第16話



「うっ……」


 お腹に圧迫感を感じ、目が覚めた。

 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。


 昨日はこれから名前で呼び合う、という夢のような出来事がありついつい泣いてしまった。


 あれ? 泣いて、そのあとどうしたんだっけ?


 泣いて、背中をさすってもらって……寝た?

 嘘。私、ゲームし終わってから疲れて寝てまた泣いて疲れて寝たの?


 せっかくのお泊り会なのに、ゲームして泣いて寝ただけなんだけど。


 衝撃の事実を前に、とりあえず起き上がって結梨と今からでもなにかしよう、と思ったのだが体が動かなかった。


「うっそ……」


 右を見ると、結梨の寝顔が。

 左を見ると、結梨の足が。


 この圧迫感って結梨の体だったんだ……。

 それにしても以外と寝相、悪かったんだ。


 えっさえっさ、と体を持ち上げてどうにか脱出する。


「ゆ、結梨ぃ〜……」


「すぴーすぴー」


 起きる気配がない。

 爆睡している。


 ト、トイレに行きたくなってきた。

 どこにあるんだろう……?


 人様の家だけど、トイレを探しに行かないと。


「ちょっとトイレ探しに行ってくるねぇ〜」


 小声で寝ている結梨に伝え、扉を開ける。


 どうしよう。この家、お風呂に入りに行ったときにわかったんだけど見た目通り物凄く広い。


 虱潰しにトイレを探そうとすると、多分間に合わない。


 ……そういえば、玄関の近くにトイレらしきマークがある扉があった気がする。 


「いざゆかん。我が黄金郷へ!」


 目線の先に、トイレがある。

 だが足を進められない。

 その理由は……。


「ふっんふんふぅ〜ん!」


 トイレの近くにある、玄関を誰か知らない女性が掃除しているから。

 それも白と黒を基調とした、メイド服を着ている女性。顔立ちが外国人なので、結梨ママじゃない。

 

 ……ということは、容姿を見るに本物のメイドさん?


「しゅごぉ〜初めて本物見たぁ〜」 


「そうね。私も私が依頼するまで、見たことなかったわ」


 突然、後ろから体をホールドされ耳元で囁かれた。

 だ、誰!?


 襲われる! と危機感を覚えながら、後ろを振り向くといたのは結梨ママだった。


 結梨ママ、私がぬいぐるみを吸ってたのを見ていたかもしれない。ここは慎重に接しないと……。


「……本物のメイドって、なんていうか雰囲気が違うわよね?」


 結梨ママは私の顔を覗きながら聞いてきた。


「そう、ですよね。その……本物っていうことはこの方、外国の本物のメイドなんですか!?」


「ふっふっふっ。そうよ。夫がスカウトしてくたのよ」


 スカウトするなんてすごぉ〜。

 結梨のパパって、一体何者なんだろう……。


「あっ」

 

 やばい。忘れてた。

 私、トイレしにきたんだった!


「結梨ママさん!」


「は、はい。ママですけど」


「お手洗い、お借りしてもいいですか?」


「そんなこと、聞かなくていいのよ。自由に、ね?」


「あ、ありがとうございましゅ!」



 あの子が最近、ゆーちゃんが仲良くしてる紗千ちゃんね。第一印象はちょっと変だったけど、いい人っぽい。これには、ゆーちゃんのママも仲がいいことに納得。


「あっ! 奥様じゃないですか! おはようございます!」


「あら。シャリン。今日も早いわね」


「はい! 昨日はお休みを頂いていたので、その分も働かせてもらいます!」


「えぇ頑張って」


 朝から元気だこと。

 ちょっと引いちゃうけど、こういうのを目の前にすると元気が出るのよね。


「そういえば、さっきお手洗いに行ったのは新しいメイドさんですか?」


「いえ。あの子はゆーちゃんが連れてきたお友達よ。あなたにはまだ言ってなかったけど、お泊り会してたの〜」


「そうだったんですか!? 大変です! 早く助けに行かないと……」


「え? トイレがどうにかしたの?」

 

 助けに行くなんて、よっぽどのこと。

 お掃除してた途中とか?


「それが……」


「ふぅ〜」


 シャリンがいいかけたところで、トイレからスッキリした顔の紗千ちゃんが出てきた。


 あれ? 助けに行かなくても、大丈夫そう。


「お……お、お、お、お体に異変はございませんか!?」


「え? にゃんでしゅか!?」


 シャリンはいきなり、紗千ちゃんのからだを弄り始めた。


 ……私には痴漢にしかみえないんだけど。


「ちょっと。シャリン、やめなさい。紗千ちゃんが困ってるじゃない」


「ご、ごめんなさい……」


 渋々体から手を離した。

 服が乱れて、紗千ちゃんの若いぴちぴちの肌が顕になってる。肩とか、お腹とか。


 シャリンはきつく言ってしまったからなのか肩を落として、しょんぼりしてしまった。

 心配してたのはわかるんだけど……。


「トイレになにがあったの?」


「ゴキブリです!」


「ひゃひゅ!?」


 その驚いてる声、どこから出てるんだろう。


「いやごめんなさい。言い方が悪かったです。……ゴキブリがさっきまでいたんです! もちろん、もういません!」


「掃除したのよね?」


「はいっ! 奥様のゴキブリ嫌いを考慮し、除菌を3回ほどしました!」


 ん? 掃除して、除菌もしてるのにどうしてゴキブリがいたトイレから助けに行こうとしたんだろう?

 

「えっと……シャリン。助けに行く意味ってあったのかな?」


「…………ないです」


「そうわよね」


「ご、ご、ご、ご、ごめんなさいぃいいいい!!」


 シャリンはいきなり、紗千ちゃんのパジャマ(ズボン)を脱がす勢いで引っ張りながら謝罪をし始めた。

 

 うんうん。勢い、というよりもうピンク色の下着が見えちゃってるよ。流石に直さないと……。


 って、こんなところゆーちゃんに見られたら、あらぬ誤解をされそう。


「あれ? お母さん……。何してるの?」


 後ろには寝起きのはずなのに、バキバキな目で見てくるゆーちゃんが。

 

 どうやらもう遅かったようです。

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