ギャル編
第30話
多分、うちは兄貴ちゃんのことが好き。
いや多分。本当に多分。気づいたら兄貴ちゃんのことを目に追っちゃう感じ。
なんか兄貴ちゃんと一緒にいたいなぁ〜……って思って、話を合わせてたらいつの間にか同志? とかいうのになってた時は驚いた。
よくわからなかったけど、さーちゃんとゆーちゃんのことを追っていくだけで一緒にいられた。けどそれももう今日で終わりにする。
うち、自分に甘えてた。
兄貴ちゃんと一緒にいるだけで満足していたら、これで終わりになっちゃう気がしたから。
うちは今日、気持ちの整理なんてまったく付いてないけど告白する! だから朝早く学校に来た。兄貴ちゃんがまだこの時間に来てないのは、数日前からの張り込みで立証済み。
悠々と教室の中に入り、兄貴ちゃんの机の中に屋上を指定するラブレターを置こうとしたけど、足は急ストップ。
教室の中には、この時間帯にいるはずのない兄貴ちゃんとふーちゃんがいた。
お互い向き合って、真剣な顔をしている。
何を話しているのだろうか?
「むむむ?」
今まで見たことのない、兄貴ちゃんの苦しそうな顔。何を言っているのか聞こえないけど、ふーちゃんが驚いているのを見るに大切なこと。
教室に入ることができず、扉から顔を出し覗いていると数分。二人は何か話し込み、教室に人が入ってきたところでそ終わった。
ふーちゃんがこっちに歩いてきているのが見えたので、慌てて顔を引っ込める。
とりあえずラブレターを置いておきたいので、教室から出てきたふーちゃんに何だお前は、とガン見されつつも、扉の横でしゃがみ隠れる。
「どうしよぉ……」
話していたことも気になるけど、うちは今日意を決してラブレターを置きに来た。
兄貴ちゃんがいるのなら、そんなもの直接置くことなんて不可能じゃ……。
「なぬ!?」
チラリと様子をうかがってみたら、兄貴ちゃんは寝ていた。それも気持ちよさそうに顔をとろけさせて。
これはチャンスだと思ったうちはすかさず教室へ。
中にいた人に奇妙な目で見られながらも、机の中にラブレターを入れることに成功した。
「ふぅ〜。ナイスうち。頑張ったうち」
顔が真横にある状態でラブレターを置くなんて、想像してなかった。
なにはともあれラブレターに書いといた指定の時間と場所は……。
やってきましたお昼休み。
まだ屋上にはうちしかいない。4限目が終わった瞬間、ダッシュで屋上来たので無理もない。
空は、今から告白するうちのことを応援するかのような、雲ひとつない快晴。気持ちも晴れていてスッキリしている。
深く息を吸い、深呼吸していると屋上への扉が開かれた。
兄貴ちゃんが何だ何だ? と、訝しげな顔をしながらうちの前に来て止まった。
「で……。朝、急に手紙で俺をこんなところに呼び出してどうしたんだ? 電話で呼び出しても良かったのに」
「別に? たまたまそうしただぇ〜」
「あっ。そう」
たまたま、というのは嘘。電話ではなかったのは、うちなりのこだわり。やっぱり告白するのなら、直筆の手紙にしたほうが気持ちが昂ぶるというもの。
「それで、どうしたんだ?」
「実は……」
兄貴ちゃんの真っ直ぐな眼差しを見て、言葉を呑んでしまった。
「実は?」
一言言えばいいだけなのにその一歩が大きい。
告白すれば今の関係が崩れてしまうのを恐れている。
いつも見ていた、子供のように夢中な顔。
いつも見ていた、大人のような落ち着いた顔。
いつも見ていた、男らしい姿。
それらを見られなくなると思うと痛い。心が。けど、でも、それでも、と自分に言い聞かせる。
自信がなくなり下を向いていた顔が正面を見据える。
前にはうちの言葉が上手く出ず、心配そうな顔をしている兄貴ちゃんの顔。今から告白されるなんて一ミリも思っていなさそう。
「兄貴ちゃん」
「ん?」
「好きだよ」
そよ風が吹き、金色の髪が中を踊った。
風の音に掻き消された、口兄貴ちゃんからの返答を見てつい瞳から涙がこぼれ落ちてしまった、
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