第3話
「兄貴兄貴! そんな険しい顔してどうしたんですか?」
「しっ。静かにしろ舎弟」
「す、すいません……」
俺が曲がり角から顔を出して見ているのは、ヒロイン結梨のことをお昼に誘おうとうろちょろしてる主人公、紗千。
くぅ〜。まだ一度しか話したことないのに、知らない人と話せたからって浮足立ってる紗千、尊すぎて死んでしまいそうだ。
「あいつは兄貴のなんなんです?」
ヤンキー崩れ元い藤原が、女友達と一緒にゲームをしているとき聞く彼女のような質問をしてきた。
「あぁ……紗千か。紗千は、俺のなんでもない。ただ俺が好き好んであいつのことを観察してるだけだ」
「なるほど! この舎弟藤原。兄貴のためなら火の中水の中、どこにだって背中をついていき観察しにき行きます!」
「んなこと舎弟なんだから当たり前だろ。それより、少し黙れ」
「あっ、うっス」
こいつ、今から見逃せない場面が始まるのいうのに本当空気ってものを読めないな。
ガチャ
お、結梨が一組の教室から出てきた。
「あ、あのっ!」
「……えっと私?」
「はひ!」
「なにかな? ……あっ、君って私が遅刻したときに教室の前で突っ立ってた子じゃん。どしたの? なんか悪いことしちゃったかな?」
「い、いえなにも。というか私は、その……」
「えぇ〜となにかな? できれば早めにすまない? ほら、私購買にいってパンでも買ってこようと思ってるんよ」
「しょしょしょ、しょうでしゅか……」
「えっと、いいかな?」
「――っはい。ごめんなさいその、引き止めちゃって」
「ふふふ、いいのよ。今は急いでるから申し訳ないんだけど、また退屈なときにお話しましょ?」
「う、うん!」
「じゃ、紗千ちゃん」
「な、なんで私の名前を……」
お昼を誘うはずだった紗千は、不意に自分の名前を言われ棒立ちになり、遠のいていく背中を見ることしかできなかった……。
「ぶほぉ〜!!」
「だ、大丈夫ですか兄貴!?」
くそっ! 勇気が出ずに、購買で二人分のパンを買ったってこと言えないもどかしさがたまらん!
「んな!? な、な、な、なんですこの鼻血の量!? ちょっとぉー!! 誰か助けてください!! 兄貴が、兄貴が大量失血で死んじゃいます!!」
大量出血?
なにいって……。
「ほげぇえぇえぇえぇえ!?」
俺の周りに血の湖ができてんだけど!?
「へ、へへ……大丈夫ですよ兄貴。舎弟の俺が絶対に、助けますから!」
いや、何もしないで見てるお前が言える口か!
「お前、保健室、連れてけ」
あっだめだ。なんか、体に力が入らない。
まぶたを上げてる力も入らないろ…。
なんだよこれ。俺百合アニメのワンシーンを見れたからって鼻血出しすぎて、死ぬのか?
▼ △ ▼
目を開ける。
なんか柄がある白い天井。家じゃない。もともと、社畜だったときの家でもない。っていうことはここはどこだ?
体を起こして周りを見る。
「保健室……」
ここは、数話分先のアニメで結梨が倒れたときに紗千が心配で看病していた場所。
あれ? このベットのシーツの染み。
結梨が使っていた場所のベットと同じような……。
「ま、じ、か」
ベットに顔を押し付けて「すーはーすーはー」する。特に匂いはないけど、ここで起こるであろう百合の匂い(妄想)がする……。
「あの……兄貴。何してるんです?」
やべ。藤原いたのかよ。
「あぁ。これか。これは、俺特有の体力を回復させる儀式だ」
「す、すげぇ〜!! そんなのあるんすね!! 俺もやってみたら体力回復するっすかね!?」
「いや、しない。言っただろ? 「俺特有」のって」
「ふぉぉー!! そういうことか!!」
なんだこの舎弟。
俺がどういうことなのか聞きたい。
「それより、あのあと紗千はどうなった?」
「紗千? 一体誰のこと言ってるんです?」
一回説明したろ。
「あぁ……俺が、角から顔を出して見てた同級生だよ。ほら、教室から出てきた人に声かけてたやつ」
「あっそいつなら、鼻血を大量に出した兄貴のこと見て逃げていきましたよ?」
逃げていく……。
そうか、やっぱりそうなっちゃったか。
「なら……」
「ちょ、兄貴!? まだ、大量出血で倒れたばっかなんですよ。どこ行くんです?」
「んなこと聞くんじゃねぇ。俺は、俺がすべきことをするだけだ」
「ほぉ〜!!」と感銘を受けている舎弟藤原のこもを無視して、保健室を出る。
するべきこと。それは、紗千の背中を押すこと。
なぜならこれからのアニメ数話、紗千は結梨のことを避けてしまうから。
すれ違う二人もまたいいけど、俺は早く百合を見たいんだ。
たしかアニメ通りだと、今紗千は……。
「屋上への階段だったな」
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