エピソード2-3 地下街《みたび》

 二人は再び地下街の喧騒の中に立っていた。今日もこの街は遠い異国の珍しい菓子を売り歩く者や、近場の劇場の客引きなんかでごった返している。


「あーどいたどいた! 商売の邪魔だ!!」


 一人の油売りが忙しそうに二人の間を通り抜ける。


「本当にすごいね、ここは」


 ズメイは感心した様子で言う。


「まあな、『この国の文物でここに揃わぬ物はない』とまで言うからな」


 定期的に地下街を訪れているからか、ラヲシュは少し得意げだった。



「さぁ————寄ってらっしゃい見てらっしゃい‼」



 大きな声がしたのでズメイがそちらを向くと、なにやら背の高い中年が人だかりの前で何かをしている。


「これは全くなんの変哲もないただの帽子だが......」


 男は被っていた帽子を取り外し、聴衆にその中を見せて回る。男はどうやら大道芸人のようで、その頭は潔い程典型的に禿げあがっていた。


「このように......それ!!」


 気になったズメイが駆け寄るや否や、男は再び一旦帽子を被り............




 バサササッ!!!!!




 帽子の中から白い鳥を飛ばして見せた。


 よくある手品ながら、聴衆は拍手喝采で感心している。当の本人も満足げに微笑んでいる。


「後頭部に残ってた髪に、よく訓練させた鳥を忍ばせてたな」


 ズメイの後ろからそっとラヲシュが追い付いて言う。


「君、それ気付いても普通言わない。てか堂々と言うとかあり得ない」


 ズメイは若干引き気味である。


 ラヲシュは「はいはい」とため息を一つつき、ズメイの顔を見る。

 お互い相手の毒舌に呆れつつ、少し苦笑いしていた。

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