第20話
ヤンキー雅弘のもとにカチコミし、あれやあれよといつの間にか一週間が経とうとしていた。
あれからあいつとは一度も会っていない。どうしてるかなんて知りたくもない。
紗千と結梨の仲は、より親密な仲になっている。二人の間に立ち塞がる障害を俺達が排除しているから、と言うのもあると思うが、この二人が恋人になるのはもう時間の問題だろう。
俺はそんなゴール目前の二人を見て、時より考えてしまう。これから先、どうしようかと。
今現在。いや、この今俺が見ている世界が現実なのか不明だが、今俺はそれなりに高校生を満喫している。
陽キャと分類されるグループにいて、それなりに友達もいる。ゲーム仲間もいて、女友達もいる。なんなら、この前体育館裏で知らない同級生に告白された。もちろん断らせてもらった。
何を考えているのかというと、俺という……佐藤俊介という人物は悪役でもなんでもなくて、ただのどこにでもいる高校生だということ。
悪役だったのはあのアニメの中の話。このお話、物語、世界では違っている。
これは雅弘という人物が良い例。
「なぁ、俊。これからカラオケ行かね?」
「う〜ん。どうしよっかな」
帰る前、友達からの遊びの誘い。
紗千達のことを見守るか迷う。
「この前みたいに用事があるから行かないとか言わないでくれよ? 俺ら、学校以外じゃ家が遠いってこともあってなかなか遊べてないから、今日ぐらい遊ぼうぜ」
「じゃあ、遊ぼ……」
「遊ぼう」と言う寸前だった。
俺は下駄箱から靴を履き、校門の近くにいる他校の制服を着ている男を見て考えが変わった。
「すまん。絶対に行かないといけない用事があったんだ。遊ぶのはまた今度な」
「えぇ〜まじかよぉ〜」
俺と遊べずに嘆いている友達を先に帰らせ、校門にいる男のもとに走っていった。
「おい、なんでお前がここにいるんだ。もう関わらないって言ってただろうが。まさかあの言葉は嘘だったのか、雅弘」
「おや? 君はあの、えっと……兄貴と呼ばれていた人だな。まさかこんなところで再び出会うことになるなんて思いもしなかった」
「それはこっちのセリフだ」
雅弘。見た目が結構変わっている。髪型は変わっていないが、タトゥーを消し黒髪にしてヤンキー感が薄まった気がする。
そんな格好で、なぜこんなことろにいるのかな疑問だ。
さっきからキョロキョロと目を動かして、人を探しているのは確実。
「それで、またなんでこんなことろに来たんだ? お前、自分で言っていたことを破るなんていうクソみたいなことしないよな?」
「ふむ。君は私が結梨のためにこの高校に来たと思っているのかね?」
「それ以外になんの理由があんだよ」
「ふふふ。そういえば、まだ君に話してなかったな。私と彼女の運命の出会いを!」
雅弘はそれはもう嬉しそうにここに来た理由をべらべら喋り始めた。
長ったらしく、遠回りに話していたがまとめると『この前、ハックで運命の女性と出会った』というもの。
女性の特徴は金髪で、少し肌が黒くて、喋り方が独特なギャル。角度的に顔は見えなかったらしい。ちなみにここに来た理由は、うちの学校の制服を着ていたのを見たから。
「で、君は私が今言った特徴と合致する人物を知っていないか!?」
「んなこと言われてもな。まぁ、この学校にはギャル自体少ないからその時間帯にハックにいた人物を特定することは容易にできると思うけど……」
「頼む! 特定してくれ! 彼女は私の運命の女性なんだ。……彼女を私に引き合わせてくれたのなら、この雅弘。それ相応の恩は死んでも必ず返そう」
雅弘はグッと握りこぶしをつくり、涙目で懇願してきた。
恩は死んでも返す、なんて大げさなことを言うなと思いながらも、これは俺達から引き剥がす絶好のチャンスだと思い、唯一の知り合いであるギャルに緊迫感を覚えるようなメッセージを送った。
「よしっと。とりあえずギャルに詳しそうなギャルに連絡しといたけど……。無理だってなっても、俺のこと恨むなよ?」
「当たり前だ。この、元森羅万象のリーダー雅弘。自分の力不足に、他人のせいにするなどダサい真似死んでもするものか」
ずしっと胸を張り、仁王立ちするその姿は壁のように見えた。
数分後。
「はぁはぁ……兄貴ちゃん!! 知らない男がギャルのことを根絶やしにしたいから、それを止めてくれって一体どういうこ……と?」
ギャルは俺の目の前に立っている、一度喧嘩を売った雅弘のことを見てスッと俺の背中に隠れた。
「ふむ。私は別にギャルのことを根絶やしにしたいわけじゃなくて、知りたいことを教えてもらおうとしたのだが……」
「ふ、ふん! だ! うちはそんな甘ったるい言葉に騙されないぞ……。兄貴ちゃんがここにいるってことはまさか、人質!?」
「いや、ごめん全然人質じゃないわ。うん。あのメッセージはちょっと誇張してて、この雅弘が言ってることが正しい」
「へ、へぇ〜。それで知りたいことってなんなの? うち、あんたのことあんま好きじゃないから教える気にならないと教えないから」
「とりあえず話だけでも……」
10分後。
「うっうっうっぐ。うち、あんたのこと応援しちゃう!」
「本当か!」
「うん。あんたが言ってた日時にハックにいた友達がいないか聞いてみる」
「助かる」
ギャルは絵に書いたように雅弘が語った運命の出会いに感化され、手を貸すことになった。
正直、俺は雅弘が言ってる人が見つかる可能性はほぼないと思ってる。だって、ほとんどその人について何も知らないんだ。
たまたま俺の知り合いのギャルが、たまたまその人の連絡先を知っているとかそんなうまい話あるわけ。
「あ、いた」
あるのね。そんなうまい話。
「お、お名前は一体なんていう?」
「それは直接聞くべきぃ〜。あんたの探してる子は、今日もハックにいるらしいけど……」
「ありがとう!! この恩は一生忘れない!!」
雅弘は嬉しそうにスキップ混じりに走り去っていった。
「なんなのあいつぅ〜」
「ま、まぁ好きな人に夢中なだけだろ。ヤンキーをやめて、普通の男子高校生に戻ったのなら良いではないか良いではないか」
うんうん、と走っていった先を眺めているとギャルは突然後ろから服の裾を引っ張ってきた。
「ん? なんだ?」
「兄貴ちゃんはどうなの?」
「なにが?」
「なにって……。さっき言ってた普通の男子高校生っていうの。兄貴ちゃんは高校生してる?」
「えっと……」
すぐには答えられなかった。
この後、「当たり前じゃん。何言ってるの?」と返したがどうやらギャルは納得できないのか「ふぅ〜ん」と目をそらしどこかに去っていった。
今の俺を的確につく質問。その貫く瞳が、俺の隠している心をも貫いているようだった。
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