第4話:惑星エリス赤道付近洋上

『やあ、ひどい目に遭いましたねー』

 ここは国連監察宇宙軍の洋上基地、マリンベース7だ。

 惑星の地表面積の八〇%を海が占めるエリスにおいて巨大な洋上基地の建造は必須だった。

 ここでアルバトロスを回収し、HLLVを使って宇宙に帰す。

 その間、パイロット達はこの基地に備えられたiPSタンクで失った身体の部位や、あるいは放射線障害を治して帰還する。

『まったくだ。こっちは黒焦げ、エクレアたちは無事だってか?』

 二人はiPSタンクに浸かったまま声帯マイクで会話をしていた。呼吸抵抗は大きいものの、iPS細胞を培養しているこのタンクの中で退屈に過ごすよりはまだマシだ。

 今、ふたりの肺を含めすべての体内の空洞はiPS細胞培養液で満たされている。これに加えてナノマシーン達をフル稼働することで二人の身体の傷を癒しているのだ。

『ええ、もう二人とも退院したそうですよ。どうしたらいいかって問い合わせが来ています』

『働かせよう』

 バレンタインはブスっと言った。

『フライトレポートを書けって伝えてくれ。俺たちの分も含めてな。あと、始末書だ。あいつ、またアルバトロス溶かしやがった』

『りょーかい』

 水中でキーボードを叩く音がスピーカーから聞こえてくる。


(全く、エクレアは戦費をなんだと思っているんだ)

 バレンタインが苛立たしげにタブレットの電卓を叩いて今回エクレアが溶かした兵器の総額を計算する。

 アルバトロスが搭載する空対空戦術核ミサイルが二発で約一〇ミリオンUSドル、そのほかに三〇ミリ劣化ウラン弾が2万発で六ミリオンUSドル。

 さらにエクレアはアルバトロスも溶かしやがった。これが五五〇ミリオンドル、

合計で六〇〇ミリオンドルに近い。

 エクレアは何の恨みか毎回弾倉を空にし、アルバトロスでカミカゼ・アタックする。

『……チッ』

 バレンタインは計算結果をファイルに閉じると体の向きを変えた。


 不機嫌そうにしているのが伝わったのだろう。スミスが横から声をかけてくる。

『僕らはまだ二週間くらい出られないようですよ……彼女たち、帰しますか?』

『いや……』

 少し考えてからバレンタインは答えた。

『それには及ばない。連中には日光浴でもしてろって伝えてくれ。帰りは一便の方が手間がない。クリステル艦長に叱られるのも嫌だしな』

『りょーかい』


 その頃洋上基地の甲板ではエクレアとルビアが水着で日光浴をしている真っ最中だった。

 二人とも肌が色づき始めている。

 ふと、トップレス姿のルビアは身体を起こすとエクレアに言った。

「あ、スミスさんから連絡きましたよ。フライトレポートを書けって隊長が怒っているらしいです」

「面倒ね。やっとくって答えておいて」

「あと、なんで俺らが黒焦げでお前らが無事なのかも説明して欲しいそうです」

「そりゃ、バレンタイン隊長がイモだからでしょ……ってそうも言えないか。申し訳ありませんでしたって返しておいて」

「ウィウィ」

 つと、ビーチパラソルの下に置かれたマルガリータに手を伸ばす。

ノンアルコールだが、ライムの香るこの飲み物はエクレアの好物だった。

「で? どうしろって言ってた?」

「俺たちはあと二週間は出られないからせいぜいそこで焦げとけって。ついでに核ミサイルを抱えたカミカゼアタックは今後禁止、だそうです」

「あー。ウィウィ」

 エクレアはマルガリータをテーブルに戻すとビーチチェアに身を延べた。

「では、せいぜい骨休めさせてもらいましょ?」

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