悪役編
第32話
俺は何か勘違いしていたのかもしれない。
結梨と紗千。二人の間に悪役と呼ばれる横槍が入らなければ、すぐくっつくと思っていた。
これはアニメの世界。それは藤原にも話した通り、避けて通れない事実。主人公達のことを妨害する壁がなければ、何も成長しない。
だから『大好きなあの子』のアニメの中にも悪役がいた。結末を変えたい。その一心で進み続けたこの道。正直なところ、間違えていたかもしれない。俺は悪役として、悪役らしく振る舞わなければならなかったかもしれない。
なぜここまで後悔しているのかというと、体育祭以降二人の関係が一つも進展していないから。もちろん手を差し伸べた。けど一ミリも進展しなかった。
傍から見ていて、少し二人の熱が冷めかけているように思える。
だから俺は心を鬼にしてこの世界の本来の姿、悪役になろうと思う。
最近、兄貴の様子がおかしい。おかしいっていう言葉だけで表せないくらいおかしい。
普段から見守っていた二人にちょっかいを出してみたり、周りに悪口を言ったり。まるで別人のような振る舞いをしている。
いつも昼休みは兄貴と一緒にいたけど、今は一人。行く宛もなく賑わいを見せている廊下をトボトボ、と途方に暮れ歩いている。
早くお昼休み終わらないかな……とチャイムが鳴るのを待っていると、見覚えのある背中が目に入った。
「兄貴!」
「あぁ?」
「な、なんでもないです……」
「チッ。じゃあ話しかけてくんじゃねぇよ」
振り返った顔がどこからどう見ても兄貴だった。
けど、喋りかけた兄貴は不機嫌そうにわざと大きく足音を立てながら曲がり角を曲がり、どこかに行ってしまった。
「なんでぇ……」
もうなんで兄貴が変わってしまったのかわからず、頭がぐるぐるしている。
ぐるぐるしてぐるぐるしてぐるぐるしていると、いつの間にか屋上への階段まで歩いていた。
誰もいないし、歩き続けて疲れたから一旦休憩する。
「ふぃ〜」
人気がなく、物音しない階段が今は心地いい。
ぐるぐるしている心をリセットして、冷静になって考えて見る。
兄貴が突然変わった理由は?
グレた? いや、兄貴はそんな人じゃない。じゃあなんなんだ。兄貴が変わったのは理由があるはず。絶対、会話のもとを辿ればその理由が……。
「悪役?」
こんがらかった糸がピンッと張った気がした。
兄貴はこの前俺に隠していたことを打ち明けてくれた。その時、自分はこの世界では悪役のポジションだったと言っていたと記憶している。
「だとしてもなんで今さら?」
俺のことを覚えていたのと別の自分の記憶がなくなったわけじゃない。
理由なんてわからない。
けど、兄貴が動いてるんだ。どうせあの二人に関してのことなんだろう。何か考えがあるんなら、たとえ火の中水の中……俺も手伝う。それが舎弟の仕事!
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