S(社会)N(の)S(縮図)
私がSNSを己の人生から滅却して暫く経つ。
……いや、いまのは撤回する。
ちょっと表現が大味すぎた。
私はSNSの恩恵に今まさしくあずかっている。
カクヨムも他ならぬSNSではないか。
SNS、と一口に言っても、広義では人と人とが繋がるオンラインサービスはすべからくこれに該当するのが厄介なところだ。
ここでSNSと定義するのは、いわゆる「幸せを呼ばない青い鳥」とか「虚飾グラム」とか、「著作権管理の怪しい某時計系」──まあ、そういった類のプラットフォームのことである。
それらのうち、利用していた幾つかを断ったというわけだ。
結論から申し上げよう。
とても幸せになった。
突飛な結論だが、衷心からそう思うので致し方ない。
だいたい、前々から空気感の合わないところだなあとは肌に感じていた。
周りを見渡しても、誰一人として幸せそうにしていないんだから。
別に私はファクトフルネス信者ではないが、SNS上においては、沈鬱だったりスキャンダラスな珍事ほど全面に表示されやすい環境だと確信している。
これに関しては、多くの諸兄姉から共感いただけるのではないだろうか。
ためしに、どれでもいいから、手頃なSNSのトレンド欄をご覧いただきたい。
幸せそうな出来事がひとつでも載っているなら、それは運が良いか、表示アルゴリズムが気を利かしたか、またはそこが地球でないかのいずれかである。
あるいは、猫やハムスターの転載ショートなんかは出てくるかもしれない。
やけに豪勢なプールサイドで、ブランドロゴをこれ見よがしにあしらった被服をまとう美人さんが出てくるかもしれない。一見幸せそうだろうか。
まあ、どうであれ──クソである。
いや、私はなるたけ低俗な言葉は避けたく思うが、敢えて声を大にしよう。
クソである。
悪趣味極まりない。インターネットスラム。鬱憤の祭典。負のるつぼ。
いわばコミュニケーションにおいて、予め濾過されるべき部分の「あく」だけが蓄積された掃き溜めに見える。私の目には。
ある程度利用していれば、好みにあったコンテンツが選別されると思っていた。
しかし、それを待つ前に理性が警鐘を鳴らし、良心は悲鳴を上げた。
SNSに長期滞在したところ、精神を害するばかりか、どんどん人間不信に陥っていく魔のスパイラルへと迷い込んだ。
これはよくない。
私はおよそ、某動画プラットフォームも大概であろうが、それ以上に、この、数秒から十余秒の単発動画や数百文字散文をひたすら見ていくというコンテンツがどうしても好きになれない。
なんだか集中力を小馬鹿にされているような気分になってくるし、取るに足らない情報の雪崩で脳に負荷が掛かるためだ。
露も体系化されていない情報は苦痛だ。ますますよくないよこれは。
始めたときはほんの些細な暇つぶしか、または情報収集のためだったのだろうが、貴重な時間を費やして身を滅ぼすなどアホらしい。
そう思い立ったので、私はそれらのサイトをブロックリストに放り込み、さしあたり安息を得るに至った。
無論利点もあるだろう。
正確性の担保はともかく情報収集のいち手段であるし、公の場では言えない本音を零せる一面がある。
しかしだ……これが娯楽になるとまずい。
なにがまずいかって、別にさほど楽しくもないし、むしろ社会でネガティブな空気にさらされ、SNSでまたもや一層根深いネガティブにさらされてたんじゃ、いよいよ病んでくるほかない。
こんなのが娯楽になった暁には、日々の意義が見いだせなくなるのも遠くない。
ネガティブが悪なのではなく、ネガティブにも質があるだけだ。
事実としてのネガティブは受け入れるべきで、ぜひとも歓迎したい。
が、人様が抱える「負」の吐露をわざわざ拾い集めて、もう一度味わおうとする傾向が気に食わないのだ。
そういうわけで、ここカクヨムは理想郷の一種だと私は思っている。
なぜなら、その人が抱える理想であれ、不満であれ、信念であれ、なんであれ、それらは作品という媒体を通して伝えられるからだ。
例えばチートを携えて異世界で無双する作品は、商業でないなら、あるいはそれは作者の願望なのかもしれない。
単に願望を願望のまま吐き出せば誰一人目もくれないだろうが、それを芸という形で見せてくれたなら興味深いことだ。
小説、絵画、演劇、他総ての作品は、己をずっと深く、また鋭く観客に伝えられる手立てであろう。
芸術とはなんであれそういうものだと思っているし、それが楽しくて皆ものを書いたり、絵を書いたりしているのだと思う。
そして、これが叶うプラットフォームには日々感謝してやまない。
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