ずぶりと2発目、犬のあいさつ亭

「すいません。この辺りで泊まれる所はどこですか」

「その身なりだと安宿だね。ここを少し行って曲がった所に、犬のあいさつ亭というのがあるよ」

「ありがとう」


 教えられた宿屋に行く。

 粗末な所だったけど、内装は暮らしていた離れより良い。

 離れは九年間、手入れがされてなかったからボロボロだった。

 この宿なら、ゆっくり眠れそうだ。


「泊まりたいんだけど」


 中にいた女の人に話し掛ける。


「一泊、銀貨1枚だよ。わたしゃ女将のタリー・セレク。よろしく」

「クリスターだよ。じゃこれで」


 金貨1枚を出した。


「お前さん、からかっているのかい。こんなに大きいお金を出して何だい」

「じゃあ、それで泊まれるだけ泊まる」

「100日も泊まるのかい。仕事は何だい」

「冒険者」

「討伐依頼は受けないのかい」

「ああ、依頼は一切受けないよ。だって何にも知らないんだから。本は少し読んだけど、冒険者の本はなかったなぁ」

「そうかい。納得してるならいいよ。103号室だよ」


 鍵を受け取り廊下をうろつく。

 ええと。ああ、ドアの所に書いてあるのが部屋の番号か。


 部屋の鍵を何とか開ける。

 右に回すのか左に回すのか聞いておけばよかったな。

 そうすればこんなに手間じゃなかったのに。

 四苦八苦して鍵を開ける。


 腹がぐぅと鳴った。

 そう言えば、何にも食べてないや。

 食事は出ないのかな。

 さっき聞いておけばよかったと、思ったばっかりだった。

 反省は活かさないと。

 聞いて来よう。


「食事はどうするんですか」

「うちは食事は出ないよ。外で食べてくるか出前だね」

「出前って何です?」

「料理を注文すると持って来てくれるのさ」


「じゃ出前で」

「料理は何にする」

「分からない」

「分からないのかい。じゃ適当に注文しておくよ。支払いはさっきの金貨から払うけど良いかい」

「構わない」


 部屋で大人しく待つ。

 暖かい料理が運ばれてきた。

 ほかほかと湯気が上がる。

 うわっ、暖かい料理を食べるって何年ぶりだろう。

 6歳の時以来かな。


 料理をむさぼるように食べた。

 暖かい料理が、心に染みた。

 涙がこぼれてくる。


 部屋を出て女将さんの所に行く。


「ご、ごちそうさま。ぐすん」

「何だ、泣いているのかい」


「暖かい料理を食べるのが、久しぶりだったから」

「そうかい。生まれは詮索しないけど、苦労したんだねぇ」


「苦労かどうかは分からない」

「何にも知らないんだね」


 女将さんに指示された通りに器を廊下に出す。


 その日は、良く眠れなかった。


「おはよう」

「出かけるのかい。鍵を預けていきな」

「はい」


 露店を冷やかしながらギルドへ行く。

 昨日はどうするか心配で露店など気にも留めなかったが色んな露店がある。

 買い方のルールが良く分からないので手は出さない。

 ほどなくしてギルドに着いた。

 朝のギルドは混みあっている。


 カウンターの列に並んでギルドカードを出すと指名依頼が入ってますと言われた。

 オペラッティと他3人だ。


「これはどうしたら」

「雑務依頼ね。オペラッティさん以外はギルド職員のようね。今、呼んで来るわ」


 しばらくして3人が現れた。

 3人とも女性だ。


「じゃあ、やります。【浣腸!】【浣腸!】【浣腸!】」


 一人が電光石火の勢いでトイレに駆け込み。

 後の二人が遅れてトイレのドアにぶち当たる。

 そして、トイレのドアをどんどんと叩き始めた。


「お願い。ドアを開けて」

「そうよ。もう我慢できない」

「くぅ、でりゅぅ」

「おほっ」


 少し経ちトイレのドアが開く。


「ごめんお待たせ」

「隙あり」


 残ってた二人のうち一人が駆け込む。


「そんな、殺生な。もう駄目。おほほほ。ふんがぁ」


 今度から時間をおいてスキルを掛けるとしよう。

 色々あって、仕事場は宿でやる事にした。

 だが、宿もトイレは多いとは言えない。

 それに苦情も出た為、ギルドに特別室が作られる事になった。


 そして、5年の歳月が経った。

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