第25話
空はこれから始まる体育祭を応援するかのように、真っ青で雲ひとつない。
アニメでの体育祭。
それは、結梨が紗千の親に出会う大事なイベント。
この乱れた世界で同じようになるのかわからないが、さっき紗千が親が来るとソワソワしていた。
気を引き締めることに越した事はない。
「それがあれで……」
「なるほど。その後にこれを……」
周りは忙しそうにしている。
ちなみに今、というか体育祭は俺一人で行動する。舎弟藤原やギャルは青春を謳歌するのので別行動。
ついてこなくていい、といったのは俺なので特に不満はない。逆にいつもうるさい奴らがいなくなってせいせいしている。
「ちょっと俊介くん! こっちにある機材、運んでっていったじゃん!」
「はいはい。今やりますよ」
体育祭はもうとっくに始まっている。さっき藤原達が楽しそうに玉入れをしていた。
俺の競技は午後からなので、サボるためにもテントの中で生徒会を手伝うふりをていたのだが、どうやらバレてしまったらしい。
渋々地獄の太陽のもとにいき、日光に照らされ熱々になってしまった黒い機材を運ぶ。
「お? 俊。こんなことろでなにして……あぁ。その機材はこっちじゃなくてあっちだ」
「まじかよぉ……」
「ははは。大変そうだね」
「そう思うんなら手伝えよ。会長って周りからは優しい人っていう評価なんだろ?」
「いやぁ〜…〜別にそんな遠回しにバカにしなくても喜んで手伝うさ。俊には生徒会じゃないにも関わらず、これまで色々助けられてきたからな」
少し前まで社畜として働いていたから、たまたま役に立てただなんて口が裂いても言えない。
ちょっと前に仲良くなった生徒会長は俺が持っていた機材をほぼ一人で持ち、テントの中に運んでくれた。
「ほいっ」
「おっとっと」
手を滑らせながらも、飛んできたペットボトルをキャッチした。一言会長に感謝し、冷たい液体を喉に通す。
「ぷはぁ〜!! やっぱ、労働後の飲み物が一番だ!!」
「なぁ〜にが労働だ。ただ機材を運んだだけだろ……。俊って大きく見えるときと小さく見えるときの差がすごいよな」
「何だよそれ。もしかして褒めてくれてるのか?」
「……まぁ受け取り方次第かな。って、そんなことより僕もういかないと。じゃ。あっここだけの話、俊って先生達にマークされてるから、サボるのも程々にしとけよ!」
「お、おう」
最後にとんでもない爆弾を投下して走り去っていったな……。
「あら、あなたこの学校の生徒さんかしら?」
これからどうしようかと迷っていると、近くの席から掠れたおばあさんのような声が聞こえてきた。
「えぇ。はい。ですが、できれば俺がここにいるのは黙ってもら……」
思考が止まった。
ここにいるはずがない人が目の前にいた。
白髪にケバい化粧。主張がありえないほど強い何かの花の香水。薄紫色の服を着ているそのおばさんは、もっと先で出会う人物。
これからのことしか頭になくて、この最重要人物のことを完全に忘れていた。
「えっと……」
通称ゴキブリおばさん。
この人はファンの中で、裏の悪役だと言われている。具体的に直接おばさんが何かしたことはない。そう、何もしてないのだ。
「あら、どうしたのかしら。私、何か変なことを言ったのかしら。おほほっ」
いるだけで紗千と結梨の間に不運を撒き散らすおばさん。いなくなるフラグが立っても、ゴキブリのように這い上がっていくことからその呼び名になった。
ここはどうにかして俺がゴキおばを体育祭から追い出さなければ。
「あの、えっと……おばさんは特に何も俺に変なこと言ってなくてですね? ただ何も反応しなかったのは、俺の方の問題でして……」
「おっほっほ。そんな、あなたみたいに若い子がおばさんなんかに恐縮しなくていいのよ。私が何か悪いことをしてるみたいになっちゃうわ」
「そう、ですか……」
会話が止まってしまった。
ゴキおばは、俺という若者と喋ることができて嬉しいのか「ふんふん」と鼻歌を歌いながら競技を見ている。
なんでこの人が来ているのか未だにわからない。
「あの、すみません。ここって、保護者が座ってもいい場所でしたか?」
タイミングが悪く、後ろからアニメで何度も聞いた声が聞こえてきた。
「あ、申し遅れました。私は紗千の母親です。兄貴さん。あなたのことは、娘からよく聞いてます」
知らないふりして逃げようと思っていたが、まさかの身バレに内心バクバク。
「あはは……どうもこんにちわ。こちら、席どこでも座っていいですよ?」
「ではせっかくなので、あなたの隣りに座らせてもらいますね?」
「ど、どうぞ……」
自分でも苦笑いになっているのがわかる。
紗千の母親こと紗千ママと、ゴキおばに囲まれるという最悪の状況。
「そういえば、あなたって……」
「若い子。あそこにあるのって……」
さらに同時に話しかけられるという最悪の状況。
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