13-09 ままならない計画
「リオン、やる気になっているところ悪いが今すぐ行く事は許さん」
そうセレナがリオンをひとまず落ち着かせる、そしてネージュを見た。
「そうですわね、リオンは王宮でのマナーは身に着けてますが外交官としては素人⋯⋯とても今すぐにとは⋯⋯」
そしてネージュとセレナはしばし考える、そして⋯⋯
「銀の魔女様、ガディア行の前に北の都イスペイへ行っていただけませんか? そしてそこへわたくしとリオンも連れて行って欲しいのです」
そのネージュの提案にアリシアは、
「いいけどなんで?」
「実はわたくし、イスペイの領主であるマリリン・タートラン様とは前から話してみたいと思っていたのです」
「マリリンさんと?」
「はい、彼女は共和国の領主の中で唯一の女性⋯⋯おそらく美には関心があるはず」
美と聞いてアリシアは美容液の事かと思った。
「美容液関連でってこと?」
「その通りです、かの地イスペイはエルフィード王国から遠く離れたこの大陸の端っこです、そちらからも美容液を広めて下さる協力者になって頂けるのではと前から思っていました」
「それと今回の話、関係ある?」
「直接関係ありません、ですがそのマリリン女史とわたくしの交渉を間近でリオンに見せる事はよい経験になるのではと⋯⋯」
「なるほど⋯⋯上手い手かもしれん、それに美容液の売り込みのチャンスにもなると⋯⋯」
そうセレナも分析する、そしてネージュの計画に感心する。
「もちろん否定はしませんわ、この機会を最大限に利用して最高の利益を生み出そうとしている事は」
ネージュもきっぱりと断言する。
そして変に隠しごとをされるよりはっきりと望みや目的を言われる交渉は、アリシアにとっては好ましいものだった。
「⋯⋯なるほど、じゃあ私たちがイスペイやポルトンに行くときに便乗する計画なんだね?」
アリシアはそういった思惑がある事は別に不快など無い、どちらの国も遠くてこの機会に便乗して安全に移動したいというのは理解できる計画だからだ。
「どう思うフィリス、ミルファ? 私は連れて行く自体は大した手間にならないから別に構わないけど?」
「うーん、アリシアが受けるのは行き帰りの安全の保障だけで後の交渉には責任を一切負わない、というならいいんじゃないかな?」
「アリシア様がそれでいいなら」
一応フィリスとミルファもこの計画をアリシアが受けてくれれば、そのメリットが大きいという事は理解している。
「じゃあ連れて行くのはいいよ、でも後の事は知らないよ」
「もちろんだ、それは我々の問題だからな」
そうセレナが締めくくった。
こうして話し合いの結果エルフ族と会う為のポルトンへ向かう前に、北の都イスペイへ向かう事になった。
そしてイスペイのマリリンとの交渉にも多少は準備期間が欲しいという事なので、さらにその前に南の都セロナンへ行く事になる。
その事を通魔鏡でルミナスに伝えると向こうもガディアのエルフ族との交渉をこの際帝国もしておきたいとの事で、日程を合わせる事になった。
こうしてひとまずアリシア達は大雑把に今後の予定を纏めたのだった。
ギルドを出てアリシアがぼやく⋯⋯
「えらく面倒な事になったね」
「⋯⋯本当ねアリシア」
「どうしてこうなるのでしょう?」
そしてアリシア達が憩いを求めて食堂へと立ち寄った。
「あら魔女じゃない、辛気臭い顔しているわね」
「こんにちは魔女様」
そこにはアトラとナロンが居た。
彼女たちも休憩中なのだろう、アリシア達は冷たい飲み物を注文して同じ席に着いた。
「何かあったんですか?」
そうナロンが聞いてくる、彼女にとっては気になる事は出来るだけ知ってそれを本のネタにしたいという考えもあった。
「楽しい旅行になると思っていたら、めんどくさそうな事が重なってね⋯⋯」
「アリシア、あんまり詳しくは話しちゃだめよ」
そうフィリスが釘を刺す。
「旅行? どこへ?」
しかしアトラが食いついた。
アリシアとフィリスは目を合わせて行き先を言うくらいなら構わないと判断した。
「セロナンだよ」
「セロナンですって!?」
「あの砂ばっかりの国の?」
とくにアトラの反応は激しかった。
「アトラ貴方あの国に何かあるの?」
そうフィリスが訊ねる。
「あの国にはちょっと恨みがあってね」
「恨み?」
そしてその理由をアトラは語った。
「あの国の海岸には私たち人魚族が歌えるステージがあるのよ、でも陸の上にも劇場があってそこへ連れて行けって頼んだのに連れていてくれなかったのよ!」
「犯罪になるかもしれないのを恐れただけでは?」
そうミルファは分析した。
「そんなの知ったこっちゃないわよ、アトラが歌いたいのに歌わせなかったのよ、そこは!」
アリシアはその話を聞いても特に何も感じない、アトラが身勝手なのは今に始まった事ではないからだ。
「いいわ、連れて行きなさいアトラもそこへ! 今なら足がある! 今度は自分の足で行って歌ってやるんだから!」
アリシアにとって最後の楽しいだけの旅行に、厄介な案件がまた追加された瞬間だった。
「もう旅行やめようかな⋯⋯」
「アリシア、今回は諦めましょう、また次があるわよ」
「お仕事だと割り切れば案外気楽な案件ですよ」
フィリスとミルファは今更やめる訳にはいかなくなった計画に、アリシアが責任を持つ必要は無いと考えている。
結局はアリシアの行動を周りの人が利用しているだけなのだから。
そしてアリシアも半ば自棄になってきた。
「いいよ、アトラも連れて行ってあげる、でも知らないよ、そこで何があっても」
「ええ、構わないわ」
「ナロンはどうする?」
ついでにナロンも誘ってみるアリシアは、毒を食らわば皿までの心境だった。
「うーん、仕事があるからなー」
アトラの洗濯業と違ってナロンの鍛冶はそう簡単には休めない。
なのでナロンは今回は断った。
こうしてアリシアの立てた計画、共和国巡りツアーは当初の想像とはかけ離れたものになってしまったのだった⋯⋯
フィリスは魔の森を経由してお城へと戻った。
そして兄であるアレクに今日決まった事を話した。
「⋯⋯そうか、そうなったか。 わかった、各国にはその日程で予定を伝えておこう」
そう言って話を打ち切ろうとしたアレクにフィリスは⋯⋯
「ねえ兄様、アリシアやリオンに負担をかけすぎじゃない?」
そう苦言を伝える。
「⋯⋯確かに今回は軽率な事が多かった、アリシア殿が断らないからつい甘えてしまった、これ以上負担をかけないよう配慮しないとな」
これまでアレクとアリシアの間での交渉でアリシアは「出来ない」といった事は何度かある。
だがしかしこれまで「やりたくない」と言って断った事はなかった。
それはアリシアが自身の成長を望んでる事が理由だ。
それにアレクは甘えて付け込んでいる事をフィリスに指摘されて、気付いた。
「アリシアは今回は許してくれたけど、ちょっと危ない所まできている気がしたわ⋯⋯」
「⋯⋯そうか」
アレクは深く反省した。
しかし今回の事は今後の世界には必要な事だった。
「それと兄様、リオンに期待しすぎじゃない?」
「リオンとの婚姻が我が国の利益になると証明しなければ、たとえ認められたとしてもその後のリオンにとっては辛いものになる、もしこの件が駄目なら⋯⋯いやそうならないよう全力でサポートする」
「⋯⋯私も手を貸すわ。 でも兄様の為じゃない、アリシアやリオンが幸せになる為よ」
「ああ、お前はそれでいい⋯⋯頼む」
そしてフィリスはアレクの部屋を出て行った。
「リオン、アリシア殿⋯⋯それにフィリス。 ままならないな⋯⋯」
アレクは己の無力さを痛感する。
自分が本当にこの国の王にちゃんとなれるのか不安になる。
リオンとの婚姻、アリシアとの友好、世界との講和⋯⋯アレクに課せられる責務は重い。
それでもアレクは進む⋯⋯この世界の為に。
そして自分自身の為に⋯⋯
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