第48話 家につくまでが遠足です
「じゃ、そろそろ行きますか」
風矢は切り出した。
この男、ルミエールの化身?
山神の生れ変わり?
……てことは、
【ルミエール=早梅=風矢】
なのか……?
あぁ、ややこしい、ややこしすぎる。
「……慣れるよ、じきに」
「……慣れの問題なの?」
「だって、こんな状況を受け入れて、双荒山から神域に行ったり、イチイ山から冥魔界に行ったりしてるんだからさー、大丈夫だって」
「ひとを変態みたいな扱いして」
「”みたいな”じゃないよ、変態でしょ? だって自分から行ってるんから」
「自分からって……、自分で行かなきゃいけないって言ったのそっちでしょ?」
「きみ次第って意味で言ったはずだけど」
ムキ―ッとなりそうなわたしを「まぁまぁまぁ」とルミエールが言う。
……いや、元はといえば風矢はあなたなんでしょ……あぁ、ややこしい。
「まぁまぁまぁ」と今度はルシェルがほほえむ。
……いや、元はといえばわたしはあなた……って余計にややこしい! あぁ~、でもこのややこしさも喉元すぎれば慣れに変わる……のか?
「ほらね」
と風矢。
「そうね」
とわたし。
「いいコンビだ」
とルミエールとルシェル。
代わりに照れる翁と老婆。
……あぁ、うれし、ややこし。
「じゃぁ、ごきげんよう♪」
ルシェルらしい、のほほん加減で、わたしたちは地上界に戻ることになった。
天上界発、鏡界経由、地上界行きのエレベーター……ってのもすごいな。「またあのモフモフの不死鳥で行けばいいのに、それがいいな」と思いながら風矢を見ると「え、エレベーターのほうがラクじゃん」とまさかの返答。
とても現代人らしいのものの考え方に、安心感をおぼえなくもない……。
「そうだ、エレベーターで行こう」
* * *
▶鏡界に到着(途中階ならぬ途中界)
エレベーターの扉が開くと、着物を着た二人――八咫烏の澄矢と和穂だ。そして澄矢の隣には女の子、和穂の隣には男の子が隠れるように立っていた。
「あ、あの子――!」
冥魔界で「おかぁさぁぁああん」ってわたしに駆けてきた子だ。
(あぁ、良かったぁ……)安堵するわたしに、和穂はうなづいた。
てっきりお茶でもとお呼ばれするかと思いきや、今回は違うようだ。
翁と老婆だけが前をいく。うしろから見ていると、二人がまるで逆再生されていくように若返っていく。澄矢と和穂の顔をみれば、きっと前に進むふたりの顔も、同じように晴れやかな笑顔を見せているのだろうと想像できた。
真正面まで近づいたところで二人はふり返る。
「あ……」
わたしはそれ以上の言葉が出ないまま、また涙が流れてきた。
ふり返った翁の顔は、あの本でみた享年22歳の若き青年――。大日本帝国海軍、神風特攻隊「早梅隊」「紫苑隊」隊長、矢上是清中尉。記憶に残っているあの爽やかな笑顔。いま目の前にみる顔は、あの写真と同じ、屈託のない笑顔の青年だ。
ふり返った老婆の顔は、実際には見たことのない20歳の若き女性――。少女らしさと女性らしさを兼ね備えた可憐な五月の顔は、イメージどおり美しかった。武家屋敷の令嬢らしく凛としながら、かにかむ笑顔はやはり庇護欲をかき立てる姫様だ。
二人は笑顔でこちらにうなづくと、ふわっと白く発光した後、八咫烏の澄矢と和穂に溶け入るように合わさっていった。
両脇にいた男の子と女の子が、きゃっきゃと家路に向かう。
「あなたはわたくしよ」
「うん、あなたはわたし」
たがいに伝えあう様を、ふたり……、いや三人でクスクスと笑いあった。
「いつもここで見守っているから」
「うん、ありがとう」
ぎゅっと抱きしめ合う。
過去でも未来でもある『わたし』がここにある。過去も、未来も、今も――抱きしめるほどに愛おしい。
そう思えたのは『今』があるからだ。
「ありがとう」
わたしは初めて自分に感謝した。
「じゃぁ頼んだぞ」
「おう」
男どうしの会話は手短だ。
子のあとを追って家路に向かう二人
和穂の背中にそっと手をやる澄矢
幸せそうな二人を見てまた安堵する
すると自分の腰にも感触……
隣には早梅……あっ、いや風矢
いつになく優しい顔をしている
真帆もこんな風に見ていたのだろうか
「帰ろっか」
「うん」
* * *
▶鏡界から地上界へ
「ねぇ、地上界に着いたらどうなるの?」
玉依姫になるのはいいけれど
具体的にどうするんだろう?
えらく現実的な疑問がうかんでいた。
「きみはここにいればいいの」
「ここ? ここってなに、どこ」
「ここ!」
ムギュ――っと抱きしめられた。
「わかった、ちょっ、わかったから」
「また会えるよ」
(へ?)
なに、また会えるよって
会えなくなるみたいな言い方
……なに、この展開……
「つぎは本番だからね」
にっこり顔はたくらみ顔でもある。
「ちょっと待って、ちゃんと教えてよ」
「うん、今度ね」
そう言うとモフモフの羽毛に覆われた風矢にチュッとやさしいキスをされ、ムギューっと抱きしめられた。
(あぁ……っ、モフモフがとてつもなく心地よい……)
* * *
(あ……寝ちゃった……)
モフモフ羽毛のあまりの気もち良さについ寝落ち……「ごめん風矢」と目を開ければそこは――自分の……家??
「え……?」
見まわすとベッドに、みみっ瑞穂!?
あ……れ……?
意識不明の重体で、病院じゃなかったっけ。横たわる瑞穂の顔に白い布はかかってない……。おそるおそる近づき、息をしているか目を凝らした。
そして、おそるおそる思う。
「どう……ゆう……こと?」
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