話した。
「あの娘か。それは違うな。警戒しているのではない、気に食わんのだ」
トータナスはそう答える。
「あの者は生を与える、死にゆくものも奴が触れれば生き返る、道理に逆行している。それはこの世の摂理への冒涜とも取れる行為だ」
「また訳の分からん言いがかりを」
フラマーラが頭をポリポリかいてそう言う。
「貴様らの理解など必要ない。貴様らはここで消える、ただそれだけだ」
トータナスは怨念を腕から再び放つ。
「させるか!」
ルテスが樹木を発生させてその怨念を逸らした。
しかし彼は、ガクッと膝を折り地面に倒れそうになる。
彼の身体が消え入りそうになる。
それと同時にスーアも体に力が入らないのか倒れてしまう。
「おい!」
「そいつらはこの結界と共にいる、そしてその結界は既に崩壊し始めている、貴様らが入ってこれたのが何よりの証拠だ」
トータナスが言う通り結界はもう崩壊し始めていた。
それにより彼の魔力を抑え込むものは完全になくなってしまう。
「さて、この窮屈な状態も終わった。貴様らもろともこの世界に死をもたらしてやろう。今度は逃がさんぞ!」
今まで以上の魔力を放つトータナス。
長年にわたり蓄えた魔王達の魔力、そして破壊者たちから生み出した魔力のコアにより空間が歪んでみえる程の魔力をその身から放出していた。
それにより結界の崩壊は加速していく。
同時にルテスとスーアの身体が段々と透けてゆく。
「……ッ!!」
その二人をみてフラマーラ達は彼らがもう長くない事を悟った。
「どうかそのような顔をしないでください……どのみちあの者を完全に封じ込める事が出来なかった時点で我々がこうなるのは決まっていましたから。アギ―には最後まで本当の事を言えなかった……という唯一の心残りはありますが」
「皆様、どうか教えてください、あの子は立派になりましたか?」
二人は消え入りそうな声で話す。
「ああ、今まさに国々をまわり、この死の力から人々を守る為の策をこうじているところだ。これも貴方がここまで時を稼いでくれたおかげだ」
グレイシモンドがそう答える。
「あいつはビビりでしょうがない奴だが、きっと私達のだれよりも強い」
フラマーラが優しい声でそう言った。
「大きな仕事を生まれながらに背負った者は時にその重圧に押しつぶされる事がある。しかしアイツはそれをものともせず、いつも笑っている。大したやつだ」
「ええ、私達がここまでこれたのも全部アギ―ちゃんがいたからですよ。あんな素敵な子を育てのはお父様、お母様、あなた達二人の力です」
テネバイサスとアウレンデントがそう伝えるとアギ―の両親はその目にうっすらと涙を浮かべた。
「そうですか、そうですか……」
「アギ―はこんなに素晴らしい人たちに巡り合えたのですね」
二人はそう言うと斧を魔王達に渡した。
一度は手放してしまった斧だが、どうやら再び手元に取り戻したようだ。
「これは我が一族に伝わる祭具です。どうかこれをあの子に」
「そしてどうか、愛していると伝えていただけませんか」
二人の身体は殆ど消えかかっていた。
斧を受け取った魔王達は頷き、承諾した。
それをみたルテスとスーアは最後に互いの手を握る。
そして二人は完全に消えていった。
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