機滅するは剛力(2)

 火蓋は切られた。

 第9班とガラティアンの戦闘が始まる。

 先に動いたのは第9班であった。

 方形隊列のど真ん中に飛び込んできたガラティアンへ、軽い発射音の連続と共に白い噴気を引く弾頭が緩い速度で放たれる。

 それはガラティアンに5メートルまで近づいた地点で破裂した。

 膨張する白煙が空間を隙間なく塗りつぶす。

 煙幕弾だ。

 全長5メートルの巨体が一瞬で不可視の領域に覆われる。


『撃て!』


 部隊長が号令すると同時、対空車両の35ミリ砲二門が毎分500発の連射を浴びせた。

 煙の中から、絶え間ない着弾音が一つながりになった、耳をつんざく噪音が響く。


(だが、こんなものが通じないのは知っている)


 そう部隊長が思う最中に、主力戦車が同士討ちを避けて十字砲火を放てる位置へ移動した。

 その上面に据えられた長い箱型の装備が、2メートル四方の前面ハッチを開く。


『近接プラズマ放射装置、発射用意』


 本来、対群空用の広範囲兵器を、機甲白兵戦用に射程を捨て高火力に改造した、対ガラティアン専用武装だ。

 高出力の電源車を部隊に最低一台は付随させる必要はあるが、その威力はナパーム弾頭の総エネルギーにも劣らない


『充填率72パーセント、発射まであと10秒』

『対空車は射撃中止。防盾車の後ろへ』


 主力戦車二両から管制車へ報告があり、部隊長の指示に従い、真っ赤に焼けた砲塔から陽炎をたなびかせて対空車両たちが移動する。

 他車両も位置を変えたが、煙幕に視界を奪われたガラティアンにそれは見えていない。

 ガラティアンへプラズマ放射が撃たれる。

 その時だった。

 高く澄んだ、それでいて体の芯まで揺さぶる大音が、煙幕のほうから広がった。

 第9班の隊員たちはそちらを見る。

 すると、上方に煙幕から抜けた物体があった。

 それはさほど大きくもないよくある軍用の金属塊で、緑色の線がつながれている。見た者に逆さ向きの風鈴を鳴らしたようなイメージを容易に想像させ、音の発信源であることを直感的に理解させるものだ。

 その物体は、ピンと張った線に引っ張られ、煙の中に消える。


「今のは一体……」


 疑問の答えはすぐに明らかになる。

 豪風が煙幕を破り抜いて走った。

 次の刹那、金属が貫かれる悲鳴が鳴らされる。

 分厚い黒鉄の盾を備えた防盾車が、真正面からガラティアンに白い大槍で刺されていた。

 7メートルの槍は90センチメートル厚の盾に深々と埋まり、その後ろの車両本体をも穿っている。

 ガラティアンが槍を引き抜く。

 金属が擦過する音は機械の断末魔に聞こえた。

 攻撃を受けた車両は油圧シリンダーの黒いオイルを破損部と底部から流し、サスペンションが力を失って前のめりに沈みこんだ。そこへ向かって盾が倒れていき、支持点がもげて車両は超重量の下敷きになった。

 ゆっくりと押しつぶされていった車両は、電装を破損しスパークを散らす。それは地面に広がった油に触れた。

 火炎が爆発した。

 火に飲まれる車両に背を向け、赤色を反射する白の巨人。片手に下げた槍から、黒い油が滴り落ちる。

 巨人は槍を素振りした。それだけで、大槍は再び純白を取り戻す。


『――っ。煙幕弾撃て!』


 呆然と見てしまっていた部隊長が我に戻る。

 だが、各車が動く前に再び巨体が跳び、風が突き抜けた。


『がっ――!! ゥ……』


 主力戦車の一両が串刺しにされた。余波を受けた搭乗員の苦悶の声が通信に流れる。

 槍が貫いたのは、主砲塔付け根。さらに、上段から槍を突き入れた剛腕が手首をひねり、回転させながら押し込む。

 ガンッと音が出て戦車が揺れ、エンジンまで槍が至った。

 槍を引き抜いたガラティアンが後ろへ一歩、避ける。

 首を下げるように長い砲身が下を向き、戦車が車高を沈めた。

 直後、車内にあふれたガソリンが発火し、猛烈な爆炎となって砲塔天面を融解させて、筒花火のように炎と火花を吹き上げる。

 またたく間に二両もの機甲車両が撃破されていた。

 ガラティアンが更に穂先を構える。


 

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