想像とのギャップがひどいですよ…

「は?」


そう言葉を発してしまった新一だが無理もないだろう。

なれる職業が無職と言われれば大抵の人はそうなる。


「え?無職てそれ職業なんですか?」



「はい。特徴としましてはまず、職業によるステータスボーナスが一切付きません。またスキルや魔法なんかも誰かに教えて貰う必要があります。教えてもらったとしても本来の職業より弱くなるといった感じです。」



(これはひどすぎるだろ…)



そう思った新一は悪くないだろう。

無職はあくまで冒険者だが身体能力など一切補正されず憧れであったスキルや魔法なんかも他人に教わらないと覚えられないときた。

さすがに泣きそうになってきたが冒険者になれるだけでもいいと割り切るしかない。




「このまま登録してもよろしいでしょうか?」


「はい、がんばります。」



力なく頷く新一だが冒険者になったからにはとりあえずクエストでも受けようと受付けの女性聞くことにした。



(とりあえずこういう時は薬草とかの採取から始めて装備を整えるしかないな)



「すいません。なにか俺でもやれそうなクエストとかないですかね?」



「えっとですね、今の時期は特に冒険者の皆さんに頼むような仕事はないんですよね」


「え、それってどういうことですか?」



今の時期と言う言葉に疑問を覚えて聞くことにした。

整理するとどうやらこの世界はもうすぐ冬になるらしく危険なモンスターなんかは既に冬眠の準備をして活動をしていないらしくそれに伴って薬草採取などの簡単なクエストも頼む必要がなくこの時期から冒険者はほとんど活動しないらしい。

だが無一文の新一はそれでは困る。



(まじか…この世界の金なんて持ってないのに冒険者で稼ぐことすらできないなんてありかよ…)



このまま春になりモンスターが出るまで待つなんて選択肢は新一には存在しなかった。

なんとしても生活費を稼がなくては異世界生活が凍死か餓死で終わってしまう。



「お姉さん!すぐ働けてその日にお金が貰える方法ないですか!俺無一文なんです!どうかお願いします!」



「えっとですね、でしたら土木工事の現場なんかはどうでしょうか?冒険者の皆さんはこの時期働かないので人手が足りないので働けますがステータス的にも厳しいですよ?」




(ガチガチな肉体系の仕事か…)


バイトもしたことがなく1ヶ月部屋にこもってた新一にはとてもきつい仕事だがここにきて断れる状況ではないことは分かっていた。




「是非お願いします!」











既に夜が近いためとりあえず明日から働けることになった新一はとりあえず冒険者なら無料で借りれるボロボロの馬小屋に来ていた。

今はもう使われてないらしく金のない冒険者はここで寝泊まりするらしいのだが冬が近いこの季節はこんな隙間風がひどい所に泊まるのは新一しかいなかった。

ギルド側の好意で毛布だけは貸してもらえることになったが流石に毛布だけでは寒すぎる。




(さっむ!腹も減ったしこんなボロボロの馬小屋で寝るとか想像してた生活と違いすぎる!)


(だいたい冒険者になれたが無職てなんだよ!魔法もスキルも使えなくてステータスに補正もないならただの一般人じゃねえか!)



毛布に包まりながら新一は今日のことを振り返り想像してた異世界生活との違いに涙を流す。

ステータスは平均以下で職業は無職、寝る場所は隙間風がひどいボロボロの馬小屋、モンスターは冬眠のためでてこないから薬草などの採取も誰も発注しないため受けられない。




(もう、はやく日本に帰りたい。家でお風呂はいってご飯食べて布団で寝たいよ…)




過酷な現実を突きつけられて心が折れる寸前の新一は寒さに震え空腹に耐えながら明日に備えて眠りにつく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る