No.21 皆さんに手料理を振舞います!


資源力の国、そこは一見すると緑豊かな国。

しかし国民はやせ細り、怪しい薬で農作物を育てている。


アギ―とヒアーはそんな国にある街の視察を終えて、小屋に戻って来た。


「ただいまですー」

「お帰りなさい、色々観れたわね~」


帰ってきたアギ―の頭を撫でるアウレンデント。


「この国の人は誰も彼もお腹を減らしているようでした」


「先ほどもお伝えした通り、供給される食糧は限られており。飢え死にしないギリギリでなんとか生活しているのです。もう腹の虫も泣く事を諦めてますよ」


ヒアーがそう言って自身の腹をさする。


「これだけ色々作ってるのに殆ど自分の口に入らねぇなんてな」

「なんとも酷い事するわね。そんな食料供給じゃ張り切ってお仕事も出来ないでしょうに。まあそれよりも自分の食い扶持増やす事の方が大事って事なんでしょうけど」


フラマーラとアウレンデントがそう話していると、アギ―は何かをひらめく。


ごそごそと鞄の中から袋を取り出した。


「では皆さんでご飯食べましょう!ちょっと畑お借りしても良いですか?」


アギ―は小屋の外にある畑に種を植える。

するとあっという間に沢山の野菜や果実が実った。


「ヒアーさん、他の人も呼んできてください!すぐに用意するので!」

「え、ええ。畏まりました」

ヒアーはアギーに言われ、集落の人たちを集める。


「さぁみなさん!沢山あるのでどんどん食べて下さいね!」


アギーは小屋の中でドンドン料理を作り、お手製の樹木の大きなテーブルに並べていく。


「う、うまい!!こんなメシが食えるなんて!うっうっ……」

「ありがとう!温かいうまいご飯なんて……もう食べられないと思ってた」


住民は涙ぐみながらアギ―の料理を口に運んだ。



「おい貴様ら!何をして……なんだその飯は!」

「あ、あの時の兵士さん」


こんな騒ぎがあれば当然ではあるが、兵士が駆けつけて来た。


「よーやっとワタシ達の出番か」

「ずっと室内にいたから丁度良いわ」

「騒ぎが大きくならないように、我らでさっさと片付けるか」

「ついでに情報も貰うか……なるべく殺すなよ」


魔王達が兵士たちの前に出てきた。


「え、なんだこいつら……やる気凄い、と、とりあえずやっちまうぞ!」

「やー!」


兵士たちは魔王たちに飛び掛かる。


魔王達に死なない程度にボコボコにされ、兵士たちは地面にうずくまっていた。


「……こいつで良いか」

兵士にテネバイサスが近寄る。


煙で相手を持ち上げて、相手の頭に手を差し込む。


「さて、お前らの知っている事を教えてもらおうか。お前らの統治者についてだ、それともこのまま貴様の頭を内側から潰してやってもいいんだぞ」


「ひっ!話す!話しますから!」


兵士たちは怯えてはなし始める。


「イビルハンガー様は突然現れて今の座につきました。それまでの統治者は行方知れずで」


「最近は他国に送る予定の食料すら最近は手を出すようになってきました。それに加えて近頃自身が食べるものに変な白い粉をかけるようになりまして、そのせいか悪食に拍車がかかるように」


「そのせいで俺たちの食料もどんどん減らされて、今じゃあ農民と殆ど変わらない量しか配られなくなって!」


ペラペラと話す兵士たち。



「はぁ、話しちまった……」

「おれらイビルハンガー様に何されるんだろう」

「いや、それよりもこの人たちに殺される方が先だろう……」


兵士たちは正座しながらこれからの自分の身に起こる事を想像して落ち込んでいた。


「さ!みなさんもどうぞ」

そんなしょんぼり気味な兵士たちの前にアギ―が料理を乗せた皿を差し出した。


「え?」

「みなさんもお腹空いてるんですよね?どうぞ冷めないうちに」


兵士たちは一瞬お互いに目を合わせた、そして出された料理にがっつき始める。


「はふっはふっ!温っけぇ!うめぇぇッ!!」

「なんて優しさを感じる味だ!」

「自然と涙が出てくるぜ……」


ペロリと平らげて皿を綺麗にした。


「その声、あの時に林檎くれたお嬢さんか」

その中に先程会った蛇の獣人だった。


「へへへ、あの林檎は喜んでもらえましたか?」

「あ、ああ。イビルハンガー様はちょっとりんごが好きじゃなかったみたいでな。いやーお嬢さんみたいに料理が美味かったら有無も言わせず気に入って貰ったのによ!シャーシャッシャッ!」


蛇の獣人はそう言って笑った。


「良かったら今度教えますよ!」

アギー笑顔でそう答える。


「お前らに本当に毎日、ごめんなぁ」

料理で腹も心も満たされたからか、獣人の兵士達は農民に謝り始めた。


「いえいえ、兵士さん達もお腹すかせてるの私達も知ってましたから」

頭を下げる兵士達に農民達は頭を上げるように伝える。


「お前らの親玉は突然現れたって言ったな。そいつも獣人なのか?」

グレイシモンドが聞くと獣人達が一瞬お互いの顔を見合った。


「それがよく分からないんです。というのも俺たちは基本的になんの動物の獣人かってわかるでしょ?でもイビルハンガー様に関してはなんの動物か全く分からないんですよ」


「俺達はそんなに数が多い種族じゃないから、お互いの事は大体顔見知りだったりするんです。けどイビルハンガー様に関しては誰も、何も知らなくて」


兵士の二人がそう答えると他の兵士も頷いていた。


「では先代の統治者というのは?どういう人物なんだ?」


続けてグレイシモンドが質問をする。


「ええ、とっても偉大な御方で、ライオンの獣人らしい立派なたてがみが特徴的な御方だったなぁ。元々統治者になる前から俺達獣人族の長だった方なんですよ」


兵士達は懐かしそうにそう話す。


「皆さんは色々変わって行く中で頑張ってたのですね、すごいです!」

「ううう、お嬢さんの優しさが心に染みるぜ」

「我々もです」

兵士だけでなく農民たちも頷いて涙ぐむ。


「変わったと言えば、幹部連中だよな」

すると一人の兵士がそう口にする。


「変わったってどういう感じにですか?」


「この前も昔からつるんでた奴が幹部になったんで声をかけたらすげーそっけない態度で、兵士だった時は全然そんな態度取るような奴じゃなかったんです」

「うちはイビルハンガー様に気に入られらた兵士は幹部に昇進できるんです。待遇もだいぶ良くなるって話ですが、でも幹部になった奴等はみんなそんな感じで、途端に人が変わったようになるんですよ」


「人が変わる……地位を得たからそれで気持ちが増長したとかでしょうか。どう思われますか皆様は」


兵士たちから初めてその話を聞かされたヒアーはアギ―達に質問した。


「確かに人は権力や地位を得た途端に変貌するものだが、だとしても全員が全員まるで判を押したように変わるとは考えにくい」

テネバイサスがここで答えた。




「イビルハンガー様を倒しに来たんですか?!」

アギ―達の話を聞いて驚く兵士たち。


「そうだ、だからもうそろそろお前らのとこの城に行くぞ」

「え、もう行くんですか?」

「ここで悠長にしている理由もないしな」

フラマーラとテネバイサスはそう言ってアギ―の手を引いて立ち上がる。


「それじゃあ私達行ってくるので!」

アギ―が家を出ながらその場にいた者達に手を振った。


「なんかイビルハンガーさんって方は今までの国の統治者様とは違うみたいですね」

「随分な嫌われ者みてぇだな。寧ろ今までの連中が甘ちゃんなだけだ」

フラマーラとアギ―がそう言って路地に出ると後ろから兵士たちがガシャガシャと音を立ててやって来た。


「ま、待ってください!お、おれたちも行きます!」

「当然、私達も!」

兵士と共に諜報部員の者達と農民も各々武器になりそうな農具等を持って並んでいた。


「帰れ、おまえらが来たところで大した差はない」

テネバイサスが兵士たちの前に立つ。


「で、でもよぉ、あなた達が勝てばアイツの支配が終わるんだろ!?アイツに飼い殺しにされるのはもう懲り懲りだ!それに飯を食わせて貰った恩がある!」

「私達ではせいぜい露払い程度しか出来ませんが何か手伝わせてください!」


そう言う兵士たちをテネバイサスが一睨みする。一瞬兵士たちは怯えるがそれでも退かない。


「……勝手にしろ。こっちの邪魔はするな、貴様らを巻き込む事になっても知らんからな」

テネバイサスは振り向いて歩き始める。


先を進む彼の背を見て微笑むアギ―。


「皆さん無理は禁物ですよ!」

兵士たちにそう言って彼女は魔王達の後を追いかける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る