ずぶりと13発目、スライムポーション

 スライムから採取した液体を覚えているだろうか。

 スライムが高価な薬草を飲み込んでいて、消化させて、浣腸スキルで排出させたあれだ。

 あれを薬師の所に持ち込んでみた。


「いらっしゃい」


 店番は中年の普通の女性だった。

 青臭い匂いを発散している所を除けばだが。


「これを鑑定してもらいたい」

「じゃ早速。【薬効鑑定】。素晴らしいポーションね。君が作ったの」

「作ったと言えば作ったけど」


「惜しむらくは水が悪い。もっと綺麗な水を使うといいかも。品質が上がるはずよ」

「ぶっちゃけますが、このポーションはスライムに薬草を食べさせて絞った物なんだ」

「ええと、スライムを錬金釜に使ったのね。確かにスライムは、みんな溶かしてしまう。けど、絞ったら内臓とか酸が混ざって、使い物にならないはずだけど」

「そこはスキルを使ったんだ」

「君にしか出来ないのね。でも、興味が出て来た。もう一度そのポーションを再現してみましょうか」

「はい」


 スライムを捕まえてきた。


「では行きます【浣腸!】」


 スライムがドバドバと液体を吐き出す。

 俺はスライムに水を与えた。

 それを何度か繰り返した後に薬草を食べさせた。


「薬草が溶けていくわね」

「では仕上げの【浣腸!】」


「出来たというわけね。【薬効鑑定】。なるほど、低級の材料だけど、高品質の物が作れたわね。薬効も濃縮されていて申し分ない。でも、君が居ないと生産できないのでは、このレシピは役に立たない。ちょっと残念」


 あれがあったな。


「この魔道具を使ってみてくれ。俺のスキルが込めてあるんだ」

「こうかな」


 スライムからドバドバと液体が漏れる。


「どう?」

「色々と応用が利きそうなやり方ね。例えばお茶の葉をスライムに食べさせて絞るとか」


「俺はそんなの絶対に飲まない」

「美味しいかも知れないよ」


「物は試しね」


 スライムがお茶の葉を食べて、お茶が出来た。

 店員が一口飲んで、口直しにクッキーをかじる。


「ちょっと濃いわね。水を足して。こんなものかしら」


 店員が水を足してまた一口飲む。


「素晴らしいわ。美味しいお茶だわ」

「こんなのが流行ったら、店ではお茶は絶対に飲まないぞ」


「お酒も出来ないかしら」

「やめてくれ。店で何も口に出来なくなってしまう」


「まだ、掛かりそう?」

「美味しそうな匂いがするの」


 近所の店で暇を潰していたシュリンとマムが店に入ってきた。


「待たせて悪いな。美味しそうってクッキーの事か?」

「うちの店オリジナルの薬草入りクッキーよ。良かったらどう」


「貰うわ」

「頂きますなの」


 スライムのポーション開発がお茶会になってしまった。

 二人は美味そうにスライム茶を飲んだ。


「そのお茶な。スライムの排泄物だぞ」

「美味しいは正義」

「とっても美味しいの」


 俺は絶対に飲まない。

 俺は仕事に対して誇りを持っている。

 しかし、それをしたら、何か大事な物が無くなる気がするんだ。

 一線は引いておかないと。


「そうよね。美味しいわよね」

「店員さんも良く飲めるな」

「あら、薬の材料には糞を使うのもあるわ」

「ええっ、そんな。詳しく教えてくれ。その薬を絶対に飲まないぞ」


 詳しく教えてもらった。

 その結果、子供の頃に飲んだ記憶のある薬が。

 俺は既に一線を越えていたのか。


 駄目だ。

 今後は飲まない。

 これで行こう。

 知らなかった時のは、数に数えない。


「何、難しい顔しているの。お茶美味しいわよ」

「美味しいの」

「俺に薦めるな。食い物でないスライムの使い方がないかな」


「そうね。肥料ぐらいしか考えつかないわ」


 店員さんの意見だが、そんなのわざわざ絞らなくてもそのうち出すだろう。


「魔法を食わせてみたらどうかな」


 シュリンの奇想天外な意見。


「いくらスライムでも魔法は消化出来ないだろう」

「やってみたら」


「店員さん、魔法使えます?」

「ええ、簡単なのなら。灯りをともせ、ライト」


 灯りの魔法がスライムに食われた。

 分解されて、光が消える。

 駄目じゃん。


「一応【浣腸!】」


 スライムの排泄物を瓶に入れる。

 これってどういう状態なのかな。


「【薬効鑑定】。魔法が分解されて、魔力がスライムに吸収されてるわね。残ったのはライトの魔法意識だけだわ」

「ええと、その魔法意識って何なの?」

「魔法を使う呪文みたいな物よ。これに魔力を加えると」


 店員さんが瓶に手をかざすと、瓶の中身が光る。


「これがなんの役に立つんだ」

「魔力水と別々に持っておいて、混ぜたら魔法を発動できるわ」

「魔道具の方が便利じゃないか」

「そうね。でも新製品が生まれた事は間違いないわ」


 物づくりは難しい。

 スライムポーションとスライム茶が出来ただけでもましか。

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