第26話



「これにて午前の部を終了します。午後の部開始は一時間後です」


 休憩のアナウンスが流れ、周りにいた人達はそれぞれ動き始めた。


「紗千はこれからどうするの?」


「うぅ〜ん。多分、お母さんが来てるからそこに行くと思うんだけど……。あっよかったら一緒に来る?」


「いや、そんなせっかくの親子の時間に悪いよ」


「そう? でもお母さん、結梨と一回話してみたいって言ったから来てほしいな」


「じゃ、じゃあ行くことにする」 


「うん!」


 結梨のことを連れ、お母さんを探す。

 競技中、お母さんと兄貴さんが一緒にいたのがたまたま目に入ったのでどこにいるのか大体は検討つく。


「あっ、紗千。あのテントに兄貴くんがいる! そういえば兄貴くん、体育祭で見なかったな……。ちょっと喋ってきていい?」


「う〜う、うん」


「じゃあちょっと行ってくる!」


 結梨はだらしない子供をしつけに行くように、むすっとした顔で走っていった。

 兄貴さんの隣に、お母さんが見えた気がしたので私もその後ろに続く。


「ねぇちょっと兄貴くん! あなた体育祭なのに、午前中一体どこにいたの!?」


「あ、えっと……」


「この坊やは私に体育祭とは何か。いろんなことを教えてくれてたの。あら、あなた何も用事ないって言ってたのにやることがあったのかしら?」


 兄貴さんの隣りにいた知らないおばさんが、突然結梨に向かって怒った。


 この人は一体誰なんだろう?


 二人共何も言わず喧嘩触発の空気の中、兄貴さんが二人の間に割り込んだ。


「いえいえ。やることなんてありませんよ。この人はちょっと真面目なところがありまして……。サボっていた俺のことを躾けたいだけなんですよ」


「あら。なんて面倒くさい人なのかしら。人がサボっているのを許容できないなんて、器が小さい女ね」


「なっ……!?」


 糸が切れついに結梨が怒りそうになっていたので、私が慌てて止めると「そう……。まぁ、紗千が言うんならわかった」と怒りたい気持ちを堪えてくれた。


「で、えっと二人は……なるほど」


 兄貴さんはなんで私達がここに来たのか一瞬で理解し、知らないおばさんを連れてテントから出ていってしまった。


 突然どうしたんだろう?

 ま、考えても仕方ないか。


「ふぅ〜」


 とりあえず結梨と一緒に椅子に座って一息ついているお、隣にいるお母さんが脇腹を突いてきた。


「何?」


「もしかして、そこにいるのがあなたがいつも喋ってる噂の結梨ちゃん?」


 お母さんは会えて嬉しいのか、いつになくソワソワしている。


 そういえばお母さんに結梨を紹介するの忘れてた。


「そうそう。結梨。この人が私のお母さんね」


「ど……うも。結梨で、す。いつも紗千さんとは仲良くさせてもらってます」


 透かした顔してるけど、口がうまく回っていないので緊張してるのがわかりやすい。


 結梨のことも心配だけど、正直お母さんが余計なことをしないか心配。この人、ドラマや映画の見すぎで美味しそうだと思ったら変に食いつくから……。


 私の予感が的中してしまったのか、お母さんはずっと「ふぅ〜ん……」と、結梨のことを観察している。


 これは巻き込まれる! 危機感を感じ、すぐさまお母さんのことをなだめようとしたが手を前に出され静止させられた。


 お母さんの顔が、美味しいご飯を前にするそれ。

 

「なるほど。あなたがうちの子がいつも言ってる、一番の友達の結梨ちゃんって言うことはわかったわ……。けど、私は認めないわ」


「はい?」


「だから私はあなたになんか紗千ちゃんをあげないって言ってるのよ!!」


 ただ茶番につきあわされ、怒声のような叫び声を浴びせられた結梨は唖然とした顔をしている。


 いい加減、暴走しているお母さんのことを止めようと仲介に入ろうとしたがまた止められた。

 美味しそうなものを食べる顔ではなく、いつになく真剣な顔で。


「あなたが本気でうちの子のことを思っているのか試してあげるわ」


 お母さんはふん! と椅子にふんぞり返り、結梨のことを偉そうに見下ろした。


 こんな面倒くさいことに乗るほど、結梨はお子ちゃまじゃないだろう……と思っていたのだが。


「紗千のお母様。僭越ながらその試し、受けさせてもらいます。……本人を堕とす前に、上のご承諾を受けるのが筋だと思いますので」


「ふぅ〜ん。あなた、意外とおもしろいじゃない」


 挑戦者チャレンジャーである、少女が向ける瞳に映るのはいずれ超えるべき壁だった……。


 って、何この状況?



 


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