No.5 渡る世間は兵士さんばかり、です

アギ―達と魔王はアギ―の両親が張った結界の外に出た。

そして今、この旅最初の街の前まで来ていた。


「ここに来るまでに結局1回しか敵にあわなかったな」

「確かに、もう少し歓迎されるかと思ったが」

「意外とすんなり来れたわね、それにしても」

「……また気絶してたな」

魔王達に見られて小さくなるアギ―。


「すみません……」



街には門や城壁などは無かった。

なのでテキトーな場所から街に入る。


すると、黄金の魔王アウレンデントがアギ―を呼び止める。

「アギ―ちゃん、お金は持ってる?」

「はい!お母さんに渡して貰いました!」


呼び止められた彼女は袋を一つ取り出す。

中には立派な宝石がいくつも入っていた。


「あら……じゃあこの素敵なお金はとっておかないとね、お母様からの大事なお金だから♡アギーちゃん、空っぽの袋ある?」


アウレンデントはアギ―に空の袋を取り出すように頼む。

アギ―がそれを彼女の前で広げるとアウレンデントはその中に手を入れる。


すると、みるみるうちに袋はふくらみ、その重さで袋の位置が徐々に下がっていく。


「はい、いいわよー」

彼女が袋から手を出すと、中は金貨が窮屈そうに詰まっていた。


「これは?」

「これ使ってお買い物してね」

アギ―は袋から一枚の金貨を取り出す、ピカピカに光る綺麗な金貨。


「私が支配していた世界ではね、貨幣って紙とか使って物を買ってたの。便利よーその紙があれば、農民や王でなくとも好きなものを買えて成り上がる事も出来るんだから。まあその大本は私が抑えてるけどね」


「でもこの世界は金、銀、銅を使ってるみたいね。勿体無いわ。あ、これは前に兵士さんだったものからそれを見つけてね、作ってみたの。クオリティはこの黄金の魔王アウレンデントが保証するわ♡」

堂々と偽造したことを誇らしげに話すアウレンデント。


「お前それって……」

呆れた様子の闇煙の魔王テネバイサス。


「すごいです!アウレンデントさん、キラキラです!」

アギ―は目を輝かせてアウレンデントの手を取って賛美した。


(この娘、いくらなんでも……)


「おい……」

テネバイサスはアギ―の頭を軽くつかみ、黙り込んだ。


「テネバイサスさん?」

「……とにかく、おれたちは悪い大人だ、あまり褒めるもんじゃない」

眉間に指をあて、テネバイサスはアウレンデントからアギ―を引き離す。


「手厳しいわ、まあ悪なのは否定しないけど♡」



街を少し歩いていたがどうにも不自然だ。武具を生産している鍛冶屋、そして兵士たちが訓練する為の場所があるばかりで他に店らしい店は無い。


「なんだよ酒場もねえのかこの街?もう焼いちまうか、この街」

「やめろ馬鹿者、せめて街ごと冰の世界にしてやろう」

焔の魔王フラマーラと冰の魔王グレイシモンドは物騒な話をしていた。


歩いていると彼らは呼び止められる。

「貴様ら何者だ!」


振り向くと兵士の格好をした者が剣を向けていた。


「不細工な代物を向けるな愚か者」

少しばかり不機嫌な様子のグレイシモンドが切先を掴む。

一瞬で剣を凍らせ、粉々に砕く。


それを見て顔を青くする兵士。


「大変失礼致しました!幹部様方がこのような所に来られるとは!」

相手はそう言って土下座をした。


何か勘違いしているようだ、がそれをみたアウレンデントはニヤリと何か思いついた顔をして前に出る。


「まったくなんて無礼な兵士なのかしら、ここの統治者はこんな無礼者を野放しにしてるの?ねぇ、あなた?」

アウレンデントは兵士を見下ろす。


「は、はい!」

兵士は頭を下げたまま返事をする。


「ここで即晒し首にしてあげても良いけど、私達にこの街で一番上等な宿を用意してくれたら見逃してあげるわ、当然食事付きね」

「あと酒な!」

命令するアウレンデントの後ろからフラマーラが顔を出して付け加える。

目の前の兵士を含め周りの兵士も慌ただしく命令に従って動き始めた。



一行が案内されたのはこの街で一番広い屋根付きの訓練場だった。


「ここが一番いい宿ね。訓練場に板敷き詰めて、布被せただけの床。それで辛うじてある屋根……こんな所に泊まるのは初めてね」

アウレンデントは室内を見渡してそう話す。


「まあ飯の味はあんまりだが量はあるな、が酒がねぇ!おいアギー!お前なんか知らないのか!この街の事とか、あとなんか作ってくれ!」

フラマーラはアギ―に声をかける。


「この世界の魔王はいくつかの領地に分割してそこに統治者の方をおいているとしか、すみません、それくらいしか分からなくて」

アギ―が謝りながら説明した。


「あの兵士が言う幹部様ってのは統治者ことか?」

「いや、統治者のその下にいる者だろう。流石に統治者となれば顔ぐらいは割れているだろうしな。どちらにせよ我々が誰かの部下に見られた、という事は気に食わないが」

フラマーラとグレイシモンドは不服そうにしている。


「アウレデントさんのお陰で助かりました!また兵士さん達に囲まれる所に

でした」


「ふふ、ちょっとからかっただけよ」

アウレンデントは嬉しそうに微笑む。



食事をひとしきり終えるとテネバイサスがアギ―に話しかける。


「おい、アギー。ちょっと兵士に話を聞いて来てくれ。街の事、統治者の事、可能なら地図とか交易記録とかもあるといい。それとこの街の住民がどこから連れてこられているかもだ」


「はい!街のこと、統治者さんのこと、地図と交易の記録、それと兵士さん達がどこから来たかですね!あれ?兵士さん達はここで育ったのではないのですか?」


「兵士がこの街の生まれでないのは見ればわかる。まず女が一人もいない、そして街の施設が武具の制作所か兵士の訓練場だ。街全体が兵力を生み出す一つの工場のようだ。そんなところに人の営みがあるとは思いにくい」


彼の話に対し、アギ―はポカンとしていた。

「?」


「だから!この街は人間が普通に暮らしてるような場所に見えねえって事!ここの人間はどっからか連れてこられて、兵士の訓練を受けてるってことだ!」

フラマーラが分かりやすく説明する。


「なるほど!スゴイです!なんで分かるんですか?」

「そりゃあずっと支配する側だったからな。支配の対象が消えねぇように最低限の管理ぐらいするだろ」


他の魔王達もうなずいていた。

1人関心してるアギ―の頭に手をポンと置くテネバイサス。


「お前も……少しずつ学んでいけ」

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