23話「ち」
4節「 by my friend」
文化祭終了後 翌週
翔太郎視点
「頂きま~す」
校舎の屋上、昼食の時間。俺はツユと怜雄と共にご飯を食べていた。
「文化祭終わたっと思ったら、いよいよ来週からだな。修学旅行」
あたりめを頬張っている怜雄が言う。
「山梨県だよ、山梨県。東京が良かったな~」
とツユが後ろに倒れながら言う。
「山梨県民を敵に回したな」
俺はツユにツッコむ。
「いいじゃんか、山梨県。ほうとう、ぶどう、信玄餅。富士山に、テーマパーク。色々あんじゃんか」
怜雄はあたりめを頬張り続けている。
「しかも、移動費削れたお陰で、湖近くのコテージだよ。富士山も見えるし、紅葉もしてる」
俺はミートボールを口に入れながら言う。
「二日目の行先の選択、みんなテーマパークだろ?俺はぶどう狩りなんだよね~」
ツユはまだ寝転がって、空を見ている。
「彼女さんの熱い要望ですか」
俺はツユに尋ねる。
「そ。ぶっちゃけ俺はテーマパークのが良かったけど……」
「大変そうですね」
と怜雄はが他人事のように言った。まあ、実際他人事ではあるが。
「まあ、どこに行くかより、誰と行くかだよ」
と怜雄が付け足す。
「翔太郎たちもさ、修学旅行前に関係が治って良かったじゃん。志渡ちゃんも元気になってたし」
ツユは起き上がって、お弁当を食べ始める。
「ほんとうに、その節は……。ありがとうございました」
俺はみんなに頭を下げる。
「いいって。志渡ちゃんとの関係が治ったなら、純粋に片思いできるじゃん」
ツユは俺の方を見つめた。
「そうなんだよ……」
俺は箸を持った手で、赤く染まった顔を隠した。
「今日席替えあったんだけどさ、翔太郎、志渡ちゃんと隣の席なった」
俺の代わりに怜雄が代弁してくれた。
「まじで!?熱!!」
ツユは目を見開きながら驚いた。
「さっきの授業もさ、ペアワークあったんだけど……まともに話せなかった」
俺は4限目の授業を思い出す。
隣のペアで英語の会話文を読む状況になったのだが、志渡があまりにも可愛すぎて英語を話せたものじゃなかった。
「
「初心だね」
怜雄とツユはそう言い合っている。
「だって、人を好きになったの、初めてなんだもん!今の俺はではね!」
俺は左拳を地面にぱたんと叩きつけた。
「そういう怜雄はどうなの!」
俺は怜雄に話を振る。
「あるよ。中学の頃、5か月くらい付き合ってた」
『マジか』
俺とツユは二人とも驚いた。
「君たち、俺のことなんだと思ってんの?」
と怜雄がツッコんだ。
___________________________
その日の放課後 教室
奈良坂視点
私は文化祭の時に撮った怜雄とのツーショットの写真を眺めていた。
今日の席替えで一番窓側の席になったし、教室には誰も居ないから大丈夫だと思う。
この写真を撮った時、怜雄は私の手からスマホを取った。
その時、一瞬だけ怜雄の手が触れた。あの時の感覚を思い出すだけで、胸が少し窮屈になる。
「わ!」
「ああ!!!!!」
突然背後から大声を出されて、私は急いでスマホの電源を消した。
「若気の至りですかい?ならしゃか」
声の正体は志度ちゃんだった。
「寿命がリアル2年は縮まった」
私はホッと息を突きながら、机にうつ伏せになった。
「怜雄とはどんな感じ?」
コンビニで買った来たであろうフラペチーノを飲みながら、志渡は隣の席に座った。
「どうもこうも……ん~あ!」
「修学旅行でもっとアタックしちゃいなよ」
「お化け屋敷、怜雄と2人で入ったら?」
「へ?」
「私は翔太郎と行くから、奈良坂は怜雄と2人で行きなよ」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいいい」
「だってあのお化け屋敷さ、同時入場人数の最大……2人だよ?」
「ほんと?」
「うん。私が駄々こねても、どうせみんな行くからさ。もう覚悟して調べてみたの。そしたら公式サイトに書いてあったよ」
「ホラ」
志渡ちゃんが見せて来たスマホの画面を、私はチラ見した。
「マジじゃん……」
「まあ、問題は メンズ2人が男女ペアをOKするか だけどね」
「行きたいな……怜雄と」
「違和感無い程度にサポートするからさ、3日間もあるんだし、押してこ!」
「ん~!」
私は机に顔を伏せて足をバタバタした。
その後は志渡と一緒に家に帰り、駅で別れてから一人で電車に乗っていた。
イヤホンで音楽を聞いていたら、一つの通知が来た。
”しょたろからのメッセージが一件あります”
(なんだろ)
私は翔太郎とのメッセージを開いた。
『志渡のことで相談あるんだけど……』
『どしたの?今電車だから、文字で良ければ聞けるよ』
『志渡のことが、ずっと好きにだった』
(!?)
『いつから?』
フリック入力する手が尋常じゃなく早くなる。
『中間テストの前ぐらいから』
『そーだったの……』
『でも、志渡と昔の俺が付き合ってたこと知って、まずは今の関係をハッキリさせるのが先だと思ってた』
『うん』
『でも、文化祭で話せて、スッキリした』
『みたいだね。志渡ちゃんもスッキリしたって言ってたよ』
『そっか。それなら良かった』
『なんで私に教えてくれたの?』
『奈良坂は、志渡の親友だから。伝えておくべきかなって』
『なるほど』
『自分の力で進めるから、変に気を遣ったりはしなくても大丈夫だよ』
『そっか。がんばってね』
『ありがと』
普通なら、ここで連絡を終えるだろうけど、私の手は止まらなかった。
『あのさ』
『私に教えてくれたから、そのお返しってわけじゃないんだけど』
『?』
『わたしは、怜雄のことが好き』
驚いている狼のスタンプが、翔太郎から帰って来た。
『いつから?』
『去年の文化祭から』
『なが!』
『もう告っちゃえよ』
『それが無理なんです』
『でも俺はお似合いだと思うよ。怜雄と奈良坂のカップリング』
『ありがと』
『お互い、修学旅行頑張んないとな』
『そうだね』
”次は~○○駅~”
車内のアナウンスが流れた。
私が降りる駅だ。
『駅着いたから、じゃあね』
翔太郎から”good ruck”と書かれた看板を掲げる狼のスタンプが帰って来た。
私はそれに既読を付けて、リュックを背負った。
___________________________________
数日後
修学旅行初日の朝 バス内
奈良坂視点
『本日から3日間、5号車を担当いたします。ガイドの
『いえええええええええい!!』
『咲ちゃああん!』
男子生徒が太い声援を上げる。
その中には燐斗、翔太郎、怜雄の声もあった。
『うちのクラスの男子、こーゆー時便利だよね』
隣の座席の志渡ちゃんがボソッと言った。
『ぜったい3日目には死んでるよ』
私はリュックの中から修学旅行のしおりを取り出した。
表紙には”修学旅行のおしり”と書かれている。
(誰がデザインしたんだよ……)
私はそう思いながら表紙を見渡す。
”国語の教科書風ファンタジー新連載!! 『やまなし』!! 作画リント 原作レオ”
(君たちでしょーね!だと思ったわ!少年誌か!)
(なんだよ国語の教科書風ファンタジーって!)
私はそう思いながらページを捲った。
(見開き両面のカラー絵まで準備すな!このクラスの人数分のカラープリントすな!)
”みんなの修学旅行を案内する クラムボンだよ!!”
カニの絵から出ている吹き出しに、そう書かれている。
(クラムボンって誰だよ!小学校の国語の教科書に居たなそんな奴!国語の教科書風ってそういうことかい!)
(山梨県と宮沢賢治の”やまなし”を掛けてるんかい!無駄にうまいな!)
「奈良坂が好きな人、良い個性してるね」
同じくしおりを読んでいた志渡が、私の肩をポンポンして頷いた。
「なんでOK出たんだろうね」
私はそうため息を突きながらページを捲った。
初日はまず、バスで静岡県の海鮮を食べに行き、午後から富士山の5合目を目指す。
その後コテージにチェックインし、バスでほうとうを食べに行く。
後ろの席では、燐斗、怜雄、翔太郎、その他男子の声が盛り上がっている。
学校でもない、実家でもない、修学旅行という冒険。
しおりに突っ込みを入れながらも、私の心は確かにワクワクしていた。
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