転換期編②
第21話
ギャルから言われた、「普通の男子高校生」というのをずっと考えていた。考えていたのだが、答えがわからず迷路に突入。
舎弟藤原に聞くと、それは今の俺達だと。
俊介のお母さんに聞くと、それは無鉄砲で我武者羅に進み続ける覚悟だと。
元ヤン雅弘に聞くと、それは男気だと。
全く答えがでないまま気づいたら、半袖シャツ。額から汗を絶やさない季節、真夏になっていた。
「でさぁ〜あいつって……」
「ぎゃははははww」
「そういえば、この前バイトの先輩が……」
今日も教室は賑やか。
もう最近は紗千と結梨のことを覗くのはひかえている。どうなっているのか気になるが、それは我慢。俺は今、二人の友達として過ごしているのでこの関係を崩したくない。
「そういや兄貴。今日、兄貴のクラスに転校生が来るらしいですよ」
「へぇ〜。藤原ってそういう情報に詳しいのか?」
「いや……。たまたまクラスの連中が話してたのが聞こえてきたので、別に」
「そっか。まぁ俺にとって転校生なんてどうでもいいんだけど」
「ですよねぇ〜」
キーンコーンカーンコーン
「では兄貴、失礼します!」
「おう。またな」
藤原が教室を出ていくのと入れ替わりに、教師と転校生らしき人が入ってきた。
「まじかよ……」
「かわいい……」
教室中が、転校生のことを見てざわつき始めた。
教師がそんな生徒たちを一喝し、黙らせ転校生の自己紹介が始まった。
「こんにちわ。私、はイギリスから来ましたアンドレア・アリスでっす」
「きゃやややや!! アリスちゃぁん!!」
「「アリス!! アリス!!」」
「だから少し静かに!! アリスくんがびっくりしてしまうだろうが!!」
再び教師が一喝し、限界オタクになり始めていた生徒達を黙らせた。他の奴らが騒ぎたくなる気持ちもわかる。
真っ白な天使の翼を連想させる長髪。
純金のような綺麗な輝きの瞳。
世界一のモデルをも凌駕するスラっとした立ち姿。
どこを見ても俺達と同じ人間だとは思えないほど美しい女性。
「それでアリスくんの席なんだが……ちょうど空いてる、俊介くんの隣の席にする。俊介。隣の席として色々教えてあげるんだぞ」
「はぁ〜い」
周りからアリスが隣の席なんてずるい、と羨ましそうに見られたが俺はそんなことどうでもいいので特になんとも思わない。
そうこうしていると、てくてくアリスが隣の席にやってきて椅子にストンと座った。
俺の様子をうかがっているのか、挙動不審だ。
「なんだ? 何かわからないことがあるんなら答えるけど」
「い、いえ。あの、ただよろしくおねがいします、とご挨拶をしようかと思いまして……」
「あっ、そう」
俺がぶっきらぼうな返しをすると、周りの視線から殺気を感じた。
「んん。こちらこそよろしく、アリス。俺のことは俊介……親しいやつらは兄貴って呼んでるから、アリスには兄貴って呼んで欲しいな」
「よ、よろこんで! 兄貴さん!」
丁寧に好印象な返しをしたはずなのだが、周りからの殺意むんむんの視線はなくなることはなかった。
時間は過ぎ、お昼休み。
隣の席のアリスは、今や有名人ばりに机の周りに人が集まっている。ちなみに俺はいつも通り、というべきなのか舎弟藤原と紗千、結梨のことを眺めている。
二人今、というか最近はずっと密かに卓球をしている。
最初こそは球を打つところから始めていたが、今や二人は余裕でラリーをできるほどに成長していた。
「兄貴。やっぱ、卓球楽しそうっスね」
「……だな。今度俺らもやってみるか」
「うっス」
このまま時間が過ぎ、いつも通り昼休みが終わる。そう思っていたのだが突然、二人がいる場所に考えもしなかった異分子がやってきた。
「あっ! こ、れもしかしてタッキュウというやつなんじゃないで、すか!」
「えっとあなたは……?」
さっきまで笑顔でラリーをしていた二人から表情が消えた。
異分子。俺以外の人が誰かわからず、首を捻っている人物は……。
「アンドレア・アリス、です。気軽にアリスと呼んでもらえると嬉しいです!」
純粋で無垢な子供がするような笑顔で、俺がした自己紹介と既視感のある自己紹介をした。
「へ、へぇ〜……。噂の転校生、か」
突然二人の空間を邪魔され、無垢な笑顔を見せつけられた紗千もこれには苦笑い。
「さっきアリスちゃん、卓球に食いついてたけどまさかやったことないの?」
「はい! アリス、タッキュウというのはテレビでしか見たことがなかったのです!」
紗千の反応とは逆に、結梨はどちらかというとウェルカムな姿勢。
アリス。二人の空間を邪魔した罪は重いが、久しぶりにムスッとした紗千が見れて嬉しいのでここは許してやろう。
「じゃあアリスちゃん、一緒に卓球やらない? 最初は難しいけど、慣れれば簡単だから」
「よろこんでやらしてもらいます!」
予備でおいてあったラケットを握り、結梨、アリス対紗千。
「兄貴……。俺の勘違いであってほしいんですけどあのアリスっていうの、さっきから俺達のことをジロジロ見てきてません?」
「え? そうか?」
紗千の反応を見ていたので気づかなかった。
もし俺達の存在がバレ、二人に伝えられたら一貫の終わりだ。
アリスのことをじっと観察する。
「おい、見てるじゃねぇか」
「ですよね……」
卓球をしてるというにも関わらず、合間合間に見てきている。なんなら何度か目があった。
「あの、あそこにいる私の知り合いも、一緒にタッキュウをしたそうにしてるんですけど……いいですか?」
アリスは俺たちのことを指さしきた。
紗千と結梨の不思議に思っている目がこっちを向いた。とりあえず、たまたまここにいましたよ感を出すためさり気なく手を振っておく。
「あっ、知り合いは兄貴さん達だったんだ。もちろんいいよ。皆で楽しく卓球しよ?」
「あはは……なんかごめんね」
俺と藤原は、静かに怒っている紗千に向かってペコペコ頭を下げながら台についた。
「じゃあ、アリスから始めるです!」
無邪気に卓球を楽しんでいる笑顔が、今の俺には無垢のようには見えなかった。
「ちょっと、兄貴さん! ぼーっとしないで!」
「あっごめん」
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