第4話 のばら、ホワイトデーに奔走する

ゆりかとのばらの部屋。


「ねぇ、のばら。」

ゆりかは壁のカレンダーを見つめながら言う。

のばらはというといつも通り自分の机で本を読んでいた。


「何よ。」

「このカレンダーさ、二月のままだけど、いい加減三月に変えない?もう二月はとっくに終わったよ。」

「駄目よ!!」


のばらは本を机に叩きつけて否定する。


「の、のばら?」

「あ・・・。わ、私は三月の絵が嫌いなの!!だから変えないで!!」

「そんな子供みたいな・・・。」

「五月蠅い!!嫌だと言ったら嫌なのよ!!」

「わかったわよ・・・もうっ!!」


そう言うと、ゆりかはどうでもいいよと怒って寝てしまった。

明かりをつけたままで。


それを確かめた後で、のばらはそうっとカレンダーをめくってみる。

もうすぐホワイトデーだ。

どうせ、ゆりかはこの日付を見たらかってに期待してずっとのばらを見るはず。

だから、のばらは変えたくなかった。

事は穏便に進めておきたい。

そして何より、三月十四日は・・・。


「どうして、ピンポイントでゆりかの誕生日なの・・・。生まれながらに頭が沸いていたのね。」


のばらとて、人間だ。何かをあげなければならないという思いはある。

何がいいのかは何度も考えてはいる。

だが、ゆりかの一番好きなものが思いつかない。


ゆりかの一番好きなもの。

ゆりかの一番好きなもの。

ゆりかの一番好きなもの。


「ゆりかの一番好きなものって何よ・・・。」


いや、正確には少しだけ思いつく。

少し?いや、違う。


「なんであの子は好きなものだらけなのよ。」


一番が思いつかない。ゆりかが一番喜ぶものが。

大概のものがゆりかは好きだ。何をしても可愛いというし好きだという。

だからこそ、一番をあげたい。

だが、その一番がさっぱり分からない。


のばらは本棚に目をやる。

奇怪な少女が勝手に押し付けた奇怪な本。

だが、これにはのばらたちの行動が書いてあるという。

見るのも触るのも嫌だ。

しかし、見るしかない。

のばらは消毒スプレーでお祓いしてから、その本を読んでみる。


しばらくして。

「何なのこれ。ちょっと馬鹿にしているの!?人を見世物にして!!でも・・・大体・・・あってるわ。」

今までのばらたちが辿った道が書かれてあり、それが大体・・・あっている。

「もしかしたら、この先が何かあるはず!」

のばらはホワイトデー編を読んでみる。


ホワイトデー。

いつも素直になれないのばらだが、この日は素直になりたい。

しかも今日は愛するゆりかの誕生日だ。

のばらは思い出す。

ゆりかはずっとのばらと結婚したいと言っていた。

のばらと暮らしたい。ずっと一緒に暮らしたい。

それを知っていたのばらはあるものをゆりかに渡す。

「これは・・・指輪?」

「ええ、結婚指輪よ。不器用な私の代わりに・・・ずっと朝ごはんを作って。」

「のばら・・・!!」


そこまで読んで、のばらは思い切り本を閉じた。


「違う!!それは間違っている!!もう指輪は渡しているし、結婚指輪まで重いことは言っていない!!ゆりかも結婚したいまで重いことは言っていない!!一緒にはもう暮らしている!今更よ!!不器用な私ですって!?馬鹿みたい、笑っちゃう!!私の方が器用に決まってる!!ゆりかはお米ですらうまく炊けない!!最低最悪に不器用よ!!」

「のばら、何言っているの!?五月蠅くて眠れない!!」


ゆりかは何をしたい。何が一番好きなのだ。

強いて言うならのばらだ。


「違う!!そうじゃない!!」

「もうっ!!黙ってよ!!」


次の日。

のばらは、つぐみとひばりの部屋を訪ねる。


「つぐみ!!貴女は私に貸しを作るべきだと思う!!」

「はぁっ!?また!?」


「・・・つまり、のばらはゆりかに何かしらあげて愛を伝えたいのね。」

「そう。」

「私のこと、馬鹿にしてない?今までの借りは返すつもりはあるの?」

「馬鹿だと思っているし、借りを返すつもりもない。だから早く言いなさいよ!」


つぐみは呆れながらもうーんと唸る。


「本当にゆりかの一番好きなものを思いつかないの?」

「思いつかない。」

「貴女たち、本当に付き合っているの?」

「付き合っている。でも相手は天王寺ゆりか。一年中頭が沸いている。私は今宮のばら。そんな沸いている子の趣味なんて一生理解できない。」

「そうね・・・そうだったわ。」

「簡単ですよ!ゆりかお姉様は、のばらお姉様が好きなのですもの。何をあげても喜びます。のばらお姉様関係なら。」

横からひばりが言った。だが、のばらは怒り狂うばかり。

「だから、それを教えろって言ってるのよ!!」

「きゃっ!!」

するとつぐみが思い切りのばらの頭を叩いた。

「ひばりを虐めないで!!もう、私たちが協力できるのはここまでよ。早く出て行って!!」


つぐみたちの部屋を追い出されたのばらは、再び悩みだした。


「私関係ですって・・・?」


自分関係で思い出すことはない。

そもそも、のばらは今までゆりかに何をしてきたか。

酷いことばかりしてきた。

汚い、気持ち悪い、大嫌い。

今は彼女を愛している。だが、大半はゆりかに酷いことを言ってきたししてきた。


「今思うと、私って最悪ね。ゆりかが私を好きになった時も、私はゆりかの思う通りなんて何もしてない。何も言っていない。今もそうかも。私がもう少し・・・素直になれたら。」


そうは思うものの、素直が分からないし素直にはなりたくないのばらである。

「私が、今ゆりかにしてあげれることって何?きっと、今まで私ばかり酷いことをしていたから、その分ゆりかが進んで私にしたいことよね・・・ん・・・?いや・・・そんなこと私が?嫌よ。え・・・えぇ!?」



のばらが奔走してからついにホワイトデーの日がやって来た。

ゆりかが用事を済ませて部屋に帰ってくると、彼女は慄いて何歩か下がってしまった。


「のばら・・・?どうしたの!?」


見ると、のばらがベッドの上で正座している。


「・・・今日は何の日か頭の沸いた貴女なら分かるでしょ!?」

「え・・・ホワイトデーで私の誕生日・・・?」

「分かってるなら、好きにしなさいよ!!」

「は?好きに・・・する?何を?」

「私をよ!!煮るなり焼くなり何でもしなさい!!」

「えぇ!?」


のばらに冷静になって聞いてみると、自分を自由にしていいというのが今日のゆりかに許されたことらしい。

のばらなりに考えた結果、周り回って一番ゆりかが好きなものはのばらということに行きついた。そして、今まで酷いことをしてきた分、彼女の好きなようにしたらいいということだ。


「我ながら陳腐な結論だわ。辱めもいいところよ。だから!!さっさと何でもしなさいよ!!」

「のばら・・・とっても嬉しいけど、そんなに怒鳴られたら雰囲気も何もないよ。」

「五月蠅い!!」


とはいえ、あののばらがここまで譲歩するのは珍しい。

彼女なりに素直に心を開いている証拠だろうか。それがゆりかは嬉しくて、真っ先にのばらに抱き付くとキスをした。


いつも、のばらはゆりかの首筋に何度もキスをしていたので、自分もしてみる。これは前からやってみたかったことだ。


「ちょ、ちょっと・・・しつこい。」

「でも、のばらもいつもしつこいくらいするよ?」

「~~~っ!!」


ゆりかはのばらの首筋に舌を這わす。そして吸い付くようにキスをする。

のばらはびくっと時折動いたが、いつもののばらと違ってとても可愛い。


「のばら、脱いでよ。」

「えぇっ!?」

「私がしてもどうせ嫌がるでしょ?それにいつものばらも自分で脱げって言っているし。」

「覚えておきなさいよ!!」


怒鳴りながらも、のばらは服を脱ぎだした。

嫌々しているのでやけに時間がかかる。

だが、ゆりかは笑っちゃうことにとてもそそられていた。のばらは本当に綺麗だ。

じっとゆりかが見つめているものだから、のばらは今更恥ずかしくなって目線を逸らして言った。

「ゆりか、貴女って本当に私のストリップショーが好きなのね。」

「うん。好き。」

皮肉のつもりで言ったのに、あっさりと肯定されてのばらは余計に恥ずかしくなる。

「じっくり見ておきなさいよ・・・!」

「うん。そうする。」

腹が立つことこの上ないので、のばらは脱いだ服を思いっきりゆりかに投げつけてやった。せめてもの反抗だ。


「あ、のばら。下も脱いでね。」

「分かったわよ!この変態!!」

「でも、のばらもいつも私にそう言ってるよ?」

「五月蝿い!私はいいのよ!!」


のばらは怒りながらも、ゆりかの言う通り全ての服を脱ぎ捨てた。

そしてまた律儀にも正座する。

早くしたら?と最後までプライドを崩さずにゆりかに言うので、ゆりかはじゃあ遠慮なくと彼女を押し倒した。


「ん・・・っ。」


ゆりかはのばらの上半身の全てを舐めたり触れたりする。

胸も弱いみたいだが、臍のあたりを舐められるとびくりと何度もするので、何回も舐めてみた。


「やめて・・・そこばかり。」

「じゃあ、やめる。」


仕方ないのでもう少し胸を舐めては先端も触ってあげる。

のばらはこちらも敏感になるらしい。

顔を逸らして小指を噛んでは、声を漏らさぬよう耐えているようだ。


「のばら、気持ちよかったら声出していいよ?」

のばらは無言で首を振り続ける。やはり、彼女のプライドは高い。そんな姿、ゆりかにはあまり見られたくないのだろう。

でも、ゆりかは自分もやられては惜しげなく喘いでいたので少しつまらない。

なので、のばらの股を無理やり開かせると、手を上へ上へと這わせていく。


「ちょっ、ちょっと!何しているのよ!?まさか、その手・・・その指、私の中に入れようってしているんじゃないでしょうね?」

「うん。そのまさか。」

「前、舐めただけでは飽き足らずそんな変態的なことするつもり!?」

「うん。でも、のばらもいつも私にそうしているよ?」


そこまで言うなら勝手にしなさい!

そうのばらが言う間も無く、ゆりかはのばらの中に指を入れた。

そしてゆっくりと動かす。


「・・・・・・っ、あ・・・。」


顔は感じている表情なのだが、相変わらず声は最小限だ。

小指を噛む力が強くなっているのを見て、逆にそれはそれでいやらしくて、のばらには悪いがゆりかは興奮する。


ゆっくりと時折早く動かしてあげると、のばらはその度にびくびくと体の内外を動かせる。

声にはしないが感じてくれているのだろうと思うと、何もされていないくせに、ゆりかまで気持ち良くなってくる。

これがのばらがいつも言う、ゆりかが気持ちいいなら私も気持ちいいということかと納得した。


そんなことを考えていると、のばらがゆりかを熱っぽい目で見て苦しそうに口を開いた。


「早く・・・早くいかせて。」


のばらがそんなとを言うのは初めてだ。

ゆりかは、のばらが可愛くて仕方がない。おそらくそれを言ったら怒るだろうから言わなかったが。

勿論その後ゆりかは、のばらの言う通りにしてあげた。

のばらは相変わらず声こそはあげなかったが、艶っぽい吐息だけ漏らしていたので概ね満足したのだろう。ゆりかもそれに満足した。


のばらは失態とでも言ったようにうつ伏せになって寝ている。枕に顔を埋めながら。


「のばら、大丈夫?」


ゆりかが触ろうとすると、のばらは無言で自分の机を指差した。

見てみると何やら包装された袋がある。


「何これ?」

「あげる。」

「え?」

「あげるって言っているの!!早くしなさいよ!」


のばらに怒られたので、急いでその袋をゆりかは開いた。


「のばら!これ・・・!」


するとその中から、リボンをつけた白いくまのぬいぐるみが出てきた。くまきちによく似た。


「福島あやめに作ってもらった。くまおの友達でも何でもしてあげなさい。」


のばらは相変わらず、うつ伏せで寝ているが、おそらく今はプレゼントに関して恥ずかしがっているのだろう。


「のばら!嬉しい!!ありがとう!!でもくまきちの名前はちゃんと覚えて。」

「何でもいいわよ。そんなこと。ゆりかが喜ぶなら。」


口は悪いが、やはりのばらは優しい。

ゆりかがにこにこと微笑んでいると、のばらはそれをチラリと振り返って見る。


「何よ。」

「のばらはクールでミステリアスな子だと思ってた。でも本当は五月蝿くてすぐ怒るのね。」

「悪かったわね。これが本性で。」

「ううん、本当ののばらが私は好き。」

「私だって、ゆりかはもう少しまともだと思ってた。とんだ変態よ。」

「嫌いになった?」

「・・・別に。」


それを聞くとまたゆりかは嬉しくなって、寝ているのばらの上に飛び込んだ。


「重い!何するのよ!」

「ねぇ、のばら。このくまちゃんをくれるのにどうしてのばらはこんなことしたの?」

のばらはしばらく黙っていたが、言いにくそうに口を開く。


「そのくまはホワイトデー用。私を好きに使っていい権利は誕生日用。」

「のばら、それよ!覚えていてくれたの!?」

「・・・好きだから。当たり前。」

「のば・・・らって、きゃっ!?何!?」


のばらの背中にキスしようとした時、ゆりかはのばらにひっくり返された。


「私への権利はもう失効。私を辱めた仕返しをする。」

「え?ええ!?」

「ちょっとムカついたけど、まぁ楽しかった。今度は私がもっと楽しむ番だと思う。」

「ちょっと!まだ一日経ってないわよ!」

「いいの、私が幸せだから。そんなことどうでもいいの。」

「我儘!!でも、まぁ・・・私も幸せだからどうでもいいよ。」


のばらは、悪そうな顔で笑うとゆりかにキスしたのだった。


やってみたり、やり返されたり。

ゆりかとのばら、幸せな日々。

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