第5話 神の棲み処 Side:S
おはようございます、
昨日は何やかんや、えらい目に合って…あれをえらい目等という表現で片付けてしまって良いものなのか…まぁさておき、大変疲れました。
山で起こった一連の怪異現象を伴った事件は元より、その後の自称神…
あの後、盛大な接待を求められ、疲れ切った体で準備をし、酒宴に付き合わせられるハメになりました。
神にしろ妖怪にしろ、どちらも各種文献では酒豪とされています。
勿論コイツもそうでした。
私が買い溜めていた地酒コレクションは、あっという間に失くなってしまいました。まあ、日本酒は風味が落ちるまでに呑まねばならぬので、720mlを5本程の常備でしたが。
だがね、神様よ。秘蔵の焼酎コレクションにまで鼻を利かせ、手を付けるとはね。鬼畜の所業ではないのかい?まあ、人ではないのだが。
更にだよ、私にも酒に付き合えと、サラリーマンのアルハラの如く勧めるんですよ。
足並み揃えて呑め、と。ペースを合わせて。
相手は人外ですよ?
知人から前に、酒豪だらけの飲み会に飛び入り参加した際、同じペースで呑んでいつの間にか潰れてた、という話を聞きました。
絶対にそれ以上のペースで呑みやがったはずです、コイツは。
自分では、かな~りペースを落として呑んでいた筈なのですが、ヤレ呑め・オレの酒が呑めんのか・早く盃を空けやがれ、等と捲し立てられまして。
う、思い出すと、気分悪……………!!
ヤバい、吐く!!!
・・・急いでトイレのドアを開けると、白い物体がみっちみちに詰まっていた。
駄目だ、間に合わん…
気持ち良さそうに眠っていた白い物体に、思いっ切り嘔吐物をぶちまけてしまった。
「だいたい、あんな所で呑気に爆睡してるヤツが悪い」
嘔吐物に塗れた物体を、お風呂場にてたっぷりと泡立てた石鹸で洗いながら毒ついた。
「おいおい、どの口が言ってんだよ。
「はい、申し訳御座いません、大変失礼致しました、今後重々気を付けて参ります、ご愁傷様です」
「棒読みで謝罪のテンプレート並べてんじゃねーよ。そして最後のは違ぇだろ!」
「だからこうして、綺麗に洗ってやってるだろうが」
「上から目線かよ!」
ユニットバスではないが、安い集合住宅の風呂場なので、大した広さではない。そこに、特大バランスボールサイズの丸っこいヤツを放り込んで、一生懸命洗ってるのだ。
両手でわしわしと泡立てながら、しみじみ思う。
良かった~、右手が無くならなくて。
どういう原理なのかは分からないが、兎に角結果が全てだ。右手が戻ってきたので、ヨシ!
……要らぬオマケも付いてきたが。
「おい、ちゃんと洗えているんだろうな」
シャワーで泡を流しはじめたところで、ケチをつけられた。
「汚い儘だと、私もやだからね。不本意ながら綺麗にしてやったぞ」
「ところでオマエ、なんでそんな恰好してんだ?風呂場なのに」
「風呂掃除する時のスタイルですが、な・に・か!」
上下共に高校の時の体操服だ。淡いピンクのデザインポロに、濃紺に薄い水色のラインが入ったハーフパンツの組み合わせが気に入っているので、ずっと愛用している。掃除に限らず、靴等をバスルームで洗う時の定番である。
「おいおい、風呂場で服なんざ着てんじゃねえよ、脱げよ、お、おわッ!?」
思いっきりシャワーを目の辺りにぶっ掛けてやった。
どこぞの大佐の様に、メガッメガァーって叫んでやがる。ざまあみろ。
「オマエには、神に対する敬意っつうモンが、ねぇのか!」
「何処に神が居るって?謎の珍獣ならここに転がっているが」
元が神様だと言われても、こう威厳も品性も皆無だと、敬う気持ちなど一欠けらも起こらない。
「おい、そんな暴言吐いてもいいのかァ?願いを叶えてやんねえぞ」
「もういいよ。他力本願では碌な事にならないと、身を以て教わったからね」
そんな事より、私はお腹が空いているんだ。胃の中のモノを空にした後、コイツの洗濯をしたものだから、すっかり燃料切れだ。
心と体に優しいものでも作ろう。
「お、いい匂いがしてきたな。朝飯は何だ?」
「はい、どうぞ」
そう言って出したのは、玉子粥だ。我が家の冷蔵庫には冷やご飯と卵、そして干からびた刻み葱しか入って無かったから。
「え?これだけか?」
「昨日どこぞの誰かさんに、ありったけの酒と食事をお出ししたせいで、本日の朝食は以上となっております。文句言わずに食え!!」
「神に対して、その態度はなんだ!」
「神様って、お供え物にケチつけるのか、ふぅ~ん。お口に合わないようなので、お下げしますかねぇ」
「ま、待て!下僕
そう言って器用に尻尾の部分(?)でレンゲを持って、玉子粥を食べ始めた。
全く、最初から素直に食えっての。
「ごちそうさま。私はもうひと眠りする…」
一晩寝たくらいでは疲れ取れないよね、昨日あれだけ気力も体力も使ったのだから。
昨日の出来事は今でも、夢だったのではないか、と思う。自称元神とやらに腕を食い千切られ、妖怪と戦い、自称元神を家に連れて帰って持て成す。
なんだ、このマンガみたいな展開……マンガ!?そうだ、逆に考えるんだこれはチャンスだと!少しでもネタになりそうな出来事があれば拾い上げて…ふふふ…
「くそ~、起きていても腹が減るだけじゃねぇか、オレも寝る!」
「ちょ、勝手に乙女の寝床に入って来るな!」
「他に寝るとこ無ぇんだよ、仕方ないだろ!嫌ならオマエが退きやがれ」
「なんで私が退かねばならんのだ。おお、床が幾らでも空いているではないか」
「犬や猫じゃあるまいし、ンな場所で寝れるか!この罰当りめ」
「おっと、犬や猫なら布団に入るの大歓迎だぞ…って、あちゃー…」
既に、すうすうと寝息をたてて寝てしまってる。
蹴り落としてやろうかと思ったが、あまり無礼が過ぎると祟られてしまうかも、と考えて止めた。
さて、これからどうしたものか。
先ずは、食費が増える事は確実なので、バイトのシフトを増やさなければならない。
次に、少しでも早く元通りになる様、何とかせねば。
そして、この元神と暮らしていく心構えは…
よし。
コイツの事はゆるキャラ的な何かだと思おう。でないと精神衛生上、非常によろしくない。色々と。故に、「アカリン」と呼ぼうと思う。うん、マスコットっぽい響きで、少しは愛着が湧くかも。
「明日はもっと楽しくなるよ、ね、アカリン。……なぁんてね、フッ……」
クッソ~、コイツを手の平サイズまで圧縮してモフモフに植毛を施して、可愛らしい小動物に魔改造してぇなぁ、チクショウ。
なにせこの先、毎晩ベッドのスペースを圧迫され、窮屈に縮こまって休まなければならないのが、目に見えているのだから。
ああ、それから鼾も五月蝿い・・・
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