12話「ず」
翔太郎視点
水曜日。俺が学校に通学し始めて3日目だ。
今日も怜雄、ツユと一緒に登校した。やっぱり英語や数学はつまずくけど、瀬菜の助けを借りつつ授業は何とか受けれている。
4限目の体育の時間。俺はソフトボールを選択していた。
俺たち5組のチームは守備。俺は怜雄と一緒に外野で守備をしている。
9回裏。
かちん!
ピッチャーの燐斗が投げた球が打たれ、レフトに飛んでいく。
1塁に進塁を許してしまった。
「ピッチャー燐斗~!振られんのは女だけにしとけ~」
怜雄がガヤを飛ばす。
「うっせえ!お前ら味方だろ!てか何で知ってんだ!」
バッターボックスにはツユ。
燐斗がボールを投げる。
投げられたボールは不穏な軌道を描きながらツユの胴体へ飛んで行った。
「お~!お~!乱闘すんのか5組~!」
ツユがバットを地面に置いて燐斗に向かった。
「6組もさっき危なかっただろうがよ~!?」
燐斗はグローブを地面に置いてツユの方に向かう。
「おいツユ。お前、最近彼女出来たらしいなあ?浮かれてんのか~?」
「ん~?小さくて何処から話してるのか見えないなあ?」
「んだよ~?」
「ああ~?」
ピ―ッ。
「終了~。全員片付けて~」
「うい~」
各生徒がボールを拾ったりベースを回収し始める。
「あいつら仲良いな」
と俯瞰していた怜雄が言った。
「ツユの彼女って
俺は尋ねる。
「おん。そだよ」
「どっちから告ったんだろ」
「ツユかららしいぞ」
怜雄が小声で耳打ちした。
「まじか」
俺は無言で驚いて怜雄と顔を見合わせた。
体育終了後、今日は教室で怜雄や燐斗。クラスのみんなと共に弁当を食べた。
休み時間を通して沢山のクラスメイトと話して、少しづつ関係値を築けている。
5限目開始の鐘が鳴った。 総合探求の時間だ。
「瀬菜ちゃん号令お願いします!」
担任の三輪先生が言った。
「起立!例!着席!」
「はい!今日は前から予告していた通り、文化祭の企画を決めます!」
「ここからは室長副室長の二人に、一度バトンタッチします!」
先生がそう言うと、瀬菜と燐斗が教壇に上った。
「はい。文化祭までの日数的にも、今日企画を決めないとやばいです。
企画が決まってないのは私たちのクラスだけみたいです」
瀬菜が教壇に両手をついて言った。
「ちな、3組がお化け屋敷。6組はカジノで合法賭博。1,2組は飲食らしいよ」
と燐斗が付け足す。
「ステージ系は~?」
クラスの誰かが質問した。
「ステージ企画は3年生に優先権があって、もう埋まっちゃってるみたい」
「まじか~」
「駄菓子屋とかどうっすか?」
「1年生がやるって話聞いたよ」
「もう何もないじゃん」
「私も駄菓子屋は思いついたけど、利益率が低くてお菓子配りになりかねない」
と奈良坂が言う。
「チェキ会とかどうですか~?」
女の子が手を挙げた。
「チェキ会はまだ被ってないんじゃないかな。一応候補で」
瀬菜が黒板に「ちぇきかい」と板書した。
「他なんかある?」
燐斗が皆に聞く。
「んー」
「……」
「現実性とか無視して、とりあえず候補挙げてこうぜ。んで後から引き算しよ」
と怜雄が言う。
「迷路!」
「なんか動画作って流す!」
「喫茶店!」
「人狼!」
「壁画!」
「色んな色の傘を空中にたくさん並べるやつ!」
「アトラクション系!」
「おお~結構出たじゃん」
瀬菜は黒板に並んだ文字列を見て感心する。
「はいは~い!私アトラクション系やりた~い!」
水早が手を挙げて言った。
「アトラクション系って言っても、具体的にどんなの?」
燐斗が尋ねる。
「メリーゴーランド?コーヒーカップ?的な奴。チックタック(※作中で流行しているSNS)とかでよく流れてくるやつ」
「あ~。車輪着いた椅子をパイプで繋げて、手動で回すやつね」
燐斗が納得する。
「私も、それが面白そうかな」
奈良坂が賛同する。
「俺も~」
「私も~」
「作るの大変そうだな」
「お、みんな乗り気だね~」
流れが良くなってきたので瀬菜の声色が少し明るくなった。
「怜雄とか翔太郎はどう思う?」
燐斗が尋ねて来た。
「俺は実質、文化祭初参加だし……。楽しめるならなんでも良いかな」
「部活も休んでるから、その分作業に手伝えそうだし」
「怜雄は?」
「ん~。俺部活の大会と時期が被ってるからさ~。あんまり手伝いいけそうにないんだよね~」
「だから、作業量多そうなやつを選んで良いのかって躊躇いはあるけど、アトラクション系楽しそうだとおもうよ」
「クラス全体でも聞いてみよっか。アトラクション系が良い人~」
俺も手を挙げた。クラスの大半が挙手している。
「じゃあこれ決定で~」
瀬菜が黒板に書かれた「あとらくしょん」に丸を付けた。
「はいありがとう~。アトラクションで決定したのは良いんだけどさ、どうやって作る?」
教室の後ろの方で話を聞いていた三輪先生が言った。
「文化祭前には中間テストもあるし、9月中から進めれる作業は進めとくべきだと思う」
三輪先生が付け加えた。
「本体の制作はもちろんだけど、外装・内装の装飾班にも分かれないといけない」
「クラスを本体制作班、内装班、外装班に分けようか」
瀬菜が黒板に三つの丸を書いた。
「じゃあさ、今から最大4人組で誰かとペア組んでくれない?」
「そのグループで、三つの班に分かれて入って貰うね」
瀬菜がそう言うと、クラスメイトは蜘蛛の子を散らしたように各々仲の良いメンバーと固まり始めた。
「よっ翔太郎」
怜雄が俺の隣の席に座って来た。
「俺たちはどの班にする?」
怜雄に尋ねる。
「ん~。外装かな。本体は忙しそうだし」
「りょーかい」
「はい!みんなグループに分かれたみたいだから、グループ毎に本体制作か外装か内装かで挙手してもらいます!」
燐斗が手を叩きながらみんなの注目を集める。
「じゃあ本体制作が良い人!」
「は~い」
水早、燐斗を始めとする10人程度が手を挙げている。
「おっけ~。じゃあ外装が良い人!」
俺は手を挙げる。他のグループもそこそこ手を挙げている。
「外装多いね。じゃあ内装!」
奈良坂など数人が挙手をした。
「ん~外装が多くて、その分内装が少ないから移ってくれるよって人~」
瀬菜が手を挙げながら皆に尋ねる。
「俺ら行くか」
怜雄が提案する。
「うん」
俺は挙手をした。
「お!翔太郎&怜雄ペアね~。おっけ~」
「どの班にも10人は居るから、取り敢えず決定で」
瀬菜が板書した班分けの表に丸を付けた。
「まだ時間あるし、その班ごとに別れて顔合わせしよっか。まあ知ってる者同士だろうけど」
瀬菜の提案で、各班ごとに座席を移動した。
内装班は10人ほど。その中には奈良坂ともう一人女の子の姿があった。
(志渡さんだ。この前図書館で会った時はちゃんと話せなかったな……)
「結局この4人なんだな」
怜雄が俺の隣に座り、俺、怜雄、奈良坂、志渡さんの4人グループが出来上がった。
「よろしく」
俺は奈良坂と志渡さんに挨拶をした。
「よろしくね~翔太郎」
と微笑む奈良坂。
「よろしく、翔太郎……」
志渡さんは少し俯きながら、どこか緊張した面持ちの上目遣いでそう言った。
ゆっくりと並べられた彼女の言葉に、俺の心が暖かく跳ねた気がした。
丸く大きな上目遣いの瞳。蛍光灯の明かりを乱反射させる滑らかな髪の毛。
体温が少しづつ高くなっていくのを感じる。
「なあ俺には挨拶ないの~?」
俺が返事に戸惑ったことを察した怜雄がフォローを入れてくれる。
「意外と寂しんぼね」
と奈良坂が言う。
俺は志渡さんの顔をもう一度見てみた。
一瞬、目が合ってしまった。
端正で繊細な輪郭を、俺は好きになってしまった。
2節 「我、逢ふ、人」 ー完ー
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3節 「きせき」
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