第22話


 アリスが転校してから、一週間が経った。

 もう隣の席は転校初日のような賑わいはなく、今は限られた友達のような人達が集まっている。


 この一週間。初日に紗千と結梨の邪魔をしたこともあって、アリスのことを観察(尾行)してわかったことがる。


 それは……ということ。


 正直、転校してきて知らない人達を引き離そうとしているなんて突拍子もない話なのだが、アリスはいつも二人の間に入って二人の空気を邪魔している。外国人? だから空気が読めないだとかそういうレベルじゃない。


 あいつは計って紗千と結梨の仲を解消させようとしている。


「兄貴……あいつ、なかなかボロ出しませんね」


「だな」


 ちなみにもちろん、アリスの観察(尾行)は舎弟藤原にも手伝ってもらっている。


 ギャルは深く踏み込まず、今回は傍観者を決め込む腹らしい。「この件はうち達がでる幕じゃないくない?」とのこと。

 ギャルの言い分もわかるが、二人の仲を引き離そうとしているのをみすみす見逃すようなことはできない。


 気を引き締め、どんな策で厄介なアリスを遠ざけようか思考を巡らせるが一向に思いつかない。


 どうしよう? どうしよう? と悩み続けている。


「はぁ〜……」


 隣から深いため息が聞こえてきた。


 俺は無垢な彼女が時折見せる、何かを考えている表情とため息が不思議で仕方ない。

 何を考えているのか全く予想もつかないのが怖い。


「あの、何でしょうか?」


 しまった。ガン見しすぎて、見ていたことがバレてしまった。


「いや別に? アリスって、意外と落ち着いた一面があるよなって思って」


「それは……人間誰だって、落ち着く時はあると思うです」


「だ、よな。うんうん。ごめん。別に、アリスのことをおしゃべり大魔神だとかそういうふうには思ってないから」


「むぅ……」


 アリスは小さなほっぺたをふぐのようにぷくぅ〜と膨らませ、ぷいっと顔を横に向け、拗ねてしまった。


「アリス、兄貴くんのことちょっと勘違いしていたです」


「どう思ってたんだ?」


「なんかもっと薄汚くて、どんなことをするにも外道な人だと」


「ひどい言い方だな」


 俺、アリスの前でそんなひどい事してないぞ?


 いきなりボロカス言われ、普通に傷ついた。


「でも実際、佐藤俊介くんならそうでしょ?」


 ニヤリと何か裏がありそうな顔。


 久しぶりに本名を言われ、ドキッとした。


「いやいやいや。どんなことをするにも外道って一体俺を何だと思ってるんだよ。……そんな傍から見て、ヤバいことしてたか?」


「いえ、してなです。けどそれは兄貴くんが自分から、避けて通ってきてるからなんじゃないです?」


 質問の意図がわからない。


 俺が避けて通ってきてる? 

 そんなのあたりまえなんじゃないのか?


 いや、もしかして……突拍子もないがもしかして今、アリスが言っていることは


 その裏付けとして、「外道だと」というのがいい例。


 もしかしたら、この転校生はなのかもしれない。


 今まさに隣で俺のことを悪く言われ、怒りそうになっている舎弟藤原を落ち着かせるためにも、ここは一つカマをかけてみるか。


「まぁそりゃあ、外道なことをしない方へ方へってするよ。……それより、俺アリスのことで一つ気になってることあるんだけど」


「なにです?」


「そのさ、アリスってなんで紗千と結梨の進む道を先回りして二人の間を邪魔しているんだ? 気づいてたのか知らないけど、ずっと俺達つけてたんだぞ」


「そうだそうだ! ずっと見てたぞ!」


 藤原は何の話か理解していない顔をしているが、俺に続いてアリスにたたみ掛けた。

 

「ッ」

 

 嘘でしょ!? と言いたげな顔。


 どうやら尾行していたのには気づいていなかったらしい。最初から俺のことを怪しんでいたのに、詰めが甘かったな。


「図星、か。俺と言う、本来とは違う動きをする人間がいるのに流石にそれは迂闊すぎたな」


「……そ。やっぱりあなたも」


 この言葉で、アリスが俺と同じなのだと確定した。


「まぁ、そうだな」


 どうやってこの世界に来たのか? 聞きたいことは山ほどあるが、こいつは紗千と結梨の仲を引き離そうとしている。手を取り合うことはできない。


「仲良くなりたいけど、アリスはやることがあるの。邪魔するのなら、全力で対抗するです」

 

「臨むところだ」


 俺の返しにアリスは負けじと睨み、椅子から立ち上がって教室から出ていった。


 元いた世界の人間。

 アリスが言う「やること」とはどういうことなのか? 知らないことだらけ。


 相手に謎の対抗心をなくす方法は……。


「おい藤原。アリスを精神的に追い込ませにいくぞ」


「う、うっス」


 相変わらず状況を全く理解できず、ちんぷんかんぷんな顔をしている藤原のことを連れ、急いでアリスの後を追った。

 

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