転換期編

第17話



 誰もいない、静かな図書室。

 今日の係は紗千と結梨。

 俺達はそんな二人を、棚にある本の隙間から覗いている。


 覗いている……というのも、全部二人が悪い。仲が悪くなってしまったわけじゃない。その逆。いつの間にか名前を呼び捨てで呼ぶほどの仲になっていた。


 今日一日一緒に過ごして、休日になにかがあったのだということはほぼ確実。


 正直、こんなプライベートな事に俺が首を突っ込むのは良くないと思うが……なにか二人の間であったのなら知っておきたい。


「さーちゃんとゆーちゃん、絶対うちらになにか隠してる。……うち、それ知らないと今日は帰らないぃ!」


 後ろにいるギャルはいきなり小声で宣言してきた。


 このギャル実は今日、二人の空間に圧倒されいつもの調子で絡むことができず不満を呈してきた。

 俺がなにかしたんじゃないか、と。いつもさーちゃんたちのこと見てたからなにかしたんじゃないか、と


 ギャルからの冤罪を晴らすためにも、今日は本の隙間から二人のことを覗いている。


「これから二人はどうなる……。ごくり。たまらなく、楽しみっス」


 ちなみに舎弟の藤原もいる。


 後ろに変人二人の存在感を感じつつも、今まさにイベントが起きそうな二人を覗く。


 特に何も変化はない。


 紗千と結梨はカウンターみたいな場所で、静に座っている。紗千はスマホをいじっていて、結梨は本を読んでいる。


 これは……なんにもないのかな?


 と、そんなことを思っていたとき。


「やっぱり私には紗千がいないとだめ!」


 いきなり結梨が紗千に後ろから抱きついた。


 俺の聞き間違いや見間違いじゃない限り、今結梨が紗千って呼び捨てをして、抱きついた。


 本当に休日、二人の間に何があったんだ?


「ど、ど、ど、どうしたの!?」


 紗千の反応は相変わらずのもの。


 目がぐるぐる回って、いきなり抱きつかれたことに混乱している。


 結梨は混乱していることに気づき距離を取った。


「ねぇ紗千」


「なんでひょうか……」


「この前みたいに、また二人で一夜を過ごそうね」


「いひっ!?」


 衝撃のあまり、叫びそうになっていた藤原の口を塞ぐ。


 危ない危ない。バレるところだった。


 そんなことより今なんて言った?

 また二人で一夜を過ごそうね……? それって、文字通りのことだとな?


 まさかもう二人はそんな距離まで近づいていたのか!? 俺も衝撃の展開に叫びそうだ。


「そんな変な言い方しないでよ……。お泊り会でしょ?」


「そうとも言うかもしれない」

 

 何だお泊り会か……。いやお泊まり会!?


 お泊り会って言ったら、二人がお互いのことを意識し始めたときに突如として始まった、サービス盛りだくさんな回のじゃないか。


 あれってまだかなり先の物語が進み、二人が本当の意味で心を開き始めたときの話だと思うんだけど……。

 

「へー……さーちゃんとゆーちゃん、お泊り会してたんだ」


 ギャルがあからさまにしょんぼりした。

 仲間はずれにされた、とか思ってそう。


 って、ギャルのことなんてどうでもいい。

 今は二人ことだ。


「でも、私ももう一回お泊り会したいなぁ〜。私、初めてでよくわからなかったけどすぐ寝ちゃったし」


 ん? 何の話をしてるんだ?

 《《初めて》?


「まぁ、あんなに長い時間ヤるのは流石に私もきつかったから、今度は時間を決めよう! お昼からヤるのは夜まで体力が持たないからね」


 一体昼からナニをヤってたんだ!?


 ダメだダメだ。変なことを考えてる。

 この二人はまだ恋人にもなってない、友達。

 流石にそこまで進んでない……はず!


 いや、俺の知らないところでもうとっくに二人はもっと進んだ関係に……。


「あれ? あっちゃん! もしかして、私のこと待っててくれたの?」


 その声を聞いて、ようやく気づいた。

 ギャルがいつの間にか隠れるのをやめて、二人の前に立っていたことに。


 一体何を考えてるんだ?


 頼むから変なこと言うんじゃないぞ……。


「うち、べぇ〜つにさーちゃんのこと待ってたわけじゃないよぉ〜? ただ、さーちゃんが今日元気なかっから気になっただけで……。元気ならいいや! じゃあ、うち今日習い事あるから帰るぅ〜!」


 ギャルは饒舌に喋り、風のように去っていった。


 あの挙動不審な感じ。

 まさかあいつ……目覚めたか?

 後で確認を取らなければ。


「どうしたんだろう、あっちゃん。習い事なんてしてないってこの前言ってたのに。やりたいことでも見つかったのかな?」


「もしそうだったら、すごいなぁ〜。私なんてなんにもやりたいことないよ。紗千はなにかある?」


「私は……」


 完全に空気が変わった。

 なんというか……恋人になりそうな空気。


 こんな場所、もう俺たちがいる必要はないな。


 窓を静かに開け、身を乗り出す。


 外にいる生徒に変な目で見られてるけど、そんなの知ったことか。


「藤原ぁ帰るぞぉ……(小声)」


「わかりました(小声)」


 二人の距離が縮まっていたのは予想外だったが、悪い方向には進んでいないので、変わらず俺たちは後押しするのみ。



――――――――――――――――――――――――

今日から毎日投稿、がんばります。

ジャンル別で100位以内に入りたいな……。(★★★を貰えると順位が上がるよ!)

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