第16話 似た者同士が集まるのです

だいたいが宙に浮くなど──いや、人ではないからこそ宙に浮いている、とも言える。

そしてアディーベルトに見えているのは背中から尻にかけての蠱惑的なラインで、顔などは一切見えていないのに『美しい』と形容できる容姿であることが無意識に理解できること──それこそがこの女性が人外であるという証明だ。

『……あ…ら……おも…しろい…坊や、ね……』

いつの間にか記憶に刻み込まれた顔がそのままの通りにくるりとこちらを向き、気怠そうな声で歌うように呟いた。

「わたくしの従者ですわ。アディーと申しますの」

『ま…あ……うるわ…しい……で、も……』

「ええ。わたくしの侍女の夫ですわ。惑わすのはお止めくださいまし」

『ざ…んね…んだ、ことぉ………』

「そちらも、です。それ・・にお手を触れることは、禁じますわ」

ゆらりと霧が動くように姿が霞み顔と手の位置が変わった瞬間に、ロメリアが釘を刺すように声だけでその女神の動きを止める。


その指が向かう先にいたのは、ヴィヴィニーア・ラ・クェール・ダーウィネット・ダーウィン──ロメリアの婚約者であるダーウィネット属王国第二王子であった。

「………~~~~~~~~ッ!!!!」(………えぇ───っ!!)

一瞬呆然とした後に叫ぼうとしたアディーベルトの口は、開いた形のまま自分の妻の手で完全に塞がれる。

まるで見計らっていたかのようなそのタイミングで動いたのはその手だけであり、他の誰もがロメリアの鋭い指摘にそれぞれの表情を浮かべ、公国側は慌てて女性兵を手配し、今まで触られるばかりだった高貴なる人々は付け入る隙を好機と捉えて、抗議の声を上げ始めた。



結局その女神は名乗りもせず、蠱惑的な唇を眇めてヴィヴィニーアに向かってキスを投げた後、チラリとアディーベルトに流し目をしながらウィンクをしてから掻き消えた。

「……んだった、んだ……?」

「何って、姫…ロメリア様はありとあらゆる神からの干渉を許されたお方。そのため顕現をお受けになられた……それだけのことです」

「それだけ…って……」

ホムラが夫にしか聞こえない声量でそっと囁く。

その顔は主の背中をジッと見つめており、その頭もアディーベルトの肩に届くぐらいなのに、なぜかいつも良く耳に届いた。

「それにしても、何とも女性問題の多い方が多いこと……噂には聞いていたけれど、『はーれむ』とかいう女性ばかりを集めた後宮なるものを作ろうと目論む者が盟主なだけありますね」

「え?はーれむ?あの…幾人も妻を娶って閉じ込めるとかいう?」

「ええ。その『はーれむ』。幸いなことに我が国は第二王子殿下も王太子殿下も、現国王陛下も愛妻家ゆえに側妃どころか愛妾も必要とはされませんが、他の属国では始祖様の教訓を生かさない方もいらっしゃるとか……嘆かわしい」

その声音に込められた厳しさに、アディーベルトはけっして他の女性に目をくれるような愚は侵すまいと心に改めて誓った。



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