第13話 それぞれ監視中

それを見て激昂した王子もいたが、それを逆撫でするようないやらしい笑みを浮かべて引き留めたのが大公の妹である。

そしてさらに見込みのない口説きを飽きもせずに続ける自分の兄の状況がさも上手くいっているかのように手をひらひらさせ、婚約者や配偶者の誰もが今夜は兄の寝室に列をなして夜伽の順番を待つだろうから、自由の身となって自分の部屋で語らい・・・を楽しんではどうかと提案した。

その『語らい』にただテーブルを挟んでの歓談以上の意味を汲み取って下卑た笑みを浮かべる者もいたが、そんなのはほんのわずかである。

公女はこの宴に招かれた客が各国を代表して訪れているということを理解しているのか?──大方の主人格の者と、不相応な想いを抱かない大半の従者たちは渋面を作って、パートナーが貶められるのを黙認した。

そしてヴィヴィニーアが怒りを込めて席を立ったのを合図に次々と自分のパートナーを引き取るために立ち上がったが、皆遅きに失したことを確実に理解しており、今夜だけでなく帰国後に何らかの遺恨が残るであろうことは目に見えている。

だがその怒りを宥めるための努力をするつもりがあるかないかで、テーブル残留組とそうでないヴィヴィニーア追従組とで別れたのだが、それが己の将来の明暗に関わるというのに──

ロメリアは吹っ飛ばされて悶絶するガウシェーン大公には目もくれずにまっすぐ前を向いてエスコートされたが、そのほっそりとした手を取るヴィヴィニーアは軽くフンと鼻を鳴らして男女別に分けられたテーブルをそれぞれ見回してから大広間を後にした。



本来は大神殿での近衛業務を勤めるアディーベルト・ギャラウ・ドルントにとって、ダーウィネット属王国第二王子ヴィヴィニーア・ラ・クェール・ダーウィネット・ダーウィンの護衛というのは本来の仕事ではない。

だが大聖女であるロメリア──フェディアン辺境伯爵家第四女で五人兄弟の末っ子──がサラリと放った「ヴィヴィニーア様の護衛に就いてください」というセリフに反論する気はなかった。

ひとつにはヴィヴィニーア第二王子が大聖女の婚約者ということもあるが、アディーベルトなりの考えもある。

通常の『大聖女専任従者』という立場では主人の側どころか大聖女専任侍女を務める妻にも近寄れず、このだだっ広い宮殿の主賓側ではなく従者たちが纏めて泊め置かれる別棟に押し込まれてしまっていたはずで、主人を守る勤めが果たせない可能性がある。

そして畏れ多くも王族であるヴィヴィニーアの素行を疑うわけではないが、アディーバルトが大聖女ロメリアの専任従者となるきっかけは「愛犬のために遠方にある不死の実を取って来い」という命令で、それが果たせなかった代償に婚約破棄をチラつかせたという経緯があった。

そんな御仁がまた何時、しかもこんな異国で無理難題と『婚約破棄』という不穏な発言をしないとも限らず、それが従者付きの貴賓室で見張れるとなれば、これほど都合のいいことはなかったのである。


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