第23話 それぞれの朝が来た

翌朝になっても両翼への通行は開始されず、男性客はその棟にある大ホールでまるで紳士クラブのように朝食を供され、女性たちはそれぞれの客室に朝食が運ばれた。

ヴィヴィニーアが言った通り、男性使用人は女性客の客棟には入れず、女性使用人は男性側には入れない──もどかしいことにそれは招待客たちにも適応されており、食事と身支度の終わった者からそれぞれ従者や侍女を伴って共通の廊下へ出る扉へと──女性側の物はロメリアによる防壁だったが──皆出れずにオロオロとうろつくだけである。

その中でもまだ自分に与えられた部屋を出ないロメリアに、侍女のホムラが朝食をセッティングしながら声を掛けた。

「……姫、いえ、ロメリア様。もうそろそろご加護をお解きになったほうが」

「ふあぁ……ん……そう、ね……」

常に清浄で、聖力に満ちている大神殿と違い、ここではロメリアが発動した防壁魔術を永続させるモノがなかった。

おかげでうたたね程度でずっと魔力を稼働していたため、気を抜いた途端にベッドに沈み込みそうである。

「……いいわ。好きに出て大丈夫、よ……」

「畏まりました」

大きくなった腹を庇いつつホムラがお辞儀をしたが、姿勢を戻す前にロメリアは柔らかい枕に頭をつけていた。



自ら『偉大なる』と形容詞をつけるマレク・デミアン・ガウシェーン大公様は、一度も起こされることなく朝を迎えた。

おかげでぐっすりと休めたはずだったが、顔つきは険しく、とてもではないが近付きたいと思える容貌ではない。

かつては嬉々として自分の娘を売り込む貴族家が絶えなかったものだが、手をつけた娘のどれもが気に入らないと追い返され、ただいたずらに大公様の性欲発散に使われるだけだと悟った貴族たちは領地に住む平民の中でも器量よしの生娘を養女に迎えて寄こすようになったのである。

別に大公妃に迎えるつもりなどまったくなかったので、よほどの欠点がなければどんな女でも受け入れてやった。


そんな優しい・・・君主だというのに、高貴な血筋を誇るどの国からも婚姻の申し込みはなかった。


なければ、集めてしまえばいい。

そう思って決行したのが、今回の『大公の正室選定と祝福』というわけだ。

もちろんこれまで手を付け花を散らした自国の女たちから選定するつもりはなく、招待状を出してのこのこやってきた各国の美しい女から選ぶつもりである。

寄こされた女たちはどれもこれも磨き上げられた陶器人形のようでいずれも手折りがいがある者ばかり。

残念なことに正式な夫婦もいたが、そんな者たちをガウシェーン公国へ遣わした国へは多額の慰謝料を請求するつもりだった──『偉大なるガウシェーン大公殿下の意志を汲まずに気分を害した罪』ということで。

むろん代わりに妻を差し出すというのならば気分良く甚振ってから返すつもりだったが、その際自分の性技に骨抜きになり、国に帰りたくないとでもいえば愛妾ぐらいには召し抱えてやろう──そんな妄想を抱いていたのに、わざわざ出向いてやった大公は訳のわからない魔法の暴力で追い返された上、招待された女たちの誰ひとりとして自分の寝室まで忍んで来ることはなかったのである。



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~聖女の行進シリーズ~ 聖女の外遊 行枝ローザ @ikue-roza

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