ファスの村到着。嘘つきは革命の始まり

 熊の死骸は回収したがグロかった・・・。

 売れば金になるらしいので回収したがお見せ出来ない状態だ。


 それから2時間ほど歩き、俺はようやく町に辿り着いた。

 日はもう傾く時間だ。


 町は人口200人ほどの、小さな集落で農業中心の穏やかな田舎町だった。

 石積みの平家の煙突から煙が立ち上がっている。夕食の準備だろうか?

 まるで異国の様な不思議な、それでいて温かい雰囲気だった。


 技術レベルは、恐らく前世より随分と低い。

 防衛は腰ほどの柵のみで熊が襲撃していたらと思うとゾッとした。

 客人は珍しいのか途中村人達は皆、不思議そうな顔で俺を見ていた。


 ギルドは木造の2階建で1階が酒場と受付の様だ。


 ちなみにサポちゃんは姿を消している。

 妖精族は珍しく見つかると騒ぎになるレベルらしい。


・・・


「見ない顔だな。新人か?」


 ギルドに入った途端、いかついおっさんに声を掛けられた。


「王国から逃げてきてな」


 公国と言うぐらいだから王国もあるだろう。

 俺は咄嗟とっさに適当な事を言う。


「それは大変だったな。こんな辺境にわざわざ何しにきたんだ?」


 警戒されてるのか?

 何もしてない筈だが・・・こいつに何かあるのかもしれないな。


「王国から離れた場所で一から頑張りたかったんだ」

 

 更に適当な事を言っておく。

 大丈夫なんだろうか?


「面白そうな奴だな。俺はガラハだ。受付が終わったら一緒に飲まないか?」


 男は笑いながら言う。疑いは晴れたのか?

 今の会話のどこに面白い要素があったのか謎だが情報が欲しい。

 この誘いは乗っておこう。


「俺はルークだ。お手柔らかに頼むよ」


 俺は軽く会釈をしてから受付へ向かった。


・・・


「はじめまして。冒険者さんですか?」


 受付の前に立つと可愛らしい猫耳の受付が声をかけてくれた。

 獣人族とやらだろう。耳と尻尾以外は普通の人だな。

 俺はギルドの登録をお願いする。


「未登録の方ですか!?王国の方ですか?」


 あれ、未登録は珍しいのか?妙に驚かれた。

 そして直ぐ様、王国の名前・・・情報が必要だな。

 俺はさっき同様、適当に誤魔化す。


「では登録料5千enになります」


 ん?まずい!金なんて持ってないぞ。 


「魔物を狩ってきたから現物でいいか?」


 さっきのウサギと熊で何とかなるだろう。なるよな?


「先に魔物の買取ですね♪」


 熊は村を襲う恐れがある危険個体だったらしく特別報酬が出た。

 素材の痛みはあるが討伐報酬が15万、素材が4万5千になった。

 あと、ウサギが5千で合計20万en。

 これでしばらくは問題なく過ごせそうだ。


 因みに受付のお嬢さんは、俺が熊を倒した事に凄く懐疑的だった。

 熊はLv20だったしな。疑われて当然か。また適当に誤魔化す。

 適当な事しか言っていないな・・・何も分からんから仕方ないだろ。


 裏の解体場所へ魔物を出し報酬を受け取る。


「よければギルド2階の宿舎をご利用されませんか?

 この村は小さいので宿屋がありませんから」


 受付の女性が提案してくれた。渡に船だ。

 2階は宿舎だったのか。宿屋が無い可能性を考えてなかった。


「それは助かる。食事も可能であればお願いしたいのだが・・・」


「朝の軽食と、簡単な夕飯込みで1日5千enでいかがでしょうか?」


 前世と物価が近い様に思う。

 一泊飯付きで5千円?安いな。


『安い様な気がするするがどうなんだろう?』


 俺は念の為、サポちゃんに念話で質問する。

 念話は周りに聞こえずサポちゃんと会話出来る便利な機能だ。


『格安ですね。食事はあまり期待しないほうがいいかもです』


 サポちゃんはずっと姿を消しているので退屈そうだ。

 他に宿も無いしお願いするとしよう。


「それで頼む」


 それから、受付のお嬢さんはギルド登録も手際よく済ましてくれた。

 何やらカメラの様な不思議な機械で撮影されたが、

これで世界中のギルドで認識されるらしい。便利だ。

 俺は登録料と宿泊代を支払い、ガラハに声を掛けた。


・・・


「待たせて悪かったな」


 ガラハはさっきの場所で酒を飲んでいる。

 受付はずっと俺の相手をしていたから自前の酒か?自由だな。

 こっちの世界のルールは知らないからな。そんなもんなのかもしれない。 


「ブラッディベアと聞こえたんだがよく倒せたな」


 Lv16でもこの言われ様、やっぱりLv2で挑むのは無謀だったんじゃないか?

 サポちゃんに文句を言いたい気分だが手伝ってくれたしなぁ。

 むしろ文句を言う相手はチュートリアルだな。どうなっているのやら。


「罠を張って上手くやったのさ」


 これで誤魔化せるか?


「それでも普通は無理だ。ましてそのステータスでは不可能と言いたいが・・・」


 そういえばステータスが見られるんだったな。


「企業秘密だ」


 適当に隠しておこう。その方が都合が良さそうだ。説明面倒だし。

 隠す必要も無いが、と言うか本当の事を言っている訳だし。


「まぁそう簡単に手の内は見せれんよな」


 ガラハは不敵に笑いながら言う。

 何というか言葉の節々に自信と風格がある。

 何だかこいつめっちゃ強そうな予感がする・・・。


『こいつのステータスはどんな感じだ?』


『んー鑑定阻害の魔道具を装備してるっぽいですね。たぶんネックレスです』


 そんな物があるのか。欲しいな。


「ステータスが見えないのはそのネックレスのせいか?」


 知っているが変に気取られる前に確認してしまおう。


「あぁ。俺も訳ありでな。すまないがステータスは明かせない。

 あ!ミャレ。こいつに酒を頼む」


 受付の女性はミャレという様だ。

 丁度、顔を出したタイミングで俺の酒を注文してくれたようだ。

 酒は嫌いでは無い。


「オッケー♪適当に料理用意したら私も同席いいかしら?」


 ミャレが軽快な声で呼びかけてくる。ガラハは俺の方を伺う。


「ぜひご一緒したいが仕事はいいのか?」


 情報が多いに越した事はない。是非ご一緒願いたいものだが・・・。


「仕事は終わったし今この村にいる冒険者はあなたとガラハだけよ」


 軽く笑いながら言った。

 小さい村とはいえ大丈夫なんだろうか?

 ミャレは食事の準備を始めた様だ。働き者だなぁ。


「王国では奴隷だったのか?」


 ガラハが話し始める。

 王国では奴隷制度があるのか。穏やかじゃないな。


「奴隷ではなかったな」


 嘘ではない。意図的に隠しているだけだ。


「王国の奴隷には獣人族も多い。しかも盗賊達に拐われて売られたものばかりだ」


 なるほど問題は多そうだな。


 ここで酒のジョッキと食事を持って来たミャレが椅子に座った。

 そして怒りながら言う。


「ギルドはあくまでも中立だけど奴隷制度については問題視している。

 このままでは獣人族と人族の対立に発展してもおかしくないわ」


 うむ・・・。ミャレもただの受付と言う訳ではなさそうだな。


『ミャレの履歴からガラハのステータスが分からないか?』


『妖精使いが荒いですねぇ。ちょっと待って下さい』


 サポちゃんは退屈過ぎて不機嫌だ。堪え性のない奴め。


『ありましたよー♪え!Lv310!?たかすぎですよ!

 人族ではトップクラスです。何でこんなとこにいるのか不明なレベルですよ?』


 310!?マジかよ・・・とりあえず悟られない様にポーカーフェイスで会話を続ける。


「公国と王国の対立はどこまで進んでるんだ?」


 何でこんな所にいるんだ?立地から考えればやっぱあれだろうな。


「正直、良くない状況だな。戦力は王国の方が高い。ギルドはあくまで

 表向きは中立だ」


 と言うことは裏向きでは公国よりという事か。


「公国は王国とは対立していない体で進めて来たがそれも限界だろう。

 獣人族の解放運動に、公国が後ろ盾になっているという噂も広がり始めている」


 しかし、こいつはこうもペラペラと話して大丈夫なんだろうか。

 俺としては助かるが・・・。


 王国の武力行使をしなかったのは何故か・・・

 今更、獣人族奴隷を解放出来ない。獣人族と対立も出来ない。

 だから獣人族と共闘する公国を黙らせる事で抑止しているのか。

 ついでに王国の反乱分子もまとめて一網打尽。良い手だな。


 ガラハは間違いなく公国の主要人物だろう。

 

『サポちゃんガラハのネックレスを鑑定出来ないか?』


『やってみますねー。んーこれは?

 上手く隠蔽されてますがおかしな魔法効果が混じってますよ。

 盗聴機能がありそうですね』


『うわぁ・・・隠蔽は普通の人が気付けるレベルか?』


『サポちゃんの魔法知識は情報開示のおかげで妖精もビックリのレベルです♪

 これは普通の人が気付くのは無理ですね』


 盗聴はどっち側のものだろうか。

 おそらく王国だろうが、だとするとまずいな。

 情報収集はこのぐらいにして置くか。


「暗い話をさせて悪かったな」


 俺は謝罪ついで誤魔化す。いや、逆かな。


「ルークのせいじゃないわよ♪乾杯でもしましょうか!」


 ミャレが優しくフォローを入れてくれた。

 場を明るくしようと気まで使ってくれている。いい奴だなぁ。


「何に乾杯するんだ?」


 話流れに乗っかり会話を広げる。


「ルークさんの冒険者デビューになんてどうかしら?」


「それはいいな!今日は俺の奢りとしよう」


 ガラハもそれに合わせて明るく振る舞う。

 こいつもいい奴だなぁ。


「それでは乾杯!」


「「乾杯!」」


 俺達は酒を掲げ乾杯をした。


「この料理はミャレさんが?」


「そうよ。今日はツノ兎とキャロの香草焼きね♪」


 兎肉は臭みもなくしっかりとした塩味とハーブの香りがほどよい風味だった。

 見た事のない赤い木の実のソースで酸味と甘味を足していてこれも丁度良い塩梅だ。

 キャロはカブと人参の中間みたいな根野菜らしい。

 主食はナンの様なもので、肉とほうれん草の様な葉野菜を乗せて巻いて食べる。

 腹もしっかり膨れて味も良く少し濃いめの味付けがお酒にも良くあっていた。

 控えめに言っても、めちゃくちゃ美味かった。


『食事は期待出来ないとか言った奴は誰だ?』


『私ですね!食べれませんしね!』


 サポちゃんは自分だけ美味しそうな料理が食べれず怒り心頭だ。

 情報収集は終えたつもりだったが、

何気ない会話がこの世界の知識を知るのに随分役立った。


 2時間ほど食事と酒と雑談を楽しみ部屋へと案内して貰った俺は・・・


 サポちゃんに説教されていた。


・・・


「2時間も美味しそうな料理を前にお預けされていた、

サポちゃんの身にもなって欲しいです!」


 なるほどもっともだ。


「すまなかった。残った料理を包んで貰ったから良かったら食べてくれ」


 俺は先程の食事の残りを差し出した。


「仕方ないですねぇ。今日の所はそれで勘弁してやるです」


 サポちゃんは美味しそうに料理を食べている。

 さて明日からどうしたものか。


「遠距離鑑定能力だが直接俺が使える様にできるか?」


「魂の回廊があるので普通に使えますよー。

 いちいち聞かれるのも面倒なのでリンクしときますねー、もぐもぐ」


 料理を食べながらもすぐに出来る様にしてくれた。


「まずは情報だな。鑑定で王国と公国の戦力の確認と内情の詮索か」


 さてどうしたものか・・・。


「めんどくさがりのマスターにしては積極的ですねぇ。もぐもぐ」


 食うか喋るかどっちかにしろよ・・・。


「奴隷制度は気に入らんしな。上手くいけば公国、ギルド、獣人族にも恩を売れる」


 嘘は言っていない、が我ながら少し違和感を感じる。


「現状は王国が優勢の様ですけどねぇ。もぐもぐ」


 そうなんだよなぁ、でも何か出来るかもしれない。


「不利な状況を助けるから恩が売れるんだろうが」


「何だか楽しそうですね♪」


 サポちゃんに言われて俺はハッと気づく。

 そう、俺は確かに楽しんでいた。


「出来る事があるからな。転生してくれた神様には感謝している。

 もちろんサポちゃんにもな」


 これは俺の本音だ。


「マスターって意外といい奴ですよねぇ」


 サポちゃんが何とも素気ない感じで言う。


・・・


「意外とは余計だ」

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