第5話



「で、でね? 私しようと思ったんだけど、できなくて!」


「へぇー!! それまじやばくね? ちょーやべぇーじゃん。もしうちがさーちゃんみたいになったら、耐えられないんですけどぉ〜」


 おかしい。


「ははは……あっちゃんなら、私と違って平気な顔しそうだけとな?」


「なにそれぇ〜うちのこと、つよつよメンタルだと思ってるのぉ〜? うちにも、耐えられないこともあるんですぅー!」


 一組の教室の扉からひっそりと顔を出し、見てるのはもちろん紗千。

 

 昨日、落ち込んでるところ背中を押してあげたのでどうなったのか確かめに来たんだが……おかしい。


「ならもし耐えられなくなったら、私に相談してよね? ほら、私たちって……友達だし」


「あ、た、り、ま、え! さーちゃんももし、そんなことあったらうちに相談するんだぞぉ〜!」


「もちろん!」


 いつの間にか、知らない金髪のギャルが友達になっていた。


「ど、どういうこと……?」


 俺が昨日「やりたいことをやってくれ」と活を入れた翌日、アニメにも出てきてないギャルと友達になってるんなんて、一体誰が予想できたのだろうか?


 因果関係が全くわからず、頭がこんがらかってきた。


「兄貴……そんな険しい顔をしてどうしたんスか? もしかして、目線の先にいるギャルがなにか兄貴にしなんスか?」


 藤原がいきなり後ろから聞いてきた。


「あぁ、そうだ」


「んな!? そ、そうでスか……。いや、そうでしたらこの舎弟藤原が兄貴のため、あの身の程知らずなギャルをぶちのめしてきます!」


「って、おいおいおい。ちょっと待て」


 俺はズカズカと教室に入ろうとしていた藤原のことを慌てて止め、後ろに引っ込める。


「何するんですか。……もしかして、兄貴ご自身の手で殺めたかったってことですか?」


 いきなり殺めるとか物騒なこと言うなよ。


「――俺の話を聞け」


「う、うっス」


「いいか? 俺はあのギャルをぶちのめしたいわけでも、殺めたいわけでもない。ちょっと気に食わないことがあっただけだ」


「なるほど……」


「だから、俺はこれからあのギャルに少しづつ接近して足を掴んでやる。もしお前がなにか協力したいことがあるんなら、舎弟としてその手伝いをしろ」


「うっス! この舎弟藤原、兄貴のためならたとえアマゾンでも南極でも、どこでもお手伝いさせてもらいます!」


 藤原はビシッ、と兵隊の敬礼のポーズをしながら言ってきた。


 正直に言うとヤンキー崩れがする手伝いすることなんて、早々ないと思うんだよね。


 と、そんなことより。

 俺はどういうことか探るため、もう一度紗千がいる教室を覗こうとしたのだが……。


「ねぇ、あんたたち。うちになんか用事あるん?」


 目の前に、紗千と仲良くしていたギャルがいた。

 俺が見ていたことに気づかれていたのか。

 びっくりしたけど、手間が省けた。


「いや、用事という用事はない」


「ならうちのことなんで見るん〜? あっ! もしかして兄貴ちゃん、うちに惚れちゃった?」


「全然? これっぽっちも惚れてない」


「おうおうおう! ギャルよぉ〜……俺らの兄貴を、ちゃん付けなんていい度胸じゃねぇか」


 藤原は俺の前に立って、ギャルのことを睨めつけた。


 全く……こいつは、舎弟としては威圧感があっていいけど勝手がすぎる。


「藤原。――下がってろ」


「うっス」


「君……君は、いつからあの子と仲良くなったんだ?」


 俺はこっそり紗千のことを指さして聞いた。


 ギャルは、紗千目を細めながら見てから口を開いた。


「さーちゃんは昨日いきなり声かけてきて、一緒にファミレスで一緒にパリピしちゃたんだよねぇ〜!」


 ギャルは「きゃぴぃん!」とかよくわからない言葉を口走りながら、ピースして言ってきた。


 目を細めて、干渉深く紗千のことを見てたからなにか言いたくないことがあるのかと思ったが、拍子抜けだ。


 どうやら紗千は俺に背中を押され、ヒロインである結梨ではなく見ず知らずのギャルに声をかけてしまったようだ。


 これだと、俺が見たい百合ではなくなってしまう。


「君、少しあの子のことで協力してほしいことがあるんだが……してくれるか?」


「さーちゃんのこと、なんで兄貴ちゃんみたいなイカツイ顔の人が気にするわけぇ〜?」


 ギャルは、顔を覗き込みながら鋭いことを聞いてきた。


 イカツイ顔なのかはわからないけど、確かに傍から見れば俺が紗千のことを気にするなんておかしい。


「……俺はただ、先にあるものが見たいだけだ」


「そっか、うち兄貴ちゃんの先にあるのっていうの見てみたいなぁ〜」


 その含みがある笑顔。

 何を考えているのかわからず怖いし、敵に回したくない。

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