第29話:真のターゲット
目の前にタドポールの群が充満する。
エクレアは即座に攻撃を中止すると回避行動に移った。
機首を立てて一気に減速、機体全体で抵抗を受ける。
「ヒャッ」
背後からルビアの漏らす悲鳴が聞こえる。
攻撃が追い付かず、周囲をタドポールが通り過ぎていく。
同時にアルバトロスIIがエア・インテークに設られたレーザーガンの自動射撃を始めた。
こちらは残弾を気にする必要がない。
エア・インテークのレーザーガンが次々とタドポールを撃ち落としていく。
「タドポール、残り五百」
「アルテミス・コントロールより入電」
ルビアは母艦からの情報をエクレアに告げた。
「イント、ルーダーの、目標はネオ・ジーランドの、原子力発電プラントと推測される、ですって」
「それはまずいわね」
ネオ・ジーランドには六基の原子炉からなる発電施設がある。
エクレアが鬼神の如き射撃を加えながらタドポールの数を減らしていく。
「エクレア、残弾七〇%」
「了解」
相対するイントルーダーとタドポールに向けて射撃を続行。
レーザーガンとガトリング砲で確実にタドポールの数を減らしていく。
不意に新たなアラーム音。
<ピピピピピ……>
接近物体あり、直上。
エクレアは頭上に接近する黒い飛行物体の群を認めた。
IFFポジティブ。フレンドリー。
新たに現れたテュールの群は超音速でタドポールの雲に突入すると、闇雲な射撃を始めた。
総数三十。
この無人機には六十門ものレーザー砲が備えられている。一門ずつの破壊力は低いものの、電子誘導された収束レーザーの出力はタドポールの装甲を貫くには十分だ。
「エクレア、タドポール、残数二百」
「了解」
再びナイフエッジ。エクレアは横転しながらタドポールの雲を突き抜けると、正面に向いたイントルーダーへの射撃を始めた。
機体は進行方向とは真逆に向いている。後進しながらのガトリング攻撃。
ヴー……という噴射音と共にタドポールが次々と粉砕されていく。
「残弾30%。タドポール、残り五十」
撃ち漏らしたタドポールの処理はエア・インテークのレーザーガンの役目だ。
タドポールの雲に包まれながらエクレアはイントルーダーへの射撃を続行した。
アベンジャーの三十ミリ劣化ウラン弾がイントルーダーの装甲を砕いていく。
タドポールが群れを成し、一塊になったタドポール達が抱きつくような姿勢でアルバトロスに迫ってくる。エクレアは機体を巧みに操作してタドポールの雲を突き抜けると、頃合い良しと見て空対空核ミサイルの起動を指示した。
「レディ・キックバックナンバー1」
「キックバックナンバー1、スタンディングバイ」
ルビアが復唱すると共に、戦術核ミサイルのセーフティを解除する。
エクレアはひらひらと機体を泳がせるようにしてイントルーダーの周りに集まるタドポールを一箇所に囲い込んでいった。
バイザーの中で無数のターゲットディスプレイが一箇所へとまとめられていく。
「キックバック発射」
エクレアはタドポールが充満した空間めがけて
アルバトロスのウェポンベイが一瞬開き、戦術核ミサイルを発射する。
このままだとこちらまで爆風を浴びてしまう。
エクレアは機体の腹側を向けるとスロットルを全開にしてキックバックの爆風を危うくかわした。
多少タドポールが生き残ったところで大勢に影響がないことはすでに検証されている。
今はイントルーダーが落ちたかどうか、それだけでいい。
「ルビア、
「イントルーダー、感ありません」
「落ちた?」
エクレアは自分も戦術パネルを慌ただしく操作しながら攻撃効果測定を始めた。
『エクレア大尉、こちらの情報から判断するに、イントルーダー・ナンバー1は蒸発したと思われます』
衛星軌道上からトピアがエクレアに効果測定結果を告げる。
「そう……」
蒸発……。ではキックバックは確かに命中した訳だ。
それを聞き、エクレアは胸を撫で下ろした。
だが、不意にエクレアは嫌な予感に襲われる。
「……トピア、今あなたイントルーダー・ナンバー1って言った?」
『はい。イントルーダー・ナンバー2は先ほど転回し、現在マウンテン・ビュー市に向かって侵攻中です。すでにバレンタイン中佐が迎撃に向かっています』
(マウンテン・ビュー市?)
一気に背筋が寒くなる。
「トピア、座標情報をデータリンク」
『了解。データを送ります』
トピアが告げるのと同時に大量のデータがアルバトロスの戦術コンピューターに送られてくる。
「ルビア、新しいターゲットを設定して。追うわよ」
「ウィ、エクレア」
ルビアは手元のキーボードとトラックボールを使って新しいターゲットを機体に入力し始めた。
+ + +
ターゲットの設定や追跡は後席のルビアの役目だ。エクレアが操縦に集中できるようにアルバトロスではルビアが兵装コントトール、ナビゲーションや
トピアによって新しく送られたターゲットデータはまさにヘムロック教会孤児院の真上だった。
表情には出さなかったものの、エクレアは蒼白になっていた。
どうしてなのかは判らない。だがイントルーダーは必ずこちらが嫌がる場所を攻撃する。原子力発電所の攻撃に失敗したから今度はマウンテン・ビュー市を狙うことにしたのかも知れない。
マウンテン・ビュー市はネオ・ジーランドの中では大きな街だ。ここを核攻撃されたらたまったものではない。
もう連絡が届いているとは思いつつも、エクレアはセシル院長とのホットラインを開いた。
「セシル院長?」
スロットル全開のまま、セシル院長に呼びかける。
『ああ、エクレア大尉』
「イントルーダーがそちらに向かっています。至急市民も含めて全員を地下のシェルターに入れてください」
セシル院長には国連監察宇宙軍の息がかかっているとわかっているため、なんの気兼ねもなくこうした話をすることができる。
『ええ、国連監察宇宙軍司令部からもその話はもう聞いています。今、全員を地下シェルターに誘導中です』
「地下シェルターの深さは何メートルですか?」
『十メートルくらいかしら……。地下三階程度ですよ』
地下三階……。直撃を受けたらこれでは到底足りない。
「わかりました。こちらも急ぎます。とにかくシェルターのドアをガッチリ閉めてください」
『こちらは大丈夫ですよ……ここのシェルターは対核仕様のしっかりした物ですから』
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