第13話
お菓子を取りに行くのに、時間がかかっちゃった。
スナック菓子みたいのにするのか、カステラみたいな洋菓子にするのか迷っていたから。
結局、2つとも持っていくことにしたけど紗千ちゃんのことを部屋に一人で結構待たせている。
お盆にお菓子を乗せて、えっさえっさ走る。
「おっと! お母さん!?」
突然曲がり角から、お母さんが出てきた。
なんか嬉しそうな顔をしている。
この曲がり角の先にあるのは、私の部屋しかない。
まさか紗千ちゃんにちょっかいを出したんじゃないのか?
「ちょっとお母さん。紗千ちゃんに余計なことしてないよね?」
「あらあらあらぁ〜。あの可愛い子、紗千ちゃんって言うのねぇ〜。可愛い名前ね」
可愛いって……。
絶対、紗千ちゃんに会ってなんかしたじゃん。
「何したの?」
「何って……。何もしてないわよ。ただ見つめ合ってただ、け♡」
お母さんはウインクして気分良さげにるんるん、と鼻歌まじりに歩いていった。
本当にこの女は一体何をしたんだ?
あんなウインク見ると、嫌な予感しかしない。
中学生の時、友達にいきなり小さい頃の写真を見せる、という前科があるから信用ならない。
一刻も早く紗千ちゃんのもとにいかないと!
「紗千ちゃん! 大丈夫!?」
「にゃひょ!? な、な、な、な、何かな? 私、何もしてないよ? うん。本当に何もしてない」
腕をカクカク動かして、無実だと訴えかけてきた。
この挙動不審な感じ……。絶対なにかあったでしょ。
「いや、さっきお母さんが部屋の中に入ってきたと思うんだけど、本当に何もなかった? なにか無理やり見せられたとか?」
「お母、さんだったんだ……」
紗千ちゃんの瞳に正気がなくなった。
やっぱり何かあったんだ。
「不安だったら、私に何でも相談して!」
「あぁ……うん。ありがとう。けど、大丈夫。……お母さんに何かされたわけじゃないし」
「そっか。よかった」
ん? お母さんが何もしてないのに、なんでさっきあんなにあわあわしてたんだろう?
うぅ〜む。考えててもわからない。
とりあえず、せっかく紗千ちゃんと二人なんだしいっぱい遊びたい。
「紗千ちゃん」
「へ? あ? ん? なにゅかな?」
紗千ちゃんはさっきから落ち着かない様子。
よし。ここは一発、仲良くなれるあのゲームをしちゃいますか。
「これをしよう」
「え? ゲーム?」
「そう。あの有名な対戦アクションゲーム。その名を……スヤブラ!!」
1時間後。
「なんなのそれぇ〜!! ずる! ずる! 反則!」
「のんのん紗千ちゃん。これは、ハメ技と言ってね……」
更に1時間後。
「えっへん。見たか結梨ちゃん。今、私が先にストック削った〜!」
「くっ。なんという吸収力と、ゲームセンス。紗千ちゃんのことを侮っていた!!」
更に更に4時間後。
「おぉ〜ほっほっほっ! 結梨ちゃんにしては、なかなか健闘したと思うザマス! でも私には到底敵わないでザマス!」
ディスプレイに映っているのは、ストックが2つ残っているプレイヤーとストックがないプレイヤー。
早いところ、私はこの6時間で3年間積み上げてきたものを追い越されたのだ。
ゲームをする前は落ち着かない様子だった紗千ちゃんは今、どこかにいそうな貴族の口調になっていた。
いい感じに緊張が解けたんだろう。
よかった。……負けたのは悔しいけど。
「げ。もうすぐで17時じゃん。ゲームしすぎて、お昼食べそこねちゃったね」
「私がはしゃいだせいで……ごめんなさい」
しょんぼりしてしまった。
別に怒ってるわけじゃないんだけどな。夢中になって、時間を忘れちゃうっていうの初めてかも。
「謝るところじゃないよ? そこは、楽しかった! じゃない? 私は楽しかったけど、紗千ちゃんは?」
「わ、私も楽しかった! こんなに夢中になったの初めてかも……」
初めてかもしれないのが一緒だったので、少しだけ嬉しかったのはここだけの秘密。
「これからどうする? 晩ごはんはもう少しあるし……って」
真剣に考えながら紗千ちゃんのこと見たら、考えるのをやめた。
なぜなら……。
「すぴーすぴー」
寝ていたから。
流石に6時間もぶっ続けでゲームするのなんて、初めてだったから疲れたんだろう。
私も疲れた……。
とりあえず、紗千ちゃんの頭の下に座布団をおいてと。それでもって隣で私も横になる。
寝るのなら、ベットがあるけどこんな感じで雑魚寝っていうのがまたいい。
「お母さぁ〜ん。晩ごはんできたら起こしてぇ〜」
「……ぁ〜い」
遠くから返事が聞こえてきたので、私も寝ることにする。
ゲーム満足するまでして、疲れて寝る。
なんかいい。友達と一回してみたかったんだよね……。
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