No.19 資源力の国は緑がいっぱい、ですが何か変な感じです


グラドが資源力の国に送り込んだ諜報機関のヒアー、彼からこの国の現状を報告してくれた。


その中で彼は妖しい光を放つ液体が入った瓶を取り出す。


「なにかキラキラしてますね」


「我々が入手したものです。試したところ、この薬品は植物等を急速に成長させる効能があることが判明しました」


瓶をテーブルの上に置き説明するヒアー。


「ここの統治者は闇の力を使うんだったよな。そんなことできるのか?」

「いや、俺が持つ闇の力には何かの成長を促すなんて便利なものはない」


グレイシモンドの問いに首を横に振るテネバイサス。


「ちょっとお借りして良いかしら。うん、やっぱりそうね。この力は私の光の力ね。ほんの微かな量しか感じ取れないけど」

瓶を手に取ったアウレンデントはそう言った。


「光の力……光の力は技術力の国を統治するマドボラが所有しているはずです」


マドボラ、それが技術力の国の統治者の名前のようだ。


「技術か、という事は資源力と技術力の国は裏で何か行っているのか」

「ええ、そのようです。その薬品は1年前から使用されているようでして。グラド様はいち早くそれに気付き我々を送り込んだのです」


グレイシモンドの発言に頷くヒアー。


「彼が国内で食料を生産していたのはこれが原因か」

「はい、グラド様はこの国から来た物資は全てご自分で検査される程の徹底ぶりで」

ヒアーは部屋の隅に置いてた袋を持ちだした。


「これがこの薬品で育てられた作物です」


その作物を手に取るアギ―。


「アギ―何か分かることはあるか?」

「うーん、なんでしょう、とっても大きくズッシリとした重さもあるのですが……なんででしょうか、中身が空っぽのような気がして」


手に取った作物を見て首を傾げた。


「食っていいか?」

「え?ええ、どうぞ。先に言っておきますがお世辞にもいい味では無いですよ」

フラマーラがそう言って作物をアギ―から貰い、食べようとする。


「あーん」


作物にかぶりつく。

「どうですか?」


「うん、まっずい。つーかこれ食ったことあるわ。ティターノの所で兵士騙して飯貰っただろ、あれだ。でもあの時よりもマズイ」


渋そうな顔をして飲み込むフラマーラ。


「もしかしたら投薬量が増えたのか、まあこいつの舌が馬鹿でなければ」

「なんだと!!じゃあてめぇもこれ食ってみろ!オラァッ!!」


フラマーラはグレイシモンドに飛び掛かる。


「なっ!!?やめんか馬鹿者!そんな怪しいものを!!」

「往生際が悪ぃな!観念しろ!」


「あーもう二人とも何してるんですか」

取っ組み合っているフラマーラとグレイシモンドをなだめようとするアギ―。


結局グレイシモンドはフラマーラに無理やり作物を食べさせられた。


「ははは!どうだ!」


高笑いするフラマーラ、グレイシモンドは顔色を悪くしていた。


「ぐっ!!なんてひどい味だ……」

「何してるんだ……全く」


テネバイサスがグレイシモンドの背中をさすっている。


「お二人とも何ともないですか?」

「ああ、味以外は特に問題はないな」

「そういえば、ここの国民が渡してた食料食った奴はなんか変な感じになってたな」

フラマーラとグレイシモンドには特に何も起きていないようだ。


「その件に関しても調査中です。何かを食べて民が暴走するなんて話は聞いたことが無かったので。恐らくはこの薬品の新型が開発され、その実験が行われたかとは思いますが」


「わざわざ自国でそんな騒動を起こしたところで大したメリットも無いしな。完全なコントロールが出来るのか、凶暴にするだけなのか見分けがまだ出来んが。何を企んでいるのか……」


テネバイサスがそう話すとアウレンデントは瓶を机の上に戻す。


「そのイビルハンガーって統治者はどんな人なのかしら?」


「そうですね。獣人種と呼ばれる種族と言われていますが、少し異質な獣人種でして。基本的に自分の飢えをしのぐ事しか考えてない人物です」


「飢えをしのぐって統治者の方もあまり食べられてないのですか?」


アウレンデントはヒアーの返答を聞いてアギ―が質問を加えた。


「いいえ、寧ろその逆です。国中から巻き上げた食糧の多くを奴は独占しています。勿論集められた食糧には国外に出さねばならないものも含まれています。ですがその分を避けた残りは殆ど奴が平らげてしまうそうです。恐らくこの植物の成長を促進させる薬もより多く自分の取り分を増やす為かと」


その話を聞いて鼻で笑うフラマーラ。


「だとしたら相当な馬鹿舌だな、大量の飯って言ってもこの味だぜ?」


「そいつはいつごろからこの土地を統治していたのだ?」


「5年前です、それまでもこの土地では農作物を作っていたのですが。イビルハンガーが来てからみるみるうちに住民はやせ細って行ったと聞いています。最初は餓死するものも多かったと、ですがそれでは労働力が確保できないという事で今は死なないギリギリの食料を与えられているという所ですね」


イビルハンガーという統治者は他の統治者に比べてかなり統治期間が短いという事らしい。




「とりあえず外に出てみましょう。街を案内します……」

そう言ってヒアーは一行に街を案内しようとしたのだが。


「なんだよ」

フラマーラ達をみて不安げな顔をするヒアー。


「いえ、皆様よく見なくても、かなりその、人目を惹かれる外見をされているなと思いまして」


確かに彼女たちはかなり目立つし、彼らもそれを隠すつもりは毛頭ない。


「では私が行きますよ!」

アギ―が手を上げてそう言った。


「もし何かありましたら、こうやってお呼びしますので!ムムッ」


両方のこめかみに指を当てて目を閉じるアギ―。


<こんな感じでっ!!!>

魔王達の頭の中に大音量のアギ―の声が響く。


「うるさっ!」

咄嗟に耳をふさぐフラマーラ。


<ああ、ごめんなさい。こんな感じで>


今度はちゃんと声のボリュームを下げたアギ―。


<これって私がやってた奴ね>

<はい、便利だなーと思って!>


アギ―は以前アウレンデントが行ったテレパシー法を真似てみたようだ。


<ふふふ、嬉しいわ。上手に出来たわね。そうだ!もう一つ便利な使い方を教えてあげるわ。頭の中に意識を集中させて。見えた映像、聞こえたものを映し出すイメージをしてみて>


<こ、こんな感じですか?>


彼女の言う通りにすると魔王達の脳内にある映像が流れ込んで来た。


<おお!なんだこれ>


<これでアギーちゃんが見聞きしたものは共有されるようになったわ>



突然黙った一行をヒアーは不思議そうにみていた。

「皆様は先程から何を?」


「少しばかりのレッスンよ。それよりあなた、とりあえずアギーちゃんを預けるけど。もし私達を騙そうとしたり、アギーちゃんに妙な事をしようとしたら……」


アウレンデントはヒアーに目線を向ける。


「こわーい私達が承知しないからね」


「もちろん!グラド様の大事なご友人方にそのようなことは!命に代えても守りきります!」


ビシッと敬礼するヒアー。

やはりこういう時のアウレンデントはちょっぴり怖い。


「それじゃあ参りましょー!」

「気をつけてねー」


魔王達に見送られてアギ―はヒアーと共に家を出た。

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