第39話 川名津その②

 天使が尻軽だった事で、私の気持ちはさらに歪んでしまった。


 次は川上か…………アイツは雰囲気イケメンだからか、結構モテるようだ。でも、2年少し部活で関わっていた私にはわかる。やつは見た目や肩書きでしか相手を見る事が出来ない様な人間だ。


 2年、3年と上がって行くにつれて段々と調子に乗ってるようだった。もう卒業してしまったマネージャーと付き合ってたしな。


 そっちの方は一体どうしたんだ? オマエは一体、何をやってるんだ? 俺の天使を汚すな。



 ――――――と思っていたんだが、川上は大学生になった元マネージャーと関係が続いてたらしく、それがバレて別れていた。


 バレた後、大学生の彼女とは別れたと言う事で、改めて南条と付き合いたいと声かけてる様だが相手にしてもらえてない様に見える。


 どうやら、天使は女神でもあった様で一度、前髪をつかみ損ねるとそのまま去って行くらしい。ザマァみろだ。


 だが、川上の行動を放って置くのは部活の雰囲気が悪くなるし。何より私が我慢ならない。どうしたものか。



 ――――――南条を相談室に呼び出した


 色々考えた上で、結局は本人と話した方がいいだろうと言う考えになったからだ。


「南条、最近困ってる事はないか? 悩みがあったら聞くぞ」


「えっと…………なんのことでしょう?」


「我慢しなくて良いんだ。話しなら聞いてあげるから」


「カワナズ先生は優しいですね……………」


 いや、優しいのは天使である君だよ。そう言ってしまいたい。だけれど俺は教師だ。そんな事は許されない。


 それっきり黙ってしまった南条。私は我慢強く彼女が話すのを待つ事にした。




「―――――――実は、前の彼氏が浮気してて…………」


「…………あぁ、その前の彼氏ってのは、川上の事で合ってるか?」


「そうです。この間、見ちゃったんですよね」


「それは、辛いな…………それで、今はどうなってるんだ?」


「なんか、寄り戻したいって言われてるんですけど、もう私の方はそんなつもりはなくて」


「まぁ、そうだろうな」(私なら浮気はしない………しないぞ)


 ―――――それから、お互いに黙ってしまった。すると喉が渇いて来たので、私は立ち上がってお茶の準備をし始めた。


「なにか飲むか?」


「それでは、お茶をお願いします………苦い方がいいです」


「わかった。少し待ってろ」



 部屋を出てから、給湯室に行きお茶を準備する。苦い方がいいと行っていたので茶器に茶葉を多めに入れてから、お湯を注いだ。


 予想通りの話ではあるが、どうしたものか。川上に忠告するか? しかし、そのままにして、私が目を光らせるから。と言うのもありかもしれない。


 自分でも、思考がおかしくなってるのが分かる。良くないなこの考えは………誰かに相談したいが、こんな話を一体誰と話せるのだろうか?


 準備が出来たので、トレーに茶器を乗せて部屋に戻った。



 ――――――南条は、出て行く前と特に変わった様子はなかった。


 この年頃の女の子なら、暇な時はスマフォ弄っていてるもんだが……真面目だな。と関心した。


「持って来たぞ」


「はい。カワナズ先生ありがとうございます。」


 音を立てない様に配膳をしてから対面に座った。こういう時は相手に寄り添う方が良いそうだから、隣に座った方がいいんだが教師が隣に座ると言うのは違和感を感じてしまう。


 なんなんだろう教師ってやつは、生徒に寄り添ってはならないのか? 


 興味のさしてない生徒相手なら気にならないことも、南条の事になると何故か気になってしまう。やはり今の私の思考はおかしい。


 その後、実際にどう対応すべきかと言う事は決まらず解散となった。


「今日はお話聞いて貰って、ありがとうございました」


「あぁ、何かあったら私の方でも対応するから、すぐ相談してくれて良い」


「はい。お願いします。それではさようなら」


「あぁ、気をつけて帰れよ」



 ―――――――数日後



 相変わらず、川上は南条にアピールしている様だ。それ自体は、咎める事ではないが南条の方が微妙な顔をしているのに気づかないのか? そう思った。


 ある日、余りにもしつこい様だったから止めたんだが、川上が去った後につい口を滑らせてしまったんだ。


「あんな奴となんて付き合ってはダメだ。それなら私の方が良い」


「そうですね。その方が良いかもしれませんね」


「えっ?」


「あれ?」


「ほ、本当に? 私でも良いのか?」


「いや、そのセンセ………今のは……」


 わかってる………わかってる。その口を滑らせてしまっただけなんだよな。お互いに、何かの間違いなんだ。


「い、今のは無しにしよう。そうだな?」


「そ、そうです。無しにしましょうっ」


 その場はなんとか何も無かった事として済ませたが、一瞬でも気持ちが繋がってしまったと思ったら心にドロドロした物が湧き出して来てしまった。


 もうすでに、教師と生徒だけの関係で居るのが辛くなってきた。


 そんな私の心と、仕事を奪って行ったのが、橋本 大輔ハシモト ダイスケだった。


 奴は、私の天使を奪って行き。そして教師以外の仕事に就くキッカケを作ってくれた。 ……………今では感謝している部分もある。



 ―――――――夏に入って


 なぜか、ヤツが変なお願いをして来なければな。


「先生、お願いがあるんですけれど」


「私は、もう教師ではないよ。オマエのせいでな」


「そういえばそうでしたね。川名津カワナズさん」


「随分、雰囲気変わったな。何かあったか?」


 以前よりも体格が良くなってる気がするし。何より表情が引き締まってる気がする。部活辞めた時とはどうやら違うようだ。


「俺、ソフトテニスの大会に出ようと思うんですよ」


「そうか、勝手にすれば良い私には関係ないよ」


「正直、スティーブさんが代理で入ってますがそれでメンバーに俺入れるとおかしいじゃないですか」


「まぁ、そうだな。それで?」


「元々顧問だったあなたに協力してもらえないかな? と」


「嫌だ。勝手にしろ」


 なんなんだ一体。そんな事どうでもいいじゃないか?


「それは建前で、先生の存在が心配でして…………恨まれてないかな。と」


「だから先生ではない。もう、恨んでないと言えば嘘になるが、実は教師辞めたかったんだ。だから今はこれで良いと思ってる。給与も思ったより悪くないしな」


「それで、ほら。男同士って拳で語り合うって言うじゃないですか」


「あぁ、言うな。それで?」


「ちょっと俺とスパーリングしてもらえません? 俺、東京行っちゃうんで、信じられない人が地元に居るのが嫌なんですよね。分かります?」


 コイツの言ってる事は、自分の都合でしかないが言いたい事は分かる。それに合法的に元生徒をぶん殴れるなら、やってもいいかと思った。


 どうせ、グローブするしな。



 ――――――――と思った私がバカだった。






 こいつ動きが素人じゃない。キチンとトレーニングしてやがるぞ。セコンドに居るスティーブがアドバイスしてやがる。ふざけやがってっ。


 私はその日、ボコボコにされたが、何回かはダイスケに良いのを入れられたのもあり。彼と殴り合った事で何かが吹っ切れた気がした。


 ―――――親父が言っていたお見合いをしても良いかもしれない。


 教師だけは絶対に嫌だが、何もしないよりはマシだ。


 出来れば、包み込んでくれるような優しさのある妻が欲しい。と思ってしまった私は、やっぱりまだ南条の事が好きなんだな。そう感じた。


つづく

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あとがき


投稿遅くなりました(>人<;)

殴り合いからの決着となります。


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オタクな俺のことを嫌いな筈の幼馴染を振ったら ~なぜかタイムリープしてデレデレになっていた~

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短編投稿しました。

2話とキャラ紹介で完結します。

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