第34話
一晩で舎弟藤原と寝る間も惜しみ、打倒アリス作戦を考えた。だが、二人で紗千の安全を脅かすアイツのことを思い出し、特に何も作戦は生み出せなかった。
「あ、兄貴……俺らちゃんと守れるんスかね」
「当たり前だろ。お前は結梨と紗千がくっつくことを夢見て、これまで頑張ってきたんだろ? もちろん俺も同じだ。……だから作戦がなくてもやることは単純明快。ただ突っ走るだけだ」
「あ、あ、あ、兄貴!! 一生ついていきやス!」
「いやむさ苦しいわ」
抱きつこうとしてきた藤原のことを軽くあしらい、意を決して教室の扉を開けた。
「あら。今日は二人共早いわね。そんなに私に会いたかったのかしら?」
まだ早朝。早朝のはずなのに、アリスが自分の席に座っていた。
「そりゃあ、昨日あんな事を言ってきたお前には会いたかったさ」
「それは嬉しいわ」
今俺は澄ました顔で藤原のことを連れ、自分の席に座ったが内心ブルブルである。
実はこれからアリスが来ていないうちに……って、考えるのは良くないんだったな。
「ふふ。ちょっと怪しかったけど、昨日の反省は活かしてるみたいね」
「まぁな」
だめだ。俺がアリスを上回るためには考えて動くんじゃなくて、アドリブじゃないと。
「ふふ。上回れるものなら上回ってみなさい」
「……冷静に考えてみるとそんなの無理だ。だってお前は無条件に俺の心を読んでるんだから」
「そうね」
アリスはいつものように鼻で笑いバカにするわけではなく、俺の絶望的な勝算に冷徹にも肯定した。
「この際だからもう正直に言う。お前が何者かだとか、そんなのどうでもいい。お前は明確に何をしたいんだ?」
「遊びたい」
それは心の奥底のように真っ暗な声だった。
遊びたい、だなんて感じさせない声質。
「私は遊びたいの。ただの学生に戻って、後先考えず破茶滅茶に遊びたかったの。……ねぇ、一緒に遊ぼ?」
よくわからない。けど、遊ばなければいけないと感じる。
「わかった。何したいんだ?」
「そうね……」
ゲーセン、カラオケ、ボーリング。俺達はアリスが行きたいといった場所にすべて行いった。
アリスが言っていた言葉通り、破茶滅茶に後先考えず遊び尽くした。
もう夜。ちなみに、藤原は途中で親に呼び出されて帰った。夜道、街灯の光が俺たちのことを照らす。
そろそろお開きにしよう、と切り出そうとしたらアリスに遮られた。
「本当、今日はありがとう。こんなに遊んだのは初めてかも」
「それはどういたしまして」
「ねぇ。兄貴さんって何?」
「……? 何って何だよ」
「そっ、そっか。いやなんでもない。わからないんなら、聞く意味はないから。……うん。ないわ」
アリスは、どこか寂しそうな顔をしながらくるんと体を半回転させ、背中を向けてきた。
何を伝えたかったんだ?
いつもこいつは言葉足らず。もっとちゃんと聞いてくれないとわからない……って。
「お、おい! アリス。お前どうなってんだ……」
暗闇で気づかなかった。
アリスの下半身がない。お腹から徐々に体が光の粒になり、消えていっている。
「あぁ……そう。私は、やっぱり」
アリスは俺の方に振り向かず、何か納得がいったようなことを呟きながら光の粒になり、消えた。それはもうあっさりと。何事もなかったかのように。薄暗い街灯の下で。
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