第11話:タドポール

 小型イントルーダーは『タドポール(おたまじゃくし)』と命名された。

 全長一メートル程度、武装はない。半球型のボディに二本のアーム、それに長いテール。

 武装はないが、タドポールは自爆する。要するに自爆ドローンのイントルーダー版だ。 

 しかも攻撃は定番のスウォーム飽和攻撃。タドポールは一度放出されたら一度に百機単位で殺到してくる。

 これがアルバトロスのエアインテークから侵入し、内部で爆発する。一匹でも爆発すれば被害は甚大、複数侵入されれば最悪アルバトロスはその場で爆散する。

 それゆえに、タドポール対策は火急の案件だと言えた。タドポールを防がない限りイントルーダーは倒せない。

 エクレアとルビアはオンラインの対策会議に毎日呼び出されていた。

 人造タナカは安直にネットの設置を主張していたが、それは即時に却下。超音速で飛行するアルバトロスのエアインテークにネット設置は論外だ。

 アルバトロスが装備しているスクラムジェットは衝撃波で大気を圧縮する。そのため吸気速度は音速を超えており、入り口にネットを設置すればその場で衝撃波が発生しエンジンに悪影響を及ぼす。

『タドポールをエアインテークに近づけないことが重要です』

 スクリーンの中で上級技官が図面を見せる。

『これをどうにかしないことには被害が拡大します。今でも戦況は劣勢です。すでに墜落したアルバトロスは十機以上、これはなんとしてでも止めないといけない』

「そうは言ってもこれはかなり難しい」

 バレンタインは技官に答えて言った。

『そうですね、うちも二機失いましたが、ドライバーの救出が精一杯でした』

 立体モニターの中でフナサカの中隊長が同意する。

『タドポールを選択的に撃墜することはできないのですか?』

 確かにタドポールは脆い。中に爆薬を抱え込んでいるためか被弾すればタドポールはすぐに爆発する。しかもタドポールには雲状に集まる習性があり、一つでも破壊に成功すれば周囲には大きな空白ができる。

「だがなあ、タドポールはレーダーには映らない。軌道空間でレーダーマーカーを打ち込むこともできないから、選択的に攻撃するのはほぼ不可能だ」

 バレンタインはモニターに答えて言った。

 今会議に参加しているのは二十人以上、いずれも軌道空母の中隊長クラスか地球から急遽派遣されてきたアルバトロスの開発者たちだ。

『うむ、今日のところはこれまでかな?』

 議長が重い口を開いた。

『各位、対策を考えてくれ。明日また集まろう』


+ + +


「……とまあ、こういうことがあった」

 中隊のブリーフィングでバレンタインは隊員たちに告げた。

「今はイントルーダー対策よりもタドポール対策の方が重要だ。これをなんとかしないと俺たちはいずれ死ぬ」

「私たちは見ていましたけど、あれはかなりまずいですよー」

 とルビア。

「一度に放出されるタドポールの数はおそらく千体を超えます。まるで茶色い雲みたいでした」

「それに一つの群れを片付けても他が来ます」

 エクレアが言葉を継ぐ。

「じゃあお手上げじゃないか」

 バレンタインは両手でテーブルを叩いた。

「一回に千発以上撃たれる誘導ミサイルなんて聞いたことがないぞ。対策を考えろ」

「……あります」

 しばらく沈黙したのち、スミスが右手を上げた。

「言ってみろ」

「ネットは論外ですが、エアインテークへの侵入を防ぐのであれば他にも手があります」

「続けろ」

 興味を引かれたのか、バレンタインがスミスを促す。

「レーザーガンです。エアインテークの入り口にカメラとレーザーガンを装備するんです。これであれば侵入される前に撃墜できます」

 スミスのアイディアはこうだった。

 アルバトロスのエアインテーク周辺に高出力パルスレーザーガンとカメラを装備する。そして接近してくる物体を一掃するのだ。鳥であれば焼き鳥になるだけだが、タドポールなら爆発する。こうやって至近のタドポールを撃ち落とし続ければ、少なくともアルバトロス内部で爆発することはない。

 パルスレーザーガンは従来の戦闘機には搭載できない。高出力レーザーを発振させるための電力が従来のエンジンでは供給不能なためだ。そのため、レーザー兵器は毎度検討の机上には上がるものの、運用は難しいということで今まで戦闘機に搭載されたことはない。

 しかし、アルバトロスなら違う。アルバトロスの二基の核融合エンジンであれば高出力レーザーを武装として搭載することは十分に可能だ。

「ふむ。面白い」

 腕組みをしたバレンタインは頷いてみせた。

「だが、エアインテーク周辺でタドポールが爆発したら、最悪アルバトロスにも被害が及ぶぞ」

「改修が必要です」

 少し考えながらスミスはバレンタインに答えた。

「エアインテーク周辺の装甲を厚くするんです。幸い、タドポールの爆発力は低い。現在は無防備のエアインテークですが、周辺の装甲を硬くすればおそらく被害は防げます」


+ + +


 激論の末、スミスのアイディアは採用された。少なくとも何もしないよりは良い。

 装甲強化はハニカム状に組んだタングステンカーバイドを芯材として周囲をカーボンで覆ったものが採用された。ほとんど戦車の装甲のような素材だが、重量的にもさほどの増加にはならない。

 それにエアインテークはどちらにしてもアルバトロスの重心付近にあるため、重量増加はさして問題にはならなかった。

 早速AIによって設計図面が起こされ、エリスの高軌道に点在する工業衛星では改修するためのパーツの生産が始まった。

 順次軌道空母が工業コロニーに寄港し、アルバトロスを改修する。アルテミスも早速軌道高度を上げて工業衛星が群れをなしているコロニーに寄港し、すべてのアルバトロスにエアインテーク強化装甲の装備を終えた。

「……さて、これで収まるといいんだがな」

 窓越しに工業衛星のロボットたちがアルバトロスの改修を進める様子を眺めながら、バレンタインは低く呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る