第10話



 観覧車を降り、藤原と結梨が睨み合っていた場所に来た。

 来たのだが……さっきから俺の目が、ある一人のに止まって動かない。


「ふふ! なにその、藤原くんの頭につけてるの」


「あぁこれは、さっき出店で買ったこの遊園地のマスコットキャラクターであるミミの助っていう猫の、猫耳だ」


「そんなの見ればわかるわよ! 紗千ちゃん。この藤原くんっていつもこんな感じなの?」


「そ、その……。この人は兄貴さんの、舎弟さんなのでよくわからないです」


「へぇ〜。あなたって、兄貴さんの舎弟なんだ」


「うっス。俺、兄貴の舎弟してます」


 紗千と結梨の間に挟まって楽しそうに話してるのは、さっき殺されたと思っていた藤原。


 こいつ、なに百合の間に入ってんだよ。


「殺す」


「ちょいちょいちょい! どうしたのさ」


 ギャルが腕を引っ張って止めてきた。


「お前も見えるだろあれ、藤原だよ藤原」


「あっ、本当だ! ふーちゃんも遊びに来てたんだぁ〜。……でもなんでそれだけで、兄貴ちゃんの舎弟のふーちゃんを殺そうとするのぉ〜? やってることマジヤバだよ?」


「いいかギャル。挟まれるのは、だめなんだ」


「……なぁ〜んのことを言ってるのさぁ?」


 ギャルは顔に? を浮かべて聞いてきた。


 まぁこいつには百合としての心得がないから、わからないのも当然か。


 それより今は藤原だ。

 殺すのは勘弁してやるが、それと同等の罰を与えてやる。


「おい。藤原ぁ〜」


「あっ! 兄貴! どうですこのカチューシャ。俺、こんなの生まれて初めてつけてみたんすけど似合ってます?」


 こいつ、なに普通に遊園地を満喫してやがんだよ。


「ちょっと来い」


「えっ、ちょっ、あっ……」


 紗千たちのことを残して移動したのは、男子トイレの個室。


 ここなら何をしても邪魔が入らない。

 藤原のことを睨めつける。


「あ、あの兄貴……。俺なにかまずいことしましたかね?」


 藤原は怯えたか細い声で聞いてきた。


 そうか。俺は百合に挟まっていた大罪人だと思っていたが、こいつは何も知らないんだ。

 ……となると教え込む必要がある。


「なぁ藤原。お前がなんで俺にキレられてるのか知りたいよな?」


「はい! 知りたいです!」


「よしなら、今から話すことを耳をかっぽじってよぉ〜く聞けよ。まず、百合というのは……」


 

 一時間後。



「うっうっ……俺は、俺はなんという大罪を犯してしまったんだッ!!」


 すべての説明を聞き終わった藤原は、それはもう滝のように涙を流し、自分が犯してしまった過ちを悔いていた。


 正直、百合の説明をしても引かれるかもしれないと思ってたけど、どうやらこいつも同類のようだ。


「藤原……。何も知らなかった過去を悔いたとしても、今は変わらないんだ」


「ぐっ兄貴! じゃあ俺はどうすりゃあいいんですか!? 兄貴が頑張って影から見守っていた、百合の間に挟まっていたなんて……死にたいくらいです!」


「早まるな! そんなことしたら、一生百合が見れなくなってしまうんだぞ!?」


「そ、そうでした。じゃあ俺はどうすれば……」


 藤原の声に覇気がなくなった。

 

 これは心の底から自分が犯してしまった罪に、向き合いたいということなんだろう……。

 よし。ここは百合の先輩として一肌脱いでやろう。


「藤原よ。自分の罪は認めているな?」


「はい……」


「ならば、紗千と結梨。二人をくっつかせるため、なんでも協力するんだ。今のお前には、これしか罪の償う方法はない」


「二人をくっつかせる……」


 藤原の目に生気が戻ってきた。


 流石俺の舎弟。

 志が一致したようだ。

 

「腹は決まったな?」


「うっス」


「ならばいざゆかん! 百合のもとへ!」


 と俺たちは決意を新たに、紗千と結梨がいた場所に戻ったのだがそこには誰もいなかった。


「プルルル……プルルル」


 俺のスマホがなってる。

 電話を掛けてきているのはギャル。


 そういえばギャルは二人の場所にいたわけだし、どこに行ったのか知ってるかもしれない。


「なぁ、ギャル。みんなどこいったんだ?」


「あぁ〜うちら、兄貴ちゃんたちがいきなりどっか行っちゃったから、もう遊園地から帰っちゃったんだよねぇ〜」


「はぁ!? なんで教えてくれないかったんだよ!」


「いやうち何度も電話かけたけど、兄貴ちゃん全然出てくれなかったじゃん」


 そういえば、百合のことを語っていたとき電話が来ていたような来ていなかったような。


「そうか。わかった」


「え? なにが……」


 電話を切った。


「兄貴……」


「大丈夫だ。俺たちが愛のキューピットをするのは、明日からだ!」


「兄貴!」


 照らしてくるオレンジ色の夕日が、まるで今後の俺たちの成功を祈っているように鮮やかだった。




 

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