機滅するは剛力(3)

 だが、そこへ無数の煙幕弾が再び着弾した。

 先程とは異なり、もはや自分たちを巻き込むこともいとわない範囲である。


(しかし、奴には見えなくても我々には見えているのだ)


 部隊長が見る戦況図には、動かないガラティアンを示す青いアイコンと、味方を示す赤いが表示されている。

 機甲車両は青いアイコンから離れつつ、包囲陣形を再構築していた。

 地面のセンサー網によって、第9班の側は敵味方の位置がはっきりと認識できているのだ。

 赤いアイコンの移動が止まる。

 部隊長が一斉攻撃の号令を掛けようとした。


 ”――――キィン……”

「また、この音っ……」


 先程、ガラティアンが煙幕の中から、まるで分っているかの如くこちらの車両の一つに飛び掛かった際、その直前に聞こえたものだ。

 鐘を鳴らすように澄んでいながらも太く、大きく広がっていく音。

 何の意味があるのか部隊長には理解できない。

 しかし、どこかで聞いたことがあるように感じた。


(いつだったか……ガキの頃、沖で魚を取りに潜っていたときに、運悪く潜水艦が近くにいたらしくて……)


 その記憶が頭に浮かんだとき、彼はとっさに叫んだ。


『全車回避運動!』


 土色と銀色の靄の中、重厚な機甲車が動く。

 そのうちの一つ、対空車両が急発進する。

 直後、その場所へガラティアンが飛び出してきた。同時に突き出された槍は寸前まで対空車両がいた空間を空振りする。

 ガラティアンが即座に穂先を横に振り返す。全速力で逃げる装甲の表面に火花が走ったが、壊れることなくスモークの奥へ消えた。


 それを画面越しに見ていた部隊長は声を震わせ、

「まさか、本当にエコーロケーションで……音の反射で位置を特定していたというのか!?」

 自分で推測を当てておいて、信じることができない。


「一番最初にここへ跳んで来た時、その前に撃ち込まれていた砲弾も、炸裂音の反射でガラティアンへこちらの配置を測らせていたというのか。そんな馬鹿な……水中でもないのだぞ!」


 煙幕弾を放ちながら部隊は配置を変える。


「第一、それも妨害するのが物理ジャミング浮浪体だ。な位置は想定できても、正確な測定など絶対に――」


 その時、車両のひとつから接触警報が管制車両に届く。味方の怒鳴り声と一緒だ。


『こちら対空第二、被弾した。隊長、発砲禁止を徹底してくれ。同士討ちなんて冗談じゃないぞ!』

「対空第二、それは誤射ではない。誰も発砲はしていない」

『だったら何なんだ!』


 それは何か。

 隊長が思い浮かべたのは、緑色の線につながれた金属塊。

 そして、理解した。


「対空第二、ただちに進路変更を――」

『――……、、なんでッ――』


 激しいノイズが鳴り、途切れた。

 代わりに、ぐぐもった爆発音が外から届く。

 部隊長が見るモニターから対空第二の識別子が消滅した。

 やられたのだ。


「全車止まるな。とにかく動き続けろ。衝突の危険より乱軌道で回避を優先!」


 部隊長は指示を送りながら、コントールパネルを操作する指を震わせている。

 ガラティアンが無視界の中で相手の位置を特定している方法に気が付いたせいだ。

 相手を理解し、その異常さに本能が嫌悪感を吐き出していのだった。


「おおまかな位置を掴んだら、その方向を目掛けて紐を繋いだ塊を投げて正確な位置を探していた……そんな原始的な、釣り、みたいなやり方で……?」


 なるほど、ガラティアンにすればこの場には自分以外は敵しかいない。

 ゆえに、振り子を投げ込んで何かに当たればそれ即ち目標であり、紐が伸びる方向に確実にいることが分かる。


 その方法は極めて単純であるが有効であり、そして、

「つまるところだろう……!」

 理不尽なまでの圧倒的な戦闘センスである。


 ジャミング浮浪体の音響妨害の性能を考えれば、エコーであたりをつけられるのは、いいところで幅数十メートルだ。

 そこへ振り子を投げ込んでも、確率的には二十回、三十回は必要になるはず。

 しかし、一連の流れに掛かっている時間から考えるに、投擲は一発で決められている。


「なら、奴は投げる前からこちらの位置を確信しているようなものではないか」


 こんな不条理なことがあってたまるか。

 部隊長は心のなかで痛罵つうばした。

 しかし、まぎれもない現実である。ならば、対処しなければ。

 部隊長は僚車たちと連携を取る。



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