第15話 あなたはだあれ

「………なるほど。この城にいるのは皆クズなのですね。面白いですわ」

虚空を見つめてポツリとロメリアが零すと、へらへらと笑っていた検問の男たちはピタリと動きを止めた。

「あら。ヴィヴィニーア様」

「な、なんだ?」

「あちらの文官さんは、お手付きをして捨てた女が両手両足の指も足りないほどだそうですわ」

「え?」

「僭越ながら……そのような穢れた者に大聖女様のお身体を検めさせることはいかがかと……と申しますか、何故か女性文官なり、女性騎士なりがご婦人たちの身を検めているようでもございませんが」

ロメリアが呼びかけさらにホムラが助言をすると、ヴィヴィニーアは改めてこれから自分たちがくぐるはずの門に群がる男たち・・・をじっくりと眺める。

「……確かに。しかも女性たちを担当している者も普通の者たちだな」

「ええ。しかもあちらで嫌がっているお嬢さんをべたべた触っているのは、ついこの間お付き合いしている女性を胎児ごと突き落として始末した挙句、今は今夜の相手に都合のいい女性かどうかを見極めているところらしいですわ」

「……ひょっとして」

ゆらり、とロメリアの肩のあたりに湯気のような揺らぎが見えた気がしたが、そちらに意識を向けても何も見えない。



アディーベルトは身重の妻を心配して、以前よりも豊かになった胸部を見てニヤニヤしている男たちの目から隠そうとした。

しかしながらホムラ・リー・ドルント──旧姓ガヴェントの娘は、己の主人を見捨てて夫の後ろに隠れているような者ではなく、むしろ共に前に立ち大聖女を守る気概のある女性である。

実際アディーベルトの手を叩き払い、足音を立てず滑るように大聖女ロメリアの背後に戻った。

その様子を呆然として見ていたアディーベルトは更にポカンと口を開けた──そう、妻の前に美しい姿勢で立つ少女に凭れ掛かる透きとおる美しい後ろ姿の女性がふわふわと浮いているのかを見てしまったのだから。

(あ、あれは……この国の、女神……なのか?)

ヒュッと息を飲んだが、さすがに誰にでも見えるものではないことはわかっていたので、驚きを声に出すことはしなかった。

現に大聖女ロメリアの横に立って会話を交わしているヴィヴィニーア第二王子は少し不審げな視線を婚約者の細い肩辺りに投げてはいるが、違和感しかわからないらしい。



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