第3話 実際は、全国すべての駅に、ホームドアが設置されているわけじゃないんだよね。だから、視覚障害をかかえた方の事故は、なくならない。

 「白線の内側まで、お下がりください」

 …あれ?

 視覚障害を抱えた方だけ、プラットホームから、線路の敷かれている方向に歩き続けてしまった。

 「…あっ!」

 まわりが叫んだときには、遅かった。

 ホームから、転落。

 「ぎゃあ!」

 視覚障害を抱えた方が、駅のホームから線路側に落ちないようにするためには、どうしたら良いのだろう?

 今、各地の駅で、ホームドアが設置されはじめている。

 電車がホームに到着して、電車のドアが開かなければ、ホームドアも開かないことにした。

 これで、線路に落ちる事故を防ぐのだ。

 でも、上手くはいかない。

 全国すべての駅に、ホームドアが設置されているわけじゃないから。

 予算が足りないなど、いろいろな理由で、理想的なプラットホームにはなっていない。

 地域差が、響く。

 都会の駅に設置できれば、都会の人は、救えるかもしれない。

 けれど、都会以外の住人は、どうなっちゃうの?

 田舎路線全体までは、この改革は進められていない。

 視覚障害を抱えた方の苦労は、放置されたまま。

 転落防止に最も有効と考えられているホームドアが設置されている駅は、全国にある駅の、1割以下。

 そして、彼のおじさんのケース。

 「点字図書館は、良い。だが、コロナ禍の緊急事態宣言が出されれば、来週からは閉館してしまう。今、いこう」

 点字図書館は、自宅の最寄り駅を出て、3駅先。

 「生きるんだ、生きるんだ」

 努力、努力。

 最寄りの駅に、着いた。

 そのとき、ハナと話していた彼の顔が、ちらついた。

 「おお…。新聞部で精を出しているあいつの顔が、浮かんできた。そうだ。点字新聞の資料も、借りていたな。あの資料も、返却しなければならん」

 エレベーターで上がった先にある改札付近から、同じエレベーターで下りて、帰宅することにした。

 そのとき…。









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