第6話



 私は今、最近友達になったあっちゃんとファストフード店であるハックに来ている。


 なにやら、話したいことがあるらしい。


「で、その……話ってなにかな?」


「……なんかさぁこの前うちに、さーちゃんのことのを色々聞いてきた男がいるんだけど、なんかそいつが会いたいとか言ってるんだよねぇ〜」


 あっちゃんは、目を泳がせ薄ら笑みを浮かべながら言ってきた。


 そんなあっちゃんが挙動不審になるほどの男が、私に会いたいって言ってると怖く感じる。


「そ、そうなんだ。――断れない?」


「こ、こ、こ、断るっていうかもう……」


 あっちゃんはそこまで何か言いかけて、隣の席に座っている人に目を止めた。


 そこにいたのは、男二人組。

 一人は金髪で、怖い人。

 もう一人は……どこかで見覚えのある人。どこなのかは、思い出せない。


「よっ。いつかの、落ち込んでた君」


「もしかして……」


 声を聞いて、思い出した。

 

 以前、上手く人付き合いできず泣いていたときに励ましてくれた人だ。


「この前は、その、ありがとうごさいました!」


「とっとっと、別に感謝なんて求めてるんじゃないから」


「そう……なんですか?」


「うん。そうだよ」


 顔をあげると、優しい顔の励ましてくれた人が。


「私、渡辺紗千です」


「……俺は、」


 励ましてくれた人の言葉は、止まった。


 眉間にシワをよせ、どこか険しい表情になってしまった。無意識に、気に触ることを言ってしまったのだろうか。


「俺は兄貴だ。よろしく」


「よ、よろしくおねがいします。兄貴さん?」


 私はそれは本名じゃなく、周りからの呼び名なんじゃないかと疑問を覚えた。


「よし、じゃあ早速だけどいいかな?」


「はい……」


「君ってさ、その最近というか、この学校に入ってきたときに気になった人とかいたかな?」


 兄貴さんは私の反応を伺うように聞いてきた。


 学校に入ったとき気になった人……。

 そんなの、一人しかいない。


「はい……まぁ、はい。その、いますけど」


「そっかそっか!」


 兄貴さんの表情は、急に明るくなった。


「その人がど、どうしたんですか? 私、あれから一度も話してないのでなにか知りたいことがあるのなら、別の人に聞いたほうがいいと思います」 


「違う違う。俺は別に、その人と仲良くなりたいとかそういうんじゃないんだ」


「じゃあ……なぜ?」

 

 兄貴さんの言いたいことがわからない。


「君だよ。君がその人と仲良くなれそうだと思うんだ」


「……え?」



     ▽ ▲ ▽



「ひっひっふぅ〜……。大丈夫。大丈夫。私ならやれる」


 曲がり角から覗いている先にいるのは、なぜか子供を生むときの呼吸で自分のことを落ち着かせている紗千。


 ハックでの話し合い。そこで、俺が紗千に無理を通してヒロインである結梨と仲良くなってほしいと頼み、今に至る。


「兄貴……うまくいくと思いますかね? あいつ、へなちょこなオーラがあるんでダメな気がするんすけど」


「何言っちゃんてんのよふーちゃん。うちの友達のさーちゃんなんだから、なんとかするっしょ!」


「ちょっと二人とも黙ってくれ」


 後ろで喋っているギャルと藤原のことを一喝し、黙らせる。


 今大事なのは紗千と結梨がくっつく。いや、まずは友達になることが大事だ。


 ガチャ


 結梨が友達を連れて教室から出てきた。


「まじぃ〜そうだ、これから……」


「あ、あのっ!」


 紗千の声に結梨の足は止まる。


「あのっ、その……」


「あっもしかしてあなた……あの時の人よね? ほら、何度か喋ったことがある紗千ちゃん」

 

「は、ひゃい! そうです。私は紗千ちゃんです!」


 紗千はビシッ、と体に力を入れて結梨のことを見つめた。


「えっと……あたしら、先帰ってるわ」


「うん。じゃあまた明日」


「うぃ〜。明日また会おう!」


 なにか変な空気を感じ取った友達AとBは、劇団俳優ばりに別れを惜しみながら帰った。


 もう教室には誰もいないので、この場には二人のことを見守っている俺たちだけ。


「紗千ちゃん、えっと……なにかな?」


「そ、その私は!」


「うん。私は?」


「私は! ゆ、ゆ、ゆ、結梨ちゃんとお友達になりたいのです!!」


「…………」


 紗千の大声に、結梨は黙り込んでしまった。


 流石に何度か喋ったことがある程度で、いきなり友達になりたいというのは踏み込みすぎて、引いちゃったか?


「ふ、ふふふ……」


 結梨はいきなり笑い始めた。


「あぁいや、ごめんなさい。別にバカにしてるわけじゃないの」


「あ、あのそれでお友達には……」


「なるわよなる。ていうか、そんなこと真正面から聞くってあなた色々すごいわ」


「それはどういう、すごいっていうことなんですか? もしかして、私のことを笑ったのって?」


「ふふふ。なんのことかなぁ〜?」


 結梨は楽しそうにそう言いながら、走ってどこか行ってしまった。そして「とぼけたって無駄ですからねぇ!」と、紗千はその後ろ姿を追っていってしまった。


 ポツンと廊下に取り残された俺達。


「ほら、ふーちゃん。やっぱりうちが言った通りすぐ、ゆーちゃんと仲良くなったじゃん」


「まぁ結局、兄貴が望んでいたことになったから俺は別になんとも思ってねぇから。……思い通りになったんですよね、兄貴?」


 俺は藤原の言葉を聞きながら、さっきまで二人が喋っていた場所の空気をおもいっきり吸う。


 特に匂いはない。

 けど、うん。


「最高だ」


 アニメの2話。

 最後は、紗千と結梨が友達とまではいかないが知り合いにまではなっていた。


 なので、この時点で二人が友達になるということはくっつく未来もそう遠くないはず。


「あぁ〜……本当に最っ高だ」

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