第10話 新たな当主
美成が跋扈の国の当主となった。そして、羅山に毒を盛ったのが、朱坐の国の間者だと分かった。朱坐の国は跋扈の国と同盟を結んでおり、頭栗を人質として差し出した、かの国である。朱坐が跋扈を裏切ったのだ。
羅山を亡き者にしたという事は、つまり朱坐はこれから跋扈の国を攻めるという事を意味していた。朱坐との間にあった六呂の国は、頭栗を人質に出した後、壊滅していた。今、朱坐は跋扈の隣国なのである。
美成は当主となったばかりだが、早速に家来をまとめなければならなかった。今、この緊急事態をどう乗り切るのか。目下それが問題だった。
「ここは、先手を打って朱坐を攻めましょう。攻めて来るのは必定ですから、待っている手はない。」
「いや、今攻めても勝てるかどうか分からぬ。もう少し国の体勢が整ってから戦をした方がよかろう。」
「相手は整うまで待ってはくれない。」
「いや、少しでも時を稼いだ方が得策でしょう。」
家来達の間で意見が割れていた。なかなか決着が付かない。戦を仕掛けるかどうか、大事な問題だ。今までは羅山の一声で決まったものだが、今は決定件を持つのは経験の浅い美成なのだ。
その夜、寝床へ向かう美成について、剣介は部屋へ送り届けた。すると美成が、
「俺は、朱坐を攻めようと思う。」
と、突然言った。
「お決めになったのですね。」
剣介が言うと、
「つまり、兄上の命を切り捨てるという事だ。」
美成が間髪入れずにそう言った。そう、朱坐を攻めるという事は、人質となっている頭栗の命が取られる事を意味する。それなのに、家来達の間では、頭栗の事など話題に上らない。
「俺は、兄上の事が好きではなかった・・・。兄上はいつも剣介と楽しそうにしていて、俺が剣介と遊ぼうとすると怒って、独り占めして。だから・・・。」
美成の声が震えた。
「お前は悲しむだろうな。悪く思うな。」
だが、声を戻した美成は、そう言ってそっぽを向いた。もう帰れと言わんばかりに。
なんと声を掛けたらいいか分からず、剣介は一礼して下がった。美成は本当に頭栗の事を好きではなかったのか。剣介は思いを巡らせた。二人は仲がよくなかっただろうか。いや、兄弟というものは、喧嘩をしても、時々憎らしいと思っても、やはり親しみを感じるものだ。ましてや、父を亡くした今、兄がいればどれほど心強い事か。死んでも良いなどとは思わないはずだ。剣介は逡巡しながら自分の部屋に向かった。
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