ずぶりと18発目、約束

「おはよう。今日も診療所に行くわよ」

「ええっ、昨日行ったじゃないか」

「まだ約束を果たしてないでしょ」


 どんな約束をしたっけな。

 こういう時にどんなとか聞くと、怒られる場合が多いんだよな。

 そんな大事な事を忘れたのとか言われてさ。

 前に俺にキュンときたとか言ってたから、好意があるって事だよな。

 嫌われる事をするのも何だし、惚けよう。


「ああ、そうだったな。シュリン、マム、行くぞ」

「仕方ない。一緒に行ってあげるわ」

「はいなの」


 診療所は今日も混雑してる。

 俺達は診察室に入った。


「助かったわ。今日も患者が多くて」

「よし、ちゃっちゃと片付けよう」


 俺達はリアの指示に従って魔法を使った。

 俺の魔法が進化した。

 といっても尻から出なくなった訳じゃない。

 手で拾って使えるようになったのだ。

 尻から棒状に出たヒールの光も千切って使える。

 なんで俺の魔法はこんなに恰好が悪いんだ。


「クリスターには悪いけど、別室でばんばんヒールを生産してね」

「俺が魔法を出す所は見せられないって言うのか」

「ええ、出す所を見せなければ、ただの魔法よ」


 しくしく。

 またハブられた。


 ところで約束は何だったっけ。

 ぜんぜん思い出せないんだよな。

 何かヒントを貰えないかな。


「かの者の傷を癒したまえ、ヒール」


 俺はしゃがんで、力を入れた。

 大量の丸い光が転がっていく。

 俺はほうきとチリトリで集めて、診察室に運んだ。


 リアは魔法の光を患者にすり込んでいく。


「とりあえず、休憩にしましょう。札を出しておいて」


 看護婦が札を出しに行った。


「聞いて。ロウタイドは何とかならないかしら。治療奉仕を道楽だなんて言うのよ。聖剣を早く見つけろってうるさいわ」


 リアとアドミが話し始めた。


「無視してればいいのよ。自分は動こうともせずに宿で遊んでいるだけでしょ」

「そうなのよね。腹が立ってストレスが溜まるわ」


「腹の立つ奴は殴るに限るよ」


 言わずと知れた乱暴な意見は、シュリン。


「殴っちゃ不味い。あんな奴でも貴族なんだからさ」


 俺がそう言うと。


「神は何であんな奴を探索隊のリーダーに選んだのでしょう」


 とリア。

 たぶん俺が居るからだ。

 あれっ、飲んだ時にそんな話をしたような。

 ええと、そうだ確か、それで。

 何だっけな。


 ああ、神託で探索隊を編成したという話だったな。


「きっと深い考えがあるんだよ」

「そうでしょうか。それにロウタイドは私に色目を使ってくるの。宿に居たくないし、一緒に行動したくないのも、それが理由なのよ」

「分かるわ。私に対してもそう。困ったものね」


「気に入らない雄は殴るのだ。一族の掟よ」

「竜人が羨ましいわ」


「正義の心で行動するの。神はそう言っているの」


 おいおい、マムも過激だな。


「それより、ヒールの魔法は飽きた。別のを教えてくれ」

「ええ、それでは。かの者の病を治したまえ、キュア。これが病気治療の魔法よ」

「覚えたよ」


「でも当分禁止よ」

「何で?」

「光の色が同じだとヒールとキュアの見分けがつかないでしょ。間違いの素よ」

「そんな。じゃあヒールの上位の魔法を教えてくれ」


「かの者の大傷を癒したたまえ、ハイヒールよ」

「じゃあ、今後はハイヒールを量産するよ」

「それなら間違えても大丈夫ね。傷を見て治らなかったら、もう一回やるだけだから。威力が高い分には問題ないわ」


 俺は別室でハイヒールの量産を始めた。

 俺の回復魔法は、どれぐらい持つんだろう。

 長く持つようだったら売れるな。

 この診療所にストックしておいてもいい。


 そうだ、約束を思い出した。

 ロウタイドを何とかして欲しいだったような。

 違ったかな。

 何か違うような。


 でも何とかしてやりたい。

 そうだ、探索してますよってゼスチャーを見せればいいんだ。

 来た患者に噂を書いてもらおう。

 適当に書いてありさえすればいいんだ。

 ロウタイドはそれを読むだけで、忙しくなって、色目を使う暇などなくなるさ。


 俺の提案は受け入れられた。

 噂話が患者の手で書かれ、ロウタイドに届けられたようだ。

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