第12話



 ついに来てしまったお泊り会当日。


 念には念を入れ、お父さんから借りた登山用のリュックを肩に背負い、てくてく歩き、指定された場所についた。


 ついたのだが……。


「こ、こ、こ、ここであってるの?」


 キョドりにキョドりまくっていた!


 目の前にあるのは、鉄格子。

 その奥にあるのは、ホワイトハウスをも連想させるほど大きい白いお屋敷。


 スマホにある住所を見る。

 住所を入力する。

 ここであっていることを確認する。


「ごくり」


 とりあえずあっているかは、インターホンを押せばわかると思い近くにあるボタンを押し……。


「きゃう!」


 お、お、お、押せない!

 私、知ってるもん。

 こういうお屋敷のインターホンをおしたら、ボディーガードに消されるって。


「大丈夫、私。私、行ける!」


 と、自分で勇気づけてもインターホンを押せるはずもなく、鉄格子の前で三角座りしてしまった。


 聞けばいい、と思うんだけどメッセージなんてそんな気楽に送れないし……。

 もう集合時間の10時を30分も過ぎている。


 何もできない自分にため息をついていると、鉄格子が動いた音がした。


 見上げるとそこには、心配そうにしている結梨ちゃんが。


「その……えっと……」


 気まずい雰囲気になった。

 何を言えばいいのかわからない。


「はい!」


 結梨ちゃんはぱん! と手を叩いて一瞬にして空気を変えた。


「なんか、よくわからないけど私の家に入らない? ほら。こんな場所にいたら、逆に目立っちゃうし」


 ちらちら、と目を向けているのは道路。

 たしかに信号待ちの車に乗っている人たちが、私たちのことをジロジロ見ている。


「わ、わかった……」



 家……というより、屋敷の中に入り、あれよあれよと私は今結梨ちゃんの部屋の中でお茶をちびちび飲んでいる。


 結梨ちゃんはお菓子を取りに行ってしまった。

 つまるところ、一人なのである。


 薄いピンク色の壁紙に勉強机、ベット、小さなテーブル。部屋の中は整理整頓され、無駄なものがない。

 目立ったものはベットの上にある、うさぎのぬいぐるみくらい。

 

「いいのかな?」

 

 いいのかな? というのは、触ってもいいのかな? ということ。

 

 もちろん誰もいないので、返事はない。

 結梨ちゃんが帰ってくる前なら、触ってもバレない! 


 さっとぬいぐるみを抱きかかえた。


「お、お、お、おおぉ〜……」

 

 いい感じの綿のふかふか感。

 そしてなにより……。


「くんくん」


 結梨ちゃんの匂いがする!

 甘い、いい匂い。

 大好きな匂い。

 この濃度の高い匂いを鼻いっぱいに吸い込めば、とんでもなく幸せな気持ちになれそう!

 

「い、い……いいかな?」


 いいかな? というのは、ライオンのぬいぐるみに顔を埋めてもいいのか? ということである。


 もちろん誰もいないので、返事はない。


 沈黙は肯定と受け取る!


「すぅ〜……」


 酸素不足になるほど吸って……吐く。


「ふぁ〜……」


 いい匂い。ここが天国なのかと、錯覚してしまうほどいい匂い。


 ほけぇ〜、っとしていたのだが扉の前に知らない大人の女性がいることに気がついた。


 さっとぬいぐるみを横において、正座する。


「な、な、何もしてません!」


 否定したが、大人の女性は口を開かない。


 ずっと見てて、本当のことを言わないと許してくれないのかな……?

 

 何も反応が帰ってこないので、あわあわし始めると大人の女性はにこっ、と笑みを見せて去っていった。


「本当に何もしてませんから!」


 あの人は誰だったんだろう。

 この結梨ちゃんの家にいて、大人の女性と言ったら……。


「え? まさか、結梨ちゃんのお母さん!?」


 もしそうだったら、とんでもないところを見られてしまった!


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る