第42話 王太子殿下の想い人が私だと気付かされて混乱してよく寝れませんでした
私は魂を抜かれたようになってマリアンの屋敷に帰ってきた。
「どうだった?」
「・・・・」
私は混乱のあまり迎えに出てきたマリアンには最初は何も答えられなかった。
でも、少しして
「マリアン!殿下の事、判ってたのね!」
私はマリアンに恨みがましい視線を向けた。
「ああ、やっと気付いたのね!」
「そんなの判るわけ無いでしょ」
私が怒って言うと
「お兄様も気付いたのよね?」
「それはないんじゃないかな」
だって私に対する態度は普通だったから。
「ええええ!嘘でしょ。あんたの前で助けられた時のことを話せば良いって言ったのに!」
「ああ、だから王太子殿下がその時のことをお話しいただけたのね」
「それで相手があなただっていくらあなたでも判ったでしょ」
得意げにマリアンが言ってくれた。
「そう言う事は知っていたら前もって言ってよ!」
「それらしいことは散々言ったじゃない。あんたよく聞いていなかったかもしれないけど」
マリアンがしらっと言う。
「はっきり言われないと判らないわよ」
「昨日言ったわよ。あんただって」
「嘘?」
「最もあんたはそれどころでなくて、よく聞いていなかったみたいだったけど」
「もっとはっきり言ってよ。はっきりと」
聞いていなかった私が悪いかもしれないけれど、チャンと話してほしかった。
「まあ、エレはもともと鈍いもんね」
余計なお世話だ!
「でも、お兄様も鈍いにもほどがあるわ。エレがその子の事を知っているかもしれないからって、わざわざ言ってあげたのよ。お兄様、どこ見ているんだろう。エレはその眼鏡していても考えていることは丸わかりなのに」
マリアンの言うことはいちいち癇に障るんだけど。私はそんなにわかり易くはないはずだ。
「何言ってんのよ。あんたは判りやすいわよ。あんたが判りにくい腹黒たぬきだって言うんだったら、私はこの国一のペテン師になれるわよ」
何かよくわからないことをマリアンが言っている。そらあマリアンに比べたら
「本当にお兄様も馬鹿よね。助けられた時のことを話したらエレが動揺したの手にとるように判ったはずなのに。そこを突けば一発でその時の女の子がエレだって判ると思ったのに」
まあ、確かにマリアンの言うとおりだ。あの後の私は動揺しまくりで、あまり王太子殿下ともお話できなかった。まあ、殿下としては元の無口な眼鏡女に戻っただけかもしれないが・・・・
「本当にお兄様もどうしようもないわね」
マリアンは呆れて言った。
「で、エレはお兄様に言うの?」
「えっ、言うって何をよ」
私は驚いて聞いた。
「そんなの決まっているでしょ。あなたの想い人は私ですって」
マリアンの言葉に私は固まった。
「そ、そんなの言える訳ないじゃない!」
そうだ、そんな事を王太子殿下に言えるわけ無い。そもそも、私なんかが王太子殿下の想い人であって良いわけないのだ。
「そうなの? やっぱり魔王にバレるかもしれないのが怖いのね」
「まあ、それは少しはあるけど」
「えっ、少ししか無いの?」
「いや、だって、それは魔王は怖いわよ。基本は隠れていたいわ」
私はマリアンに言った。
「でも、それ以前に、王太子殿下の想い人が平民の何の取り柄もない私で良いわけ無いでしょ」
「そうかな」
「そうよ」
私は言い切った。
「でもあんたは学園の特待生で、水魔術は学園トップ。サラマンダーも一撃で不能にするほどの魔力量よ。魔術師団からもスカウトが来るくらいの」
「えっ、スカウト来たなんて聞いていないけど」
「何言ってんのよ。あんたレイモンド様の弟子認定されているんだから、行きたかったらレイモンド様の推薦があればすぐよ。だから、まあ、平民だけど、なろうと思えばお兄様の婚約者に成れないわけではないわ。王家としても魔力量の多いあなたは十分に候補にはなり得るのよ。それも最高の魔術師のレイモンド様の弟子なんだから。国の魔術師の誰もがレイモンド様の賛成されることには逆らえないわ。なんだったらどこかの伯爵家の養子くらいには直ぐに出来るわよ。正体明かさずにそれくらい出来ると思うわ。それに、聖女だって正体明かせばすぐにでも、お兄様の婚約者になれるけど」
「え、そんなに簡単なわけ無いでしょ」
「何言ってんのよ。あんたはこの私マリアン王女の一番の側近なのよ。私は大貴族たちの弱みも2、3握っているから何でもしてあげるわよ」
うーん、何かマリアンに言われるとそれはそうかも知れないけど・・・・。マリアンは悪巧みとかも普通にしそうだし・・・・。でも、
「何言ってんのよ。私が、貴族のドロドロの愛憎劇の中を生きていけるわけ無いでしょ。おとなしくて繊細な私なんて、虐められて精神的にずたずたにされて、ぽいと捨てられるのが落ちよ」
「あのう、エレ、私思うんだけど、あんた繊細って言葉の意味、勘違いしていない?」
馬鹿にしたようにマリアンが聞いてくる。
「どこがよ。私今日のことが心配で昨日は良く寝れなかったのよ。とても繊細じゃない」
「まあ、それは少しは繊細・・・・いやいやいや、あんたが繊細なわけ無いでしょ」
「何でよ」
「だって、この王立学園も結構ドロドロしているのよ。でも、あんたチャンと生きているじやない。食事量は誰よりも多いし、この前もコンスタンスの攻撃躱していたし、偽聖女のモモンガも結構大勢力築いていたのよ。それを一撃で粉砕して、騎士団長にまで土下座させていたじゃない」
「えっ、いや、あれは私の父がスタンピードで犠牲になったからだけで」
「お父さんのおかげだろうが、事実でしょ。王家としてもスタンピードで犠牲になった騎士の娘を娶ったってそれだけで美談じゃない。少なくとも騎士たちは絶対に反対しないわ」
「いや、でも」
「王立学園は王宮の縮図なのよ。その中でチャンと十分に存在感出して生きて行けているんだから問題無いと思うけど」
「えっ、でも、それはマリアンやローズ達が守ってくれているだけで」
「王宮でも守ってあげられるわよ。王宮では私は王女様なのよ。自分で言うのはなんだけど、学園よりも力はあるはずよ」
マリアンがもっともなことを言ってくれた。
「まあ、それはそうだけど」
「それにお兄様がいるんだから。兄は優しそうに見えて、腹黒よ。あんたがミニ聖女ちゃんだと判ったらどんな事してもあんたを守ろうとするから」
「いや、だからそれは私を美化しているんだって。今の私の本当の姿を見てもがっかりされるわよ」
「そんな事ないと思うわよ。お兄様はそれはもう、必死にあなたを探しているのよ。最近は孤児院巡りもしているみたいだわ。でも、あなたとは何回も会っているのに、それも一度は大変なところを助けているのに、何で気づかないのかなとは思うけど」
マリアンは首を振った。
「そうでしょう。だから私を絶対に必要以上に私を美化しているんだって」
私は言い張った。
「いやいやいや、お兄様が気付かないのはそのレイモンド様の眼鏡のせいじゃないかな。レイモンド様が作っただけあって、エレの素顔の特徴を完全に隠しているのよ。だって、私は6年前にお兄様と初めて会ったけれど、あんたに助けてもらった時の話は今までに散々聞かされているのよ。その時のとんでもない規格外の力とちょっと抜けた性格はあんたとそっくりだもの。普通は気付くはずだって」
マリアンが言ってくれるが、私はそれを信じ切ることは出来なかった。
「まあ、おそらくそれも少しはあるとは思うけど、絶対に美化してるんだって。子供の時の事を、どんどん美化して私はめちゃくちゃ美人に思われているに違いないわ。絶対に今の私を見たら失望されるに違いないって!」
「そんなこと無いと思うわよ。お父様もあなたの事美人だって言って、王妃様に睨まれていたみたいだし、あなたもっと自信もって良いわよ!」
「うーんそうかな。周りに比べたら多少見れるってだけだと思うよ」
「何を言ってんのよ。お父様めったに美人なんて言わないわよ。王妃様が怖いんだから。それが思わず言ってしまったと言うことは、美人だってことよ」
「でも絶対に王太子殿下は私をそれ以上に美化しているって! そうでなかったら、私に少しは気付かれるはずだもの」
「本当にお兄様もどうしようもないわよね。まあ今日の今日であなたもいろいろと考えられないと思うから、じっくり考えてみてよ!」
マリアンにはそう言われたけど、私が王太子殿下の想い人だと言うのは信じられなかった。
前の日も今日のことを考えて碌に寝れなかったけど、この日も色々と考えたら寝れなかった。
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