No.20 ツヤツヤした兵士さんがいました!統治者の方はよく食べられる方のようです


魔王達に代わって資源力の国の様子を観に出たアギ―とヒアー。


二人は農作業用の服装に着替えていた。

これがこの国の民の普段着だ。



「街中も色々ありますね!」

最初こそ新しい街に来てテンションが上がり意気揚々と見て回るアギ―だった、しかし街中にある植物をみて彼女の顔が曇っていく。


〈どうした?腹でもいてぇのか?〉

アギ―の気持ちを汲み取ったフラマーラが話しかける。


〈……やっぱり他の植物さんたちにも元気があまりないような〉

〈青々と生い茂ってるから元気いっぱいそうだがなぁ、よく分かるもんだ〉


街中の植物を見るアギ―。


〈そうなんです、でもなにか違う感じが……〉


脳内で会話をしながら街を進むアギ―。



集落をある程度進むと大通りに出た。


「ここからは各所に兵士が見張っていますので、私から離れないようにお願いします」


「わかりました!」

ヒアーの後ろから離れないように近寄るアギ―。


「この街は他の国と違って緑いっぱいですね。元からこうだったのですか?他の場所は熱かったり寒かったりしたので」


「え?ええ、もとより緑豊かな土地と聞いています。アギー殿はどこの生まれですか?」


ヒアーの質問に対してアギ―は少し首を傾げた。


「私は……うーんどこの国でも無いんです。ずっとお家とその周辺しか知らなくて。お父様とお母様の立派なお家でとっても広いんですよ!小さい頃はよく迷子になっていました」


その話を聞くとヒアーはなぜか微笑む。


「まるでそれではお姫様のようじゃないですか。このような状況下でも冗談が一つ出せるとは、常に余裕を忘れない精神、我々も見習わねば」


「本当なんですよー!」

どうやら場を和ませる為の冗談を言っている物と思われているようだ。




「おい!お前!」


「ひっ!」

突然の声に驚くアギ―。


まさか正体がバレたのか、恐る恐る声の方向へ振り向く。


「まだ収穫出来てないってどういうことだ!?」


一安心、アギ―に向けてかけられた声ではないようだ。しかし、なにやら兵士の格好をした者が一人の老人に怒鳴っている。


「あれ?あのお方何やらツヤツヤされてますね」

その兵士は人のようなシルエットではあるが顔はトカゲで尻尾もあった。


「あれが獣人です。この国の兵士は皆、獣人で構成されています」

「へぇー、そうなんですね。はじめてみました!」



トカゲの獣人兵に怒鳴られている老人は頭をゆっくりと下げる。


「あの成長薬がないとこれぐらいはかかってしまうものなので……すみません」


「なにぃ!?うーん、成長薬は次の入荷待ちだからな。だがお前の分が納品されないと困るんだよ!ただでさえ最近収穫量がまた落ちて来たってイビルハンガー様ピリついてるんだからさぁー!」


尻尾をピシピシと地面に叩きつけている、イライラしたり落ち着かないとそのような行動を取るのだろうか。


「アギ―殿、お気になさらずに。あれは日常的な光景ゆえ、今は目立たずに……」

ヒアーがそう言って振り向くとアギ―はそこにいなかった。


「あの、兵士様」

気付けばアギ―はその兵士に声をかけていた。


(あ、アギ―殿ォッ?!)

慌てて二人の元に駆け寄ろうとするヒアー。



「ん?なんだおまえ」


振り向くトカゲの獣人。

ツヤツヤとして鱗にギョロッとした目でアギ―を見た。


「すみません、何か勘違いがあったみたいで。収穫終わってます!」

アギ―は林檎が沢山入ったかごを持っていた。


「あれ?お前みたいな奴いたか?」


頭に頭巾をかぶり顔が見えにくいようにしていたアギ―、その頭巾を覗き込もうと兵士は顔を前のめりに出してきた。


「え?!そ、それよりもこちら!どうぞ!食べてみて下さい!統治者様にお届けする前に!」


顔を完全にみられる前にアギ―はかごを兵士の顔の前に出す。


スンスンと音をたて香りを嗅ぐ兵士。


「ああ、確かに良い香りだ。いや本当にいい匂いだな、美味そうだ。じゃなくてそうだな、たまに毒味するのも大事だもんな」


兵士は林檎を手に取ってかじりつく。

すると兵士は目をカッと見開いた。


「んん!?なんだこれ!?うめぇ!!旨すぎるっ!噛んだ瞬間にさわやかな風が駆け抜けたぞ!みずみずし過ぎてこの旨味に溺れるかと思う程だ!果汁が全身に染み渡る!」

兵士は笑顔で残りを食べつくし、その老人とアギ―の手を取った。


「シュールルルッ!!こいつぁ良い!でかしたぞジイさん達!こいつをイビルハンガー様に献上したらおれの顔を売り込めるってもんだぜ!そんじゃあ早速持ってくぜじゃあな!」


そう言ってルンルンで兵士はその場を去って行った。



「おお、あんたらのお客人か道理で見掛けない顔なわけだ。先程はありがとうな」

「いえいえ!皆さんに喜んでもらえて何よりです!」


ゆっくりと礼をする老人の手を取ってアギ―はニコッと笑って返した。


「しかし、凄いね。あんな事が出来るなんて、あなたは神の使いかい?」

「え?神様?そんなぁ、大したこと無いですよぉ~」


褒められたのだと思い照れるアギ―。


「ごめんな爺さん、ちょっと先を急いでてね。さあ、先に進みましょう」

ヒアーにそう言われ、アギ―達もその場を去った。


「その、お気持ちは大変嬉しいのですが、なるべく目立つ行動は控えて頂ければと」

<本当だぜ、全く>

ヒアーの注意と共にアギ―の脳内に聞こえるフラマーラの声。


「あはは、すみません」



「そういえば先程は一体どのようにされたのですか?貴女様があの木に触れた途端、急に実がなったように見えたのですが。まさかあなたも成長薬を?」


ヒアーの質問に対して首を横に振るアギ―。


「いいえ!お薬じゃなくて少しばかりあの子に元気を分けたんです。この街の植物はだいぶ疲れているようでしたので、少し元気になるようにしたらお礼にあの林檎をくれたんです!」


「元気?くれた……?」

全く理解できてないようなヒアー。




それからしばらくしてアギ―達が小屋に戻っている時、イビルハンガーの居城にて。


城の奥には何人かの兵士が作物を持って並んでいた。


「おい、イビルハンガー様はいらっしゃるか?」

先ほどのトカゲの獣人兵だ。


城にいた鳥の獣人警備兵に話かける。

鳥は鳥人と言うべきだろうが、この世界では鳥類も爬虫類も獣人と区別されているようなのでそれに従って獣人と呼ばせて頂く。


その鳥の獣人兵が振り向く。


「ああ、なんだお前も納品か。ん?なんか随分と良い匂いだな」

「だめだぞ!やらねぇぞ!」


かごを後ろに隠すトカゲの獣人兵。


「バーカ、そんな事したらおれがイビルハンガー様に食われちまう」

鼻で笑う鳥の獣人警備兵。


「シュールルルッ!確かにそうだな。おっと俺の番だ、悪いが今度会う時は俺は幹部になってるかもなぁ~」


トカゲの獣人兵は開いた扉の中に入って行く。



バリッ!ボリッ!

何かを勢いよく食べる音がその部屋には響いていた。


部屋の中には黒い霧のようなものが至る所に漂っており、先の音も相まって決して居心地の良い場所とは言えない。


「い、イビルハンガー様!本日もお元気そうで何よりです」


トカゲの獣人兵は少し声を震わせながらそう言った。


「ん~~~~?お元気そう?」


彼の前には丸々と太った大男がゴチャゴチャと飾られた玉座に座っていた。


玉座というよりはもやは台と言うべきか。

その前にトカゲの獣人兵は林檎の入ったかごを置いた。


「お元気そうかぁ?俺は腹が減って仕方ないのにか?嫌味いってるのか?」

イビルハンガーがそう言ってギロッと兵士を睨みつける。


「いえいえ!そんな滅相も無い!イビルハンガー様の飢えを少しの足しになればと。こちら私の管轄で採れた林檎でして、みてくださいこの色艶に芳醇な香り!これ程の逸品は私は見た事がありません!」


トカゲの獣人兵はそういって林檎一個取り出して見せた。


「ん?林檎?そんなに早く収穫できるのか?まあいい」

「さあこちらを……あれ?」


イビルハンガーに差し出そうと足元をみた兵士だがそこにかごは無かった。


かごはイビルハンガーの手元にあり、彼は何かをかごに振りかけている。


「これをかけて振りかけて……うーん、足りん!こんなので俺の飢えが満たせるかっ!!さっさと次の食糧をつくってこい!」

かごごと口に放り込んだイビルハンガーは怒鳴り散らす。


「も、申し訳ありません!!」


逃げるようにその場を飛び出したトカゲの獣人兵。


「はぁ~あ」

「なんだ、その様子じゃあ幹部様は無理だったか?」

彼を見て笑って近寄って来る先ほどの警備兵。


「うるせぇ」



「いやだッ!いやだ!!」

二人が話していると何やら城を引きずられる者がやって来た。


「うわ、あいつって」

「ああ、食糧ちょろまかした奴だよ」

その者をみて二人はヒソヒソと話す。


「頼むって!!俺たち友達だろ?!昔はよく一緒に遊んだじゃねぇかよ!」

「……」

引きずられながら必死に訴えかけるが相手はなんの反応もしめさない。


「なんかみんな幹部になると随分と人が変わるよな。あそこまで冷酷になれるか?」

「しょうがねぇだろ、仕事をちゃんとしなきゃ自分が……な。まあ確かにみんな人が変わっちまったって言うけどよ」


二人がそのやり取りを見ているとイビルハンガーの元に引きずられて行った。


「お、お願いです!お許しをッ!!」

相手は起き上がり、許しを懇願しようとする。


「え……」

彼の頭には白い粉が振りかけられていた。

次の瞬間、彼は頭上から来た何かに飲み込まれる。


「ふん、貴様なんぞの話に付き合ってやれるほど俺は暇じゃないんだ。早くこの腹をみたさないといけないんだよ」


部屋にまたあのバキッ、ボキッという音が響き渡る。

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