遊園地編

第7話



「ん〜おいし!」


「えぇ〜。やっぱり、私もチョコアイスにすればよかったな……。あっそうだ! 一口頂戴?」


「ふへ!? ど、ど、ど、どうじょ」


「あむ。ん〜こっちもおいしい! じゃあ、はい」


「へ!? えっと……」


「私、一口食べちゃったし紗千ちゃんもどうぞ。……もしかして抹茶味嫌いだった?」


「いえ! もらいましゅ。あむ」


「どう?」


「お、おいしいです」


「なぜに敬語なのだね?」


「そにょ……人のを一口食べるなんて、したことなくて緊張してて」


「ふふふ。じゃぁ、私が紗千ちゃんの初めてだね?」


「は、は、は、初めてなんて変な言い方しないでください!」

 

 初めての間接キス。それは、抹茶の苦い味を感じさせないほど甘くとろけるような味だった……。


 くぅ〜。遊園地、ソフトクリームでの間接キス。

 アニメの4話で出てくる内容を、こんな場所で見れるなんて……。


 この場に二人だけだったら、最高だったんだけど。


「ねぇねぇゆーちゃん! うちにもその抹茶食べさせて!」


「いいよぉ〜」


「あむ。おいしー!! これは抹茶な気がする……」


「抹茶アイスだからね」


「なぬ!?」


 紗千の初めての間接キスに割り込んできたギャル。ちょっとむすっ、とした顔になってる紗千。


 そう、俺たちは遊園地に遊びに来ている。


 ちなみに舎弟藤原は、ピアノのレッスンがあるらしいのでいない。大事な場面でいない舎弟は今は忘れよう。


「兄貴ちゃんもゆーちゃんの抹茶アイス食べる?」


「抹茶は食べれない。……ていうか、お前が人のものを勝手に他人に食べさせようとすな」


「はっ! そうだ。うちったら、久しぶりに遊園地に来たから浮かれちゃったぁ〜。ゆーちゃんごめんね?」


「もしかして、あっちゃんもそうなの? 私も久しぶりに遊園地に来たから、浮かれてるんだよねぇ〜」


「なにそれまじうける! うちらバカみたいじゃん!」


「「ははは!」」


 ギャルと結梨は声高らかに笑った。

 左から俺、紗千、ギャル、結梨の順番で横に並んでいる。なので俺の隣には二人の会話に入れずに、もどかしい顔をしている紗千。


 さっきからどことなく三角関係みたいになってて、居心地が悪い。


「な、なぁせっかく遊園地に来たんだしアイスクリームを食べるのもいいけど、何かアトラクションに乗らない?」


「お! 兄貴ちゃんもなかなかいいこと言うじゃぁ〜ん」


 ギャルが真っ先に食いついてきた。

  

 お前に言ってるわけじゃないけど、この際だ。上手く利用して話を盛り上げてもらおう。


「遊園地と言ったら……?」


「ジェットコースター!」


「いいね。ジェットコースター! みんなで乗ろ?」


 結梨は俺たちに聞いてきた。


「う、うん! 楽しそう」


「…………」


 紗千の顔が明るくなったが、俺は顔を伏せた。


 実は俺、ジェットコースター子供の頃から怖くて一度も乗ってないなんて言えない。そんなこと言ったときには、この最高の空気を壊してしまいそうだ。


「もしかして兄貴ちゃん。ジェットコースター怖いの?」


 ギャルは俺の顔をしめしめ、といやらしい笑顔をしながら聞いてきた。


 くそ、こいつ……。


「いや、別に? ジェットコースターが物凄く楽しみで他になにも考えられなくなっただけさ」

 


   ▼△▼



「「「きゃやややややややや!!!!」」」 


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」


   ▲▽▲



「紗千ちゃん! ジェットコースター、楽しかったね!」


「う、うん。結梨ちゃんに手を握ってもらえなかったら、今頃死んでたかも……」


「もぉ〜……大げさなんだから。手を握るだけで救われるんなら、いつでも握ってあげるよ?」


「きょえ!?」


「ふふふ、救われた?」


「ひゃ、ひゃい。しゅくわれました……」


 またもやこんなところで手を繋ぐのを見れるとは。

 俺は今日死ぬのか?


「さいこ……うっぷ」


 いや、今ジェットコースターに乗って死にそうだったんだ。


「ちょっとぉ〜! そんなにジェットコースター苦手だったら、最初に言わないとダメなんだからね。わかった? 兄貴ちゃん」


「あ、あぁ。次からは気をつけるさ」


 最悪だ。せっかく念願の百合を見るチャンスなのに、ギャルに肩を貸してもらって叱られてるなんて。


 いや、まだチャンスはあるじゃないか。

  

 俺は息を整えて二人の前に立つ。


「なぁ二人とも。次は二人ペアになって、お化け屋敷にいかないか?」


「お化け屋敷!? ここにあるお化け屋敷って、ちょ〜怖いって噂のやばやばのやつじゃん! そんなのにいって兄貴ちゃん大丈夫?」


「あ、あぁ。お化け屋敷は得意だ」


 そうそう。お化け屋敷は、逆にお化け側の人を驚かせるくらい得意なんだよね。

 って、何俺はギャルに心配されてんだ。


「で、どうする? お化け屋敷いくか?」


「紗千ちゃん! 面白そうだし行こ?」


「う、うん」


 二人は首を縦に振ってくれた。


 そうしてこうして日本一怖いとされている、お化け屋敷に行くことが決定した。


 お化け屋敷の中、ビビって抱きつき合っている二人を影から見守る予定だったのだが……。

 

「よろしくね。兄貴さん?」


「う、うん。よろしく」


 俺が発案した、二人一組のペアが結梨になってしまった。


 アニメの中の俺が寝取ったヒロインと二人きりでお化け屋敷に入るなんて、気まず過ぎる。頼む。早く終わってくれ。

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